53 / 89
公爵令嬢の婚約事情
帰って来ました
しおりを挟む
数日かけてドルフィーニに到着したナディア達は、まずは王都のサルトレッティ公爵家に向かった。
一応、フィリップとルディアが王都に先に来ていたからだ。
と言うか、弟であるレイナードも一緒にいるそうなので、これで家族が勢ぞろいになる。
レイナードがいる理由は、学友であるローデウェイクの為だろう。まさか友人が自分の姉に婚約を申し込むとは思っていなかっただろうと、ナディアは苦笑せざるを得なかった。
実際にはレイナードがローデウェイクにナディアの事を聞かされていたので、こうなると予測はできていたが。
とにかく大所帯でサルトレッティ公爵家に寄る事に少し気が引けたが、エラディオを引き連れて戻る事に意味があるのだ。
「で、これは一体どういう状況ですか?」
家に着いたはいいが、応接室にがすでに来客があったのだ。
「ナディア嬢!お久しぶりです」
「久しぶりだな、ナディア嬢!」
「…ええ、お二人共お久しぶりです」
目の前にはフィリップと対面して座るローデウェイクとマティアスがの姿があった。
二人はナディアを見て嬉しそうに立ち上がるが、ナディアをエスコートしているエラディオを見て、表情が一気に強ばった。
「何故、ザクセンの王弟殿下がナディア嬢のエスコートを?」
マティアスがエラディオを責めるような視線を向け、そしてナディアには微笑みを向ける。
何というか、器用な人だとナディアは場違いにも感心した。
けれどエラディオは全く動じる事なくマティアスの問いに答える。
「俺の大事な婚約者だからだが、何か問題でも?」
「…これは聞き間違いか。ナディア嬢はまだ誰とも婚約関係になっていないはずだが」
「そうだ!彼女はまだ誰の婚約の申し出も受けていないと、先程確認したばかりだ!」
マティアスに続いてローデウェイクもエラディオに抗議する。
それを見てナディアとエラディオは顔を見合わせ、そして父であるフィリップに視線を移した。
「お父様、私からのお手紙はまだ届いていないのですか?」
ナディアが訪ねると、フィリップは申し訳なさそうに頷いた。
「届いてはいるが、見る前に殿下達が来られたのだ。だからまだ開封していない」
「まあ」
タイミングが悪いとはこの事だ。
ナディアからの手紙にはきちんとエラディオの申し出を受けると書いてあった。
だがそれを見る前に他国の王族が訪問して来た為、手紙を後回しにした事でナディアの意向を二人に伝える事ができなかったようだ。
「ローデウェイク王子殿下、カイラモ大公殿下。お二人には申し訳ありませんが、私はこちらのエラディオ様の求婚をお受けする事にしました。その事についてお父様にお手紙を出したのですが、前後してしまったようで申し訳ありませんでした」
「そんな…嘘だろ、ナディア嬢…!」
「ナディア嬢、あの時婚約が白紙になったら私との事を考えて欲しいと言ったではありませんか」
「確かにカイラモ大公殿下にはそう言われましたが、その時にならないと分からないとも申し上げました。ローデウェイク王子殿下に至っては、ただ少し一緒に遊んだだけでしたし、そもそもお忍びで正式に名乗ってもらってませんでしたよね?」
ナディアにハッキリと拒絶され、二人は絶句している。
それを横目で見ていたエラディオは、崩れそうになる表情を必死に取り繕っていた。
好いた女性が他の男に求婚されるのはいい気がしないが、こうもはっきりと眼中にないと言ってくれると、どうしても優越感が出て来る。
けれど目の前の二人はそんなくらいでは納得いかないらしく、今度はフィリップに食い入るように申し出た。
「サルトレッティ公爵殿、これでは不公平だと思います」
「そうだ!ザクセン王弟殿下はジョバンニ殿下との婚約破棄後にこちらにいたと聞いている!傷心のナディア嬢に付け入ったのかもしれないだろう!」
「付け入るとか人聞き悪いな」
「いえ、サーシス第一王子の言う事も尤もだと思いますね。私達は出遅れましたが、ナディア嬢と接する時間を設けてもらいたい。その上で彼女がザクセン王弟殿下を選ぶのなら、仕方ありませんが身を引く事も考えましょう」
そこでキッパリと身を引くと言わない辺りがずるい所だ。
というか、何故この二人がここまで自分にこだわるのか理解できず、ナディアは不思議そうに首を傾げた。
