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第一章 魔法士学校編
第十七話 水も滴る良い男
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「貴様ら早く席に着け。授業を始めるぞ」
俺がこの学校に来てから一週間が経った。ベガとアトリアは相も変わらず毎日ハードな授業を受けている。
一方、肝心の俺はというと、未だ成長も無くミラ先生と一対一の個別授業である。
「ミラ先生、質問があるのですが……」
「何だ、言ってみろ」
「いつになったら魔法の実践授業をしてくれるのでしょうか?」
一週間しか経っていないとはいえ、俺には二ヶ月しか猶予がないらしい。ここでいつまでも勉強をしているより、ベガとアトリアに混ざって魔法の練習をした方がいいんじゃないか?
「貴様は何か勘違いをしているな。いいか、貴様の魔力容量を測定した時に出た数値はいくつだ?」
「ゼロです……」
「そうだゼロだ。魔力がゼロの人間がいきなり魔法を使おうとしても発動するわけがないだろ」
「ですが卒業まで二ヶ月ですよ、そんな悠長な事をしている時間があるのでしょうか?」
「そこは心配するな。もう少しすれば貴様もベガやアトリアの授業に参加させてやる。そうなれば嫌と言っても辞めることなど許されないから覚悟しておけ」
「彼方お前さぁ、教室で授業の方がいいぞ。毎日俺たちがボロボロになって帰ってくるのを見てるだろ」
確かにアレを見ると身体が震えるほど怖いんだよな。一体何の訓練をさせられているのだろうか、知らぬが仏だよな。
「ベガは今良い事を言った。本日は私の気まぐれにより彼方をベガとアトリアの授業に参加させる事にしよう」
やばい終わった……平和の時間は今日までだったか。
「とりあえず三人、今すぐグラウンドに行け。私は後から行く」
ベガとアトリアの二人は元気よく返事をして、軽い足取りでグラウンドに向かった。俺は二人の後をついて行った。
グラウンドに到着すると、すぐにミラ先生がやって来た。
「今から授業を始める。練習メニューはいつも通りだが、今日は彼方が初日のため練習量は抑えめでいく」
ああ良かった、鬼教官だと思っていたが先生にも案外良心があるんだな。これなら続けられそうだ。
「ではまずはグラウンドを100周だ。用意始め」
「はい!!」
「ーーいやいやいやちょっと待って待って!!」
いや、二人揃って『はい!!』 じゃないから、なんですぐに受け入れてるんだよ。
「どうした、何か質問か?」
「先生、桁がおかしいです、一つおかしいです!」
「確かに桁がおかしいよなー、普段なら1000周だもんなー」
「ーーせっ、せん……?」
ベガの発言に驚愕し、一瞬めまいがしたが何とかその場に踏みとどまった。
いつもなら1000周走っているとか、どんな拷問だよ。拷問というのなら一層の事殺してくれ。
「確かにいつもなら1000周は走ってもらうが、今回は彼方がいるからな。それとも貴様は1000周の方が良かったか? なら今からでもーー」
「100周でお願いします……」
もう受け入れるしかない……状況が異常だと思っているのはこの中で俺しかいないのだから。三対一の構図で勝てるわけがない。
「ちなみにこのグラウンドって一周何メートルあるのでしょうか?」
200でありますように200でありますように200でありますように200でありますように……
「一周は1000メートルだ。分かったらさっさと行ってこい」
はい終わったー。俺今から100キロ走るの? 歩いてもキツいはずなのに走るってなんだよ。こんなの一日で走り切れるわけないだろ。
これはどこかのタイミングでサボるしかないよな。でなければ完走なんて不可能だ。
そんな事を考えつつ、いざ走ってみると意外にも自分の脚が思いの外動けるという事に気がついた。
学生時代は帰宅部を貫いてきた俺がこんなに走れるとは思ってもいなかったので、この調子ならいけるのではないかと思ったのも束の間、ベガとアトリアを見てみると……
ものすごいスピードで走っていた。到底追いつける速さではない勢いで、勝負をしているかのように二人は、走り去っては俺の横を駆け抜けていく。
あいつら絶対魔法を使ってるだろ。良いよな魔法を使える奴らは。
しかしミラ先生が見ている中で走っているのに、魔法を使っても大丈夫なのだろうか? こういう不正のようなやり方をミラ先生が許すとは思えないが魔法士学校だからこれが普通なのか。どちらにせよ魔法が使えない俺にはどうでもいい話だ。
あとでベガかアトリアにバフのような魔法をかけてもらうか。速度上昇とか体力維持みたいな魔法があれば良いが。
俺が七周目に突入したあたりで衝撃の事実が発覚した。どうやらアトリアが百周を完走したらしい。
信じられない、早すぎるだろ……だが信じるしかない。目の前で走る姿を見てしまったら、これがまた凄まじい。竜巻でも起こるのではないかと思えるほどの速度でグラウンドを何周もしていたのだから。
続いて少し遅れてベガが完走。こいつに関しては俺の横を通る度に、おそいなーとか、歩いてんの?
