上 下
28 / 63

27

しおりを挟む




あのあと、屋上で泣きすぎたせいか私の顔は悲惨なことになってしまった。


サディアス王弟殿下はそんな私を気にして、今はもう授業もない時間だし、後は生徒会だけだろうからと、


グランツアー先生に報告して、今日は帰った方がいいと心配してもらったが、

私はこのまま帰ったら、きっと明日はもっと辛くなると思い、

己を奮い立たせて教室へと戻った。





恐る恐る教室へ入る。


すると、皆の視線が私に向けられ、ひそひそと声が聞こえた。

よく教室ここに戻って来れるな。とか、エリアナさんに謝れ。とか。


私はまた泣きそうになる気持ちをぐっと堪え、荷物を纏めるために自分の机に向かう。

そのまま鞄を持って教室を出る。


「ユリーナ!」


「…ウェルミナ?」


「貴女、どうしてあんなことしたの?彼女が貴女に?」


「………え?」


私はウェルミナの言葉が信じられなかった。
私の事への疑惑はともかく、エリアナさんのやった事を覚えていない…?


「ウェルミナ、何を言ってるの…?」


「ユリーナ、いくら貴女がエリアナさんを嫌いだからって、あれはやり過ぎよ。後でちゃんと謝りましょう?」


「…!だから、私はやってない!ウェルミナ、信じてよ!」


「まだ認めないの?」


「っ、」


ウェルミナの私に向けられた目が、私を責めているのがわかる。


「…ねぇ、ウェルミナ?ウェルミナは忘れてしまったの?エリアナさんにされた事を。」


「……エリアナさんに?」


「そうだよ…私も、殿下もそう。私達は彼女の被害者でしょう?」


思い出してよ!と、ウェルミナの肩を掴んで私は彼女に詰める。


「…っ、殿下…?ユリー…ナ?っっう、」

「ウェルミナ!?」


ウェルミナが急に頭を押さえながら苦しみだし、そのまま倒れてしまった。


「誰か!誰か助けて下さい!ウェルミナが!」


助けを呼ぶも、今私達がいる所は自分たちのクラスからも離れていて、放課後ということもあり
周りには誰も居なかった。

とにかく、ウェルミナを医務室まで運ばなければ。

そう思い、何とかウェルミナを自分の背中で支えるように持ち上げ、
医務室へと向かった。


幸い、医務室は生徒会室のある場所と同じ通りにある。方向は同じだからこのまま進めばそんなに遠くない。


やっとの事で医務室に着くと、常勤医はちょうど出ているのか誰も居なかった。


どうしようかと考えるも、とりあえずウェルミナをベッドに寝かせ、
私はベッド横の椅子に座った。


「…ウェルミナ…」


「…うぅ、」

今もまだウェルミナはつらそうにしている。

黒い靄は見えないが、やはりこれは呪いなのだろうか。


エリアナさんは、聖女になって、殿下の婚約者にもなったのに、
それだけでは足りなかったのか。


今の私にはきっと光魔法は殆ど残っていないだろう。

それでも、ウェルミナが苦しんでいるのが見ていられなくて、
彼女の右手を両手で包み、昔のように祈った。

強く、強く願う。



どうか、どうか、ウェルミナが治りますように___。









「__ユリーナ嬢。」


「…グランツアー先生…」


何時からそこにいたのだろう。ずっと祈りを込めていたせいか、
私は先生に声をかけられるまで全く気が付かなかった。


「大丈夫かい?」 


「はい、多分。ウェルミナはきっと落ち着いたと思います。」


ウェルミナの顔を見ると穏やかな表情に戻っていて、今は規則正しい寝息が聞こえてくる。

私の祈りが通じたのだろうか。とりあえず良かったと思っていると、
先生がそうじゃない、と首を振った。



「いや、彼女の事もそうだけど、私が言っているのは君の事だよ、ユリーナ嬢。」


「…私?ですか?」


「なんだ。自覚ないのかな?君も倒れそうな表情かおをしているよ?」


何かあったんだろう?そう聞いてくる先生の声は優しい。

そうだった、この先生は基本優しい人だった。

だけど、だからと先生に話す気にはならなかった。

話す事で先生を巻き込み、先生までも呪いに掛けられでもしたら、それこそ迷惑をかけたどころじゃ済まなくなる。


「…まあ、話したくないならそれでも構わないよ。」


愚痴位は聞いてあげるから。そう言うと先生は柔らかく笑った。


「そういえば、先生はどうしてここに?」


「あぁ、ケインとフレイが、君たちや殿下が来ないから心配していてね。」


そうだ、自分達は生徒会室へ行く途中だったということを思い出した。

でも…あれ?

「私達はともかく、殿下もですか?」


「聞いた所によると、どうやら殿下も急に具合が悪くなったらしくて、そのまま帰ったらしい」


「え!?それは…大丈夫なんですか?」


「とりあえずは問題ないみたいだよ、一応王宮医に見てもらうからと、王宮には戻っていったようだから」

付き添いでここの常勤医が着いていったんだよ。
という先生の言葉に、だから誰も居なかったのかと納得する。




殿下…もしかして殿下もウェルミナと同じ症状に…?


だとしても。今の自分には何も出来ない。



今日はもう生徒会の方は休みにしたから、お帰り。
と先生は言う。


先生にウェルミナの事を頼み、アンカー公爵家へと連絡してもらい、
私は自分の無力さに歯がゆく思いながら帰路に着いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

傾国の聖女

恋愛
気がつくと、金髪碧眼の美形に押し倒されていた。 異世界トリップ、エロがメインの逆ハーレムです。直接的な性描写あるので苦手な方はご遠慮下さい(改題しました2023.08.15)

【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます

にじくす まさしよ
恋愛
R18、R18シーンは18才になってから。 タグお読みください。 難関高校に合格した私は、家族とお祝いにレストランに向かっていた。エレベーターに乗りそこに向かう途中、エレベーターが落下するような感覚に襲われる。 気がつけば、私は家族と離れ、エレベーターに同乗していたJKと共に異世界にやって来たようだ。 彼らが望んだのはJK。 不用品だけれども還せないからと、訳アリの王子たちの妻にさせられ──。 合わないと思ったかたはバックお願いいたします。 右手は出すと思います!ヒーローたち視点のモノローグあり シリアス、ロマンチック、コメディあり。いつもですね。 筋肉はもれなく、嫌だと言われてもオプションサービスとなって付随しています。 今度のマスコット(?)は絵文字にあります。 獣化状態とのR18シーンはありません。 2022.3.26HOTランキング2位、ご支援いただきありがとうございました。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。

シェルビビ
恋愛
 膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。  平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。  前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。  突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。 「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」  射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。

処理中です...