「そのような時間を設けても私の気持ちは変わりません。それよりも何故そこまで私にこだわるのです?」
「は?」
「え?」
「ナディア…」
ナディアの質問にローデウェイクとマティアスが信じられないような視線を向け、逆にフィリップは残念な子供を見るような目でナディアを見た。
三人の視線が気まずかったのか、ナディアがちょっとだけ狼狽える。
「な、何ですの?」
「ナディア、さすがにその質問は…」
「ああ、何かライバルだが二人が気の毒になってきたぜ…」
「何ですか、お父様もエラディオ様も…。お二人が私との婚約を希望されてる理由を知りたいと思うのは普通ではありませんか」
ナディアがむっとしたように告げると、ローテウェイクがスッと立ちあがり、ナディアの前に膝をついた。
「ナディア嬢。俺は一年前に貴女と過ごしたあの時、ナディア嬢が好きになったんだ。婚約はナディア嬢の事を好きだから申し込んだ」
「え」
ローテウェイクの言葉にナディアが僅かに目を瞠る。すると次いでマティアスもナディアの前に跪いた。
「私も半年前の公務での訪問の際、ナディア嬢がジョバンニ殿下の代わりに私の相手をしてくれた。その時に聡明で美しく思慮深い貴女に心を奪われました」
「え」
マティアスがローデウェイクに負けじと告白をする。
驚いて目を見開くが、冷静になって周辺に視線を向けると、何とも言えない表情を浮かべたフィリップと、面白くなさそうに二人を見つめるエラディオの姿が視界に入ってくる。
けれど二人は声を合わせるようにナディアに追い打ちをかけた。
「どうか俺と」
「どうか私と」
「「婚約してください」」
すーっと血の気が引く。
一瞬現実逃避しそうになるのをぐっと堪え、ナディアは貼り付けたような笑みを浮かべた。
「申し訳ありませんが、お断りいたします」
「よし、よく言った!」
「え?」
ナディアがキッパリと断りを入れると、エラディオが嬉しそうにナディアを褒めた。
思わず間抜けな声が出てしまったが、振り返るとエラディオが勝ち誇った顔をしている。
だがしかし、さすがは王族だ。
二人共薄っすらと笑みを浮かべ、そしてナディアに微笑んだ。
「断るのはもう少し待って欲しい」
「私達の事をもっと知ってからでもいいのではないですか?」
「そう言われましても…お二人の事をよく知ったとしても、気持ちは変わらないと思いますわ」
「だがこのままだと諦めきれない」
「ザクセン王弟殿下のお気持ちがどのくらい本物かも知っておきたい」
「は?俺の気持ちを疑うってのか?」
マティアスの言葉にエラディオがジロリと睨みつける。けれどマティアスも引く気はないらしく、フンと鼻で笑ってみせた。
「当然だろう?我々はそれ程接点はないが、王族として近隣の国については知っている。貴殿はザクセン国の国王に忠誠を誓っていて、継承権も放棄している。王太子である王子が成人し、婚姻を結ぶまでは誰とも結婚しないと聞いていたが?」
「結婚しなくても婚約はできるぜ」
「そういう屁理屈を聞いているのではない。そもそも結婚自体しないと宣言していたと思ったが、それは覆すのか?」
「唯一に出会っちまったからな。諦めるのは無理だ」
「勝手な理由だ。貴殿がそうする事によって、ナディア嬢がザクセンで不当な扱いを受けるかもしれないだろう?」
「それはあんた達も同じだろう。大公殿下も第一王子もどちらも王族だ。他国の令嬢を婚約者として連れて帰れば、娘を王族の妃にと考えていた貴族達の反感を買うだろ」
「サーシス国第一王子殿下はそうかもしれないが私は違う」
「おい!俺はナディア嬢を不当に扱う奴を許すつもりはない!」
「言葉だけなら何とでも言えるさ」
「お待ちください!!!!」
好き勝手に言い合いをしだす男達にナディアが声を上げて制止する。
三人はピタリと言葉を止め、ナディアに視線を向けた。
ナディアはチラリとフィリップを見たが、フィリップがコクリと頷くのを確認して自身も頷く。そして三人に向き直り、キッパリと自分の気持ちを告げた。
「ドルフィーニ国に滞在なさる事に何も言う気はありませんわ。ですが、お二人の都合に合わせて私が時間を作る事はいたしません。それでも構わなければお好きになさってください」
「それで構いませんよ」
「俺も異論はない」
「俺は異論しかねぇがな」