とか煽ってくるから腹が立って仕方がない。
とりあえず二人のところに行って魔法をかけてもらおう。
「あのー、ベガさんかアトリアさん、すみませんが速度上昇か体力維持の魔法があれば俺にかけてくれませんかね?」
「彼方君、そんな事をしても意味がないよ。これは授業なんだから自分の力で走らないと自分の為にならないよ」
アトリアさん、ド正論です……
「そうだぞ、それに百周くらい魔法なんて使わなくても自力で走れる距離だろ普通」
ベガお前は黙ってろ。
「……分かった、頑張ってみるよ」
「頑張ってね! 応援してるから」
とは言ったものの、まだまだ完走まで程遠いよな。ミラ先生も近くにいるしどうしたものか……
とりあえず頑張るって言った以上、しばらく自力で走ってみよう。
二十周が過ぎた。時間は二時間は経っているであろうこの状況で喉が渇いてきた。普通この距離を走れば水分補給は必須だ。このままではまた倒れてみんなに迷惑をかけてしまう。
アトリアの方に目をやると、心配そうな眼差しで俺を見ている。本当に良い子だよな。
ベガはアトリアの横で堂々と寝ている。気が散るからどこかへ行ってほしい。
ヘトヘトになりながら走っていると、心配していたアトリアが俺の横に駆け寄ってきた。
「大丈夫? なんだかすっごく疲れているみたいだけど……」
「だっ、大丈夫だいじょうぶ……そっ、それより……水、とか持ってない?」
「喉が渇いたんだね、任せて! 今は水は持ってないけどーー」
アトリアはおもむろに手を俺の前に出し魔法を使った。
「いくよ、〈ルナ・アクア〉」
その瞬間、俺の頭上から大量の水が降り注いだ。水圧で負けてしまいそうなその水の量は、例えるなら学校のプールを巨人が担いで俺に注いでいるようだった。
「あ、アトリアさん溺れる溺れるおぼぼぼぼぼぼーー」
「ごめんね、この魔法最近覚えたばかりで力加減が分からないの」
「いや、助かったよ……水分補給はできた。汗も流せたし、ありがとう」
水は止まったが地面が濡れて走り辛そうだ。最悪のコンディションで走らなければならないと思うと気が遠くなる……
待てよ、もしかしたらこれは使えるかもしれないぞ。
現状を打開する策が頭に浮かんだ。その策は水を大量に必要とするものだ。
「アトリアさーん、もう一回水の魔法を出来れば最大魔力で使って頂けないでしょうか?」
「やっぱりさっきの量じゃ足りないよね。了解、じっとしててね。あっ、飲むなら上を向いていた方がいいかもしれないよ」
善意で俺に魔法を使ってくれているアトリアを騙しているようで申し訳ないが、ここは作戦成功の為に許してくれ。
グラウンド一面を水で海の様にすれば走れなくなるからこの授業も終わらせることができるはずだ。
「それじゃあいくよ〈ルナ・アクアエンド〉」
上を向いていた俺に魔法による水が襲いかかる。さっきよりも遥かに強烈な水圧はまるで津波のーー
「あばばばばばばばばばばばばばばばーー」
マジかよこれ、顎が外れそうだ。顎が地面につくぞこれ。
て言うか立ち上がれない程に水が体を抑えつけてくる。溺れてしまう。息ができない。
意識がとびかけた瞬間、水と俺の体は地面を離れ急浮上した。
「彼方、貴様何をしている」
俺の横には空に浮いているミラ先生の姿があった。俺も浮いている。下を見るとアトリアが俺を見ながら心配そうな表情をしている。
どうやらミラ先生が魔法で助けてくれたみたいだ。それにしてもこの水の量を全て浮遊させるとか、スケールが違いすぎる。化物かよ。
その後ミラ先生は水だけを太陽まで飛ばして、全て蒸発させた。
俺はと言えば、みっともなくミラ先生にお姫様抱っこをされながら地上におろされたのだった。
俺がこの学校に来てから一週間が経った。ベガとアトリアは相も変わらず毎日ハードな授業を受けている。
一方、肝心の俺はというと、未だ成長も無くミラ先生と一対一の個別授業である。
「ミラ先生、質問があるのですが……」
「何だ、言ってみろ」
「いつになったら魔法の実践授業をしてくれるのでしょうか?」
一週間しか経っていないとはいえ、俺には二ヶ月しか猶予がないらしい。ここでいつまでも勉強をしているより、ベガとアトリアに混ざって魔法の練習をした方がいいんじゃないか?
