上 下
42 / 63
キリク・フェリス

しおりを挟む






「い、いやああああああ!!」


森一体にエリアナの叫び声が響き渡る。


「あたしの、あたしの……金の髪が……」


見ればエリアナのピンクゴールドだった髪が、血の色とどす黒い色が斑に混ざったような模様になり、更にパラパラと抜け落ち始めている。

あんなに輝いていた聖女の証であろう色はもう何処にも残っていない。


「貴女のじゃないよ、エリアナ。そんな髪色ものは、ただの紛い物だよ」


「違う!あたしは聖女なのよ!?」


「……見て。」


「は?何を……っ!?キャアアアア!?」


私は水魔法で姿見の鏡を作り、エリアナの前にかざす。


エリアナの今の姿は、髪色が変わっただけでなく、まるで老婆のように全身が皺がれていたのだ。


「う、うそよ、……ちょっとユリーナ!!あんたがあたしをこんな姿にしたんでしょ!元に戻しなさいよ!!」


「無理だよ。それが今の貴女の本来の姿なのだから」


「そんな、バカなこと言うんじゃないわよ!!あたしは聖女なのよ!?そうよ、聖女のあたしがこんな醜い姿なわけないでしょ!!」


「……ねぇ、エリアナ。なんでそんな姿になったか、わからないの?」


「だから、あんたがやったんでしょ!?」


「違うよ。」


「嘘つくんじゃないわよ!!」


「……」


もう何を言っても話を聞かないエリアナ、とにかく落ち着かせようと、もう一度優しく話しかけようと一歩前に出る。


「いい加減にしないか。」


「………お兄様。」

いつの間に私の立つ隣に来ていたお兄様が、

私の肩を抱きながら寄り添うように立ち、エリアナを静かなで見据えていた。


「何故そんな姿になったのか、君の呪術に掛かった私にもわかる。
ユリーナのせいじゃない。その醜い姿は、自業自得だ。」



「……う、五月蝿い!五月蝿い!!あたしは悪くない!あたしは悪くない!!……あたしは…聖女……、聖女なのよ……」



エリアナはブツブツ呟きながら、そのまま地面にへたりこんだ。


聖女なんかに拘らなければ、普通に生きられたかもしれないのに、エリアナが哀れに思えた。


「ユリーナ嬢、大丈夫か?」


「グランツアー先生も大丈夫ですか?」


「ああ、俺は捕まってただけだからな。カッコ悪い事に」


全く助けになってないなんてホントだせーよな。
なんて苦笑いする先生だが、

完全に素に戻っているのは本人も気付いていないようで、
私も可笑しくて笑った。


私が覚醒した時には既に先生の拘束は解けていた。

聖女の力でエリアス殿下も解放されたのだろう。

体が自由になっても、私達の成り行きを手を出すでもなく見守ってくれていたのはわかっていた。



助けになってないなんて言うけれど、あの時先生が来てくれた事は純粋に嬉しかった。

ありがとう、先生。


「まあ、とりあえず、エリアナは俺が王宮まで連れていくので大丈夫ですか?エリアス殿下。」


「……あぁ。頼む。」


エリアス殿下の返事を聞いた後、先生はすぐにエリアナを魔法で拘束し、そのまま連れていった。


彼女はこれから罪を償う為に、断罪されるのだろう。


私は、先生に連れられていくエリアナを目で追っているエリアス殿下の横顔を覗き見る。



「………殿下。」


「……ユリーナ嬢、操られていたとはいえ、君を傷付けた。許してくれとは言わない。すまなかった。」


殿下がそのまま土下座しそうな勢いだったので、私は慌てて止めた。

確かに傷付いたけど、そこまで気にしてないのも事実。
だから、深く深く頭を下げている殿下を戻す。


「あれが殿下の本心でない事はもちろんわかっています。だから、気にしないでください。」


「……だが……」


「それに、殿下は私の事を色々助けてくれたではないですか。それでチャラです。」


これ以上何も言わせないように、私はニッコリ微笑んだ。


「……そうか、わかった。ありがとう。」








______それから。


その日は私達の体調を鑑みて、そのまま静養とし、
翌日にエリアナの審議をすることになった。


エリアナは王宮に連れられた後、私が入っていた牢屋に入れられているらしい。


サディアス殿下と黒翼の男性は、いつの間にか居なくなっていた。

先生と私が話している間にどこかへ行ったようだった。


あの二人は何しに来たんだろう?


エリアナに操られていたと思っていたけど、今思えば何だか違うような気がする。




「ユリー。」


考え事をしていたらお兄様に抱き締められた。


「……お兄様。お兄様が生きていて良かった……。」


「それはこっちのセリフだよ。もう、あんな思いはしたくない。」


「うん、」


「私も殿下の事を言えないな。ユリーナを酷い言葉で傷付けてしまった。ごめ…」


謝ろうとしたお兄様の口に人差し指を当て言葉を塞ぐ。


「もう、その事は無しです。私達は今を生きている。これから幾らでも償いもできるのですから。」



いつまでも過去に拘るのは良くないだろう。


「そうだね。」



その夜、私達は両親と4人で一緒に眠りについた。


両親が呪いから解放されたのか、確認したかったのもある。

でもきっと、もう会えないと思って、寂しかったのだと思う。


お父様も、お母様も、泣いて私達を包んでくれた。


それだけで、私はとても幸せだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

傾国の聖女

恋愛
気がつくと、金髪碧眼の美形に押し倒されていた。 異世界トリップ、エロがメインの逆ハーレムです。直接的な性描写あるので苦手な方はご遠慮下さい(改題しました2023.08.15)

【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます

にじくす まさしよ
恋愛
R18、R18シーンは18才になってから。 タグお読みください。 難関高校に合格した私は、家族とお祝いにレストランに向かっていた。エレベーターに乗りそこに向かう途中、エレベーターが落下するような感覚に襲われる。 気がつけば、私は家族と離れ、エレベーターに同乗していたJKと共に異世界にやって来たようだ。 彼らが望んだのはJK。 不用品だけれども還せないからと、訳アリの王子たちの妻にさせられ──。 合わないと思ったかたはバックお願いいたします。 右手は出すと思います!ヒーローたち視点のモノローグあり シリアス、ロマンチック、コメディあり。いつもですね。 筋肉はもれなく、嫌だと言われてもオプションサービスとなって付随しています。 今度のマスコット(?)は絵文字にあります。 獣化状態とのR18シーンはありません。 2022.3.26HOTランキング2位、ご支援いただきありがとうございました。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。

シェルビビ
恋愛
 膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。  平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。  前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。  突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。 「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」  射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。

処理中です...