エラディオが面白くなさそうに告げると、ナディアが苦笑を漏らす。
「お父様。とりあえず帰国した事を国王陛下にご報告したいと思います」
「そうだな。ジョバンニ殿下の事もあるし、この後王宮へ向かう事にしよう」
「はい。エラディオ様も一緒に行ってくださいますか?」
「当然だろ。その為にドルフィーニに来たんだ」
「フフフ、ありがとうございます」
ナディアが嬉しそうに笑うと、エラディオも表情を崩す。
だがローデウェイクとマティアスも城に戻ると言うので、結局全員で城に向かう事になった。
ナディアはエラディオが用意した馬車、つまりザクセン王家の馬車に乗る事になり、ローデウェイクとマティアスは最後まで文句を言っていたが、そこはエラディオが強引に押し切った。
フィリップはナディアの意思を尊重すると言って、特に反対する事もなくサルトレッティ公爵家の馬車で王宮に向かった。
ローデウェイクとマティアスも、サルトレッティ家に来る時に乗ってきた馬車に乗りこむ。エラディオが引き連れて来た護衛達と、ローデウェイクとマティアスの護衛、それにサルトレッティ家の騎士団が追随する形になり、人目を集める程の大所帯になってしまった。
「…目立ちすぎですわ」
「しょーがねぇだろ。アイツ等も王族なんだし、俺もかなりの人数を連れて来てる。ま、お前の王都への凱旋なんだから、このくらいじゃねぇと面白くねぇよ」
「面白くする必要はないのでは?」
「ばーか。お前を陥れた奴等や、噂を少しでも真に受けてた奴等が、この行列を見てちったぁ驚けばいいんだよ」
「私はエラディオ様が分かってくださっていればそれで構いませんわ」
「…何でそういう可愛い事言うんだよ」
可愛い事を言った覚えはないが、エラディオが悶えている。
その姿を見ているとクスクスと笑いが込み上げ、そして何だか胸が暖かくなった。
好きな人に可愛いと言ってもらえる事が、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
そして、しばらくしてようやく王宮に着いたナディア達は、謁見の間で会いたくなかった人物に遭遇する事になったのだった。
一応、フィリップとルディアが王都に先に来ていたからだ。
と言うか、弟であるレイナードも一緒にいるそうなので、これで家族が勢ぞろいになる。
レイナードがいる理由は、学友であるローデウェイクの為だろう。まさか友人が自分の姉に婚約を申し込むとは思っていなかっただろうと、ナディアは苦笑せざるを得なかった。
実際にはレイナードがローデウェイクにナディアの事を聞かされていたので、こうなると予測はできていたが。
とにかく大所帯でサルトレッティ公爵家に寄る事に少し気が引けたが、エラディオを引き連れて戻る事に意味があるのだ。
「で、これは一体どういう状況ですか?」
家に着いたはいいが、応接室にがすでに来客があったのだ。
「ナディア嬢!お久しぶりです」
「久しぶりだな、ナディア嬢!」
「…ええ、お二人共お久しぶりです」
目の前にはフィリップと対面して座るローデウェイクとマティアスがの姿があった。
二人はナディアを見て嬉しそうに立ち上がるが、ナディアをエスコートしているエラディオを見て、表情が一気に強ばった。
「何故、ザクセンの王弟殿下がナディア嬢のエスコートを?」
マティアスがエラディオを責めるような視線を向け、そしてナディアには微笑みを向ける。
何というか、器用な人だとナディアは場違いにも感心した。
けれどエラディオは全く動じる事なくマティアスの問いに答える。
「俺の大事な婚約者だからだが、何か問題でも?」
「…これは聞き間違いか。ナディア嬢はまだ誰とも婚約関係になっていないはずだが」
「そうだ!彼女はまだ誰の婚約の申し出も受けていないと、先程確認したばかりだ!」
マティアスに続いてローデウェイクもエラディオに抗議する。
それを見てナディアとエラディオは顔を見合わせ、そして父であるフィリップに視線を移した。
「お父様、私からのお手紙はまだ届いていないのですか?」
ナディアが訪ねると、フィリップは申し訳なさそうに頷いた。
「届いてはいるが、見る前に殿下達が来られたのだ。だからまだ開封していない」
「まあ」
タイミングが悪いとはこの事だ。