「貴様は何か勘違いをしているな。いいか、貴様の魔力容量を測定した時に出た数値はいくつだ?」
「ゼロです……」
「そうだゼロだ。魔力がゼロの人間がいきなり魔法を使おうとしても発動するわけがないだろ」
「ですが卒業まで二ヶ月ですよ、そんな悠長な事をしている時間があるのでしょうか?」
「そこは心配するな。もう少しすれば貴様もベガやアトリアの授業に参加させてやる。そうなれば嫌と言っても辞めることなど許されないから覚悟しておけ」
「彼方お前さぁ、教室で授業の方がいいぞ。毎日俺たちがボロボロになって帰ってくるのを見てるだろ」
確かにアレを見ると身体が震えるほど怖いんだよな。一体何の訓練をさせられているのだろうか、知らぬが仏だよな。
「ベガは今良い事を言った。本日は私の気まぐれにより彼方をベガとアトリアの授業に参加させる事にしよう」
やばい終わった……平和の時間は今日までだったか。
「とりあえず三人、今すぐグラウンドに行け。私は後から行く」
ベガとアトリアの二人は元気よく返事をして、軽い足取りでグラウンドに向かった。俺は二人の後をついて行った。
グラウンドに到着すると、すぐにミラ先生がやって来た。
「今から授業を始める。練習メニューはいつも通りだが、今日は彼方が初日のため練習量は抑えめでいく」
ああ良かった、鬼教官だと思っていたが先生にも案外良心があるんだな。これなら続けられそうだ。
「ではまずはグラウンドを100周だ。用意始め」
「はい!!」
「ーーいやいやいやちょっと待って待って!!」
いや、二人揃って『はい!!』 じゃないから、なんですぐに受け入れてるんだよ。
「どうした、何か質問か?」
「先生、桁がおかしいです、一つおかしいです!」
「確かに桁がおかしいよなー、普段なら1000周だもんなー」
「ーーせっ、せん……?」
ベガの発言に驚愕し、一瞬めまいがしたが何とかその場に踏みとどまった。
いつもなら1000周走っているとか、どんな拷問だよ。拷問というのなら一層の事殺してくれ。
「確かにいつもなら1000周は走ってもらうが、今回は彼方がいるからな。それとも貴様は1000周の方が良かったか? なら今からでもーー」
「100周でお願いします……」
もう受け入れるしかない……状況が異常だと思っているのはこの中で俺しかいないのだから。三対一の構図で勝てるわけがない。
「ちなみにこのグラウンドって一周何メートルあるのでしょうか?」
200でありますように200でありますように200でありますように200でありますように……
「一周は1000メートルだ。分かったらさっさと行ってこい」
はい終わったー。俺今から100キロ走るの? 歩いてもキツいはずなのに走るってなんだよ。こんなの一日で走り切れるわけないだろ。
これはどこかのタイミングでサボるしかないよな。でなければ完走なんて不可能だ。
そんな事を考えつつ、いざ走ってみると意外にも自分の脚が思いの外動けるという事に気がついた。
学生時代は帰宅部を貫いてきた俺がこんなに走れるとは思ってもいなかったので、この調子ならいけるのではないかと思ったのも束の間、ベガとアトリアを見てみると……
ものすごいスピードで走っていた。到底追いつける速さではない勢いで、勝負をしているかのように二人は、走り去っては俺の横を駆け抜けていく。
あいつら絶対魔法を使ってるだろ。良いよな魔法を使える奴らは。
しかしミラ先生が見ている中で走っているのに、魔法を使っても大丈夫なのだろうか? こういう不正のようなやり方をミラ先生が許すとは思えないが魔法士学校だからこれが普通なのか。どちらにせよ魔法が使えない俺にはどうでもいい話だ。
あとでベガかアトリアにバフのような魔法をかけてもらうか。速度上昇とか体力維持みたいな魔法があれば良いが。
俺が七周目に突入したあたりで衝撃の事実が発覚した。どうやらアトリアが百周を完走したらしい。
信じられない、早すぎるだろ……だが信じるしかない。目の前で走る姿を見てしまったら、これがまた凄まじい。竜巻でも起こるのではないかと思えるほどの速度でグラウンドを何周もしていたのだから。
続いて少し遅れてベガが完走。こいつに関しては俺の横を通る度に、おそいなーとか、歩いてんの?
とか煽ってくるから腹が立って仕方がない。
とりあえず二人のところに行って魔法をかけてもらおう。
「あのー、ベガさんかアトリアさん、すみませんが速度上昇か体力維持の魔法があれば俺にかけてくれませんかね?」
「彼方君、そんな事をしても意味がないよ。これは授業なんだから自分の力で走らないと自分の為にならないよ」
アトリアさん、ド正論です……
「そうだぞ、それに百周くらい魔法なんて使わなくても自力で走れる距離だろ普通」
ベガお前は黙ってろ。
「……分かった、頑張ってみるよ」
「頑張ってね! 応援してるから」
とは言ったものの、まだまだ完走まで程遠いよな。ミラ先生も近くにいるしどうしたものか……
とりあえず頑張るって言った以上、しばらく自力で走ってみよう。
二十周が過ぎた。時間は二時間は経っているであろうこの状況で喉が渇いてきた。普通この距離を走れば水分補給は必須だ。このままではまた倒れてみんなに迷惑をかけてしまう。
アトリアの方に目をやると、心配そうな眼差しで俺を見ている。本当に良い子だよな。
ベガはアトリアの横で堂々と寝ている。気が散るからどこかへ行ってほしい。
ヘトヘトになりながら走っていると、心配していたアトリアが俺の横に駆け寄ってきた。
「大丈夫? なんだかすっごく疲れているみたいだけど……」
「だっ、大丈夫だいじょうぶ……そっ、それより……水、とか持ってない?」
「喉が渇いたんだね、任せて! 今は水は持ってないけどーー」
アトリアはおもむろに手を俺の前に出し魔法を使った。
「いくよ、〈ルナ・アクア〉」
その瞬間、俺の頭上から大量の水が降り注いだ。水圧で負けてしまいそうなその水の量は、例えるなら学校のプールを巨人が担いで俺に注いでいるようだった。
「あ、アトリアさん溺れる溺れるおぼぼぼぼぼぼーー」
「ごめんね、この魔法最近覚えたばかりで力加減が分からないの」
「いや、助かったよ……水分補給はできた。汗も流せたし、ありがとう」
水は止まったが地面が濡れて走り辛そうだ。最悪のコンディションで走らなければならないと思うと気が遠くなる……
待てよ、もしかしたらこれは使えるかもしれないぞ。
現状を打開する策が頭に浮かんだ。その策は水を大量に必要とするものだ。
「アトリアさーん、もう一回水の魔法を出来れば最大魔力で使って頂けないでしょうか?」
「やっぱりさっきの量じゃ足りないよね。了解、じっとしててね。あっ、飲むなら上を向いていた方がいいかもしれないよ」
善意で俺に魔法を使ってくれているアトリアを騙しているようで申し訳ないが、ここは作戦成功の為に許してくれ。
グラウンド一面を水で海の様にすれば走れなくなるからこの授業も終わらせることができるはずだ。
「それじゃあいくよ〈ルナ・アクアエンド〉」
上を向いていた俺に魔法による水が襲いかかる。さっきよりも遥かに強烈な水圧はまるで津波のーー
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マジかよこれ、顎が外れそうだ。顎が地面につくぞこれ。
て言うか立ち上がれない程に水が体を抑えつけてくる。溺れてしまう。息ができない。
意識がとびかけた瞬間、水と俺の体は地面を離れ急浮上した。
「彼方、貴様何をしている」
俺の横には空に浮いているミラ先生の姿があった。俺も浮いている。下を見るとアトリアが俺を見ながら心配そうな表情をしている。
どうやらミラ先生が魔法で助けてくれたみたいだ。それにしてもこの水の量を全て浮遊させるとか、スケールが違いすぎる。化物かよ。
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