ナディアからの手紙にはきちんとエラディオの申し出を受けると書いてあった。
だがそれを見る前に他国の王族が訪問して来た為、手紙を後回しにした事でナディアの意向を二人に伝える事ができなかったようだ。
「ローデウェイク王子殿下、カイラモ大公殿下。お二人には申し訳ありませんが、私はこちらのエラディオ様の求婚をお受けする事にしました。その事についてお父様にお手紙を出したのですが、前後してしまったようで申し訳ありませんでした」
「そんな…嘘だろ、ナディア嬢…!」
「ナディア嬢、あの時婚約が白紙になったら私との事を考えて欲しいと言ったではありませんか」
「確かにカイラモ大公殿下にはそう言われましたが、その時にならないと分からないとも申し上げました。ローデウェイク王子殿下に至っては、ただ少し一緒に遊んだだけでしたし、そもそもお忍びで正式に名乗ってもらってませんでしたよね?」
ナディアにハッキリと拒絶され、二人は絶句している。
それを横目で見ていたエラディオは、崩れそうになる表情を必死に取り繕っていた。
好いた女性が他の男に求婚されるのはいい気がしないが、こうもはっきりと眼中にないと言ってくれると、どうしても優越感が出て来る。
けれど目の前の二人はそんなくらいでは納得いかないらしく、今度はフィリップに食い入るように申し出た。
「サルトレッティ公爵殿、これでは不公平だと思います」
「そうだ!ザクセン王弟殿下はジョバンニ殿下との婚約破棄後にこちらにいたと聞いている!傷心のナディア嬢に付け入ったのかもしれないだろう!」
「付け入るとか人聞き悪いな」
「いえ、サーシス第一王子の言う事も尤もだと思いますね。私達は出遅れましたが、ナディア嬢と接する時間を設けてもらいたい。その上で彼女がザクセン王弟殿下を選ぶのなら、仕方ありませんが身を引く事も考えましょう」
そこでキッパリと身を引くと言わない辺りがずるい所だ。
というか、何故この二人がここまで自分にこだわるのか理解できず、ナディアは不思議そうに首を傾げた。
「そのような時間を設けても私の気持ちは変わりません。それよりも何故そこまで私にこだわるのです?」
「は?」
「え?」
「ナディア…」
ナディアの質問にローデウェイクとマティアスが信じられないような視線を向け、逆にフィリップは残念な子供を見るような目でナディアを見た。
三人の視線が気まずかったのか、ナディアがちょっとだけ狼狽える。
「な、何ですの?」
「ナディア、さすがにその質問は…」
「ああ、何かライバルだが二人が気の毒になってきたぜ…」
「何ですか、お父様もエラディオ様も…。お二人が私との婚約を希望されてる理由を知りたいと思うのは普通ではありませんか」
ナディアがむっとしたように告げると、ローテウェイクがスッと立ちあがり、ナディアの前に膝をついた。
「ナディア嬢。俺は一年前に貴女と過ごしたあの時、ナディア嬢が好きになったんだ。婚約はナディア嬢の事を好きだから申し込んだ」
「え」
ローテウェイクの言葉にナディアが僅かに目を瞠る。すると次いでマティアスもナディアの前に跪いた。
「私も半年前の公務での訪問の際、ナディア嬢がジョバンニ殿下の代わりに私の相手をしてくれた。その時に聡明で美しく思慮深い貴女に心を奪われました」
「え」
マティアスがローデウェイクに負けじと告白をする。
驚いて目を見開くが、冷静になって周辺に視線を向けると、何とも言えない表情を浮かべたフィリップと、面白くなさそうに二人を見つめるエラディオの姿が視界に入ってくる。
けれど二人は声を合わせるようにナディアに追い打ちをかけた。
「どうか俺と」
「どうか私と」
「「婚約してください」」
すーっと血の気が引く。
一瞬現実逃避しそうになるのをぐっと堪え、ナディアは貼り付けたような笑みを浮かべた。
「申し訳ありませんが、お断りいたします」
「よし、よく言った!」
「え?」
ナディアがキッパリと断りを入れると、エラディオが嬉しそうにナディアを褒めた。
思わず間抜けな声が出てしまったが、振り返るとエラディオが勝ち誇った顔をしている。
だがしかし、さすがは王族だ。
二人共薄っすらと笑みを浮かべ、そしてナディアに微笑んだ。
「断るのはもう少し待って欲しい」
「私達の事をもっと知ってからでもいいのではないですか?」
「そう言われましても…お二人の事をよく知ったとしても、気持ちは変わらないと思いますわ」
「だがこのままだと諦めきれない」
「ザクセン王弟殿下のお気持ちがどのくらい本物かも知っておきたい」
「は?俺の気持ちを疑うってのか?」
マティアスの言葉にエラディオがジロリと睨みつける。けれどマティアスも引く気はないらしく、フンと鼻で笑ってみせた。
「当然だろう?我々はそれ程接点はないが、王族として近隣の国については知っている。貴殿はザクセン国の国王に忠誠を誓っていて、継承権も放棄している。王太子である王子が成人し、婚姻を結ぶまでは誰とも結婚しないと聞いていたが?」
「結婚しなくても婚約はできるぜ」
「そういう屁理屈を聞いているのではない。そもそも結婚自体しないと宣言していたと思ったが、それは覆すのか?」
「唯一に出会っちまったからな。諦めるのは無理だ」
「勝手な理由だ。貴殿がそうする事によって、ナディア嬢がザクセンで不当な扱いを受けるかもしれないだろう?」
「それはあんた達も同じだろう。大公殿下も第一王子もどちらも王族だ。他国の令嬢を婚約者として連れて帰れば、娘を王族の妃にと考えていた貴族達の反感を買うだろ」
「サーシス国第一王子殿下はそうかもしれないが私は違う」
「おい!俺はナディア嬢を不当に扱う奴を許すつもりはない!」
「言葉だけなら何とでも言えるさ」
「お待ちください!!!!」
好き勝手に言い合いをしだす男達にナディアが声を上げて制止する。
三人はピタリと言葉を止め、ナディアに視線を向けた。
ナディアはチラリとフィリップを見たが、フィリップがコクリと頷くのを確認して自身も頷く。そして三人に向き直り、キッパリと自分の気持ちを告げた。
「ドルフィーニ国に滞在なさる事に何も言う気はありませんわ。ですが、お二人の都合に合わせて私が時間を作る事はいたしません。それでも構わなければお好きになさってください」
「それで構いませんよ」
「俺も異論はない」
「俺は異論しかねぇがな」
エラディオが面白くなさそうに告げると、ナディアが苦笑を漏らす。
「お父様。とりあえず帰国した事を国王陛下にご報告したいと思います」
「そうだな。ジョバンニ殿下の事もあるし、この後王宮へ向かう事にしよう」
「はい。エラディオ様も一緒に行ってくださいますか?」
「当然だろ。その為にドルフィーニに来たんだ」
「フフフ、ありがとうございます」
ナディアが嬉しそうに笑うと、エラディオも表情を崩す。
だがローデウェイクとマティアスも城に戻ると言うので、結局全員で城に向かう事になった。
ナディアはエラディオが用意した馬車、つまりザクセン王家の馬車に乗る事になり、ローデウェイクとマティアスは最後まで文句を言っていたが、そこはエラディオが強引に押し切った。
フィリップはナディアの意思を尊重すると言って、特に反対する事もなくサルトレッティ公爵家の馬車で王宮に向かった。
ローデウェイクとマティアスも、サルトレッティ家に来る時に乗ってきた馬車に乗りこむ。エラディオが引き連れて来た護衛達と、ローデウェイクとマティアスの護衛、それにサルトレッティ家の騎士団が追随する形になり、人目を集める程の大所帯になってしまった。
「…目立ちすぎですわ」
「しょーがねぇだろ。アイツ等も王族なんだし、俺もかなりの人数を連れて来てる。ま、お前の王都への凱旋なんだから、このくらいじゃねぇと面白くねぇよ」
「面白くする必要はないのでは?」
「ばーか。お前を陥れた奴等や、噂を少しでも真に受けてた奴等が、この行列を見てちったぁ驚けばいいんだよ」
「私はエラディオ様が分かってくださっていればそれで構いませんわ」
「…何でそういう可愛い事言うんだよ」
可愛い事を言った覚えはないが、エラディオが悶えている。
その姿を見ているとクスクスと笑いが込み上げ、そして何だか胸が暖かくなった。
好きな人に可愛いと言ってもらえる事が、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
そして、しばらくしてようやく王宮に着いたナディア達は、謁見の間で会いたくなかった人物に遭遇する事になったのだった。
10
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる