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しおりを挟むあのあと、屋上で泣きすぎたせいか私の顔は悲惨なことになってしまった。
サディアス王弟殿下はそんな私を気にして、今はもう授業もない時間だし、後は生徒会だけだろうからと、
グランツアー先生に報告して、今日は帰った方がいいと心配してもらったが、
私はこのまま帰ったら、きっと明日はもっと辛くなると思い、
己を奮い立たせて教室へと戻った。
恐る恐る教室へ入る。
すると、皆の視線が私に向けられ、ひそひそと声が聞こえた。
よく教室に戻って来れるな。とか、エリアナさんに謝れ。とか。
私はまた泣きそうになる気持ちをぐっと堪え、荷物を纏めるために自分の机に向かう。
そのまま鞄を持って教室を出る。
「ユリーナ!」
「…ウェルミナ?」
「貴女、どうしてあんなことしたの?彼女が貴女に何かしたの?」
「………え?」
私はウェルミナの言葉が信じられなかった。
私の事への疑惑はともかく、エリアナさんのやった事を覚えていない…?
「ウェルミナ、何を言ってるの…?」
「ユリーナ、いくら貴女がエリアナさんを嫌いだからって、あれはやり過ぎよ。後でちゃんと謝りましょう?」
「…!だから、私はやってない!ウェルミナ、信じてよ!」
「まだ認めないの?」
「っ、」
ウェルミナの私に向けられた目が、私を責めているのがわかる。
「…ねぇ、ウェルミナ?ウェルミナは忘れてしまったの?エリアナさんにされた事を。」
「……エリアナさんに?」
「そうだよ…私も、殿下もそう。私達は彼女の被害者でしょう?」
思い出してよ!と、ウェルミナの肩を掴んで私は彼女に詰める。
「…っ、殿下…?ユリー…ナ?っっう、」
「ウェルミナ!?」
ウェルミナが急に頭を押さえながら苦しみだし、そのまま倒れてしまった。
「誰か!誰か助けて下さい!ウェルミナが!」
助けを呼ぶも、今私達がいる所は自分たちのクラスからも離れていて、放課後ということもあり
周りには誰も居なかった。
とにかく、ウェルミナを医務室まで運ばなければ。
そう思い、何とかウェルミナを自分の背中で支えるように持ち上げ、
医務室へと向かった。
幸い、医務室は生徒会室のある場所と同じ通りにある。方向は同じだからこのまま進めばそんなに遠くない。
やっとの事で医務室に着くと、常勤医はちょうど出ているのか誰も居なかった。
どうしようかと考えるも、とりあえずウェルミナをベッドに寝かせ、
私はベッド横の椅子に座った。
「…ウェルミナ…」
「…うぅ、」
今もまだウェルミナはつらそうにしている。
黒い靄は見えないが、やはりこれは呪いなのだろうか。
エリアナさんは、聖女になって、殿下の婚約者にもなったのに、
それだけでは足りなかったのか。
今の私にはきっと光魔法は殆ど残っていないだろう。
それでも、ウェルミナが苦しんでいるのが見ていられなくて、
彼女の右手を両手で包み、昔のように祈った。
強く、強く願う。
どうか、どうか、ウェルミナが治りますように___。
「__ユリーナ嬢。」
「…グランツアー先生…」
何時からそこにいたのだろう。ずっと祈りを込めていたせいか、
私は先生に声をかけられるまで全く気が付かなかった。
「大丈夫かい?」
「はい、多分。ウェルミナはきっと落ち着いたと思います。」
ウェルミナの顔を見ると穏やかな表情に戻っていて、今は規則正しい寝息が聞こえてくる。
私の祈りが通じたのだろうか。とりあえず良かったと思っていると、
先生がそうじゃない、と首を振った。
「いや、彼女の事もそうだけど、私が言っているのは君の事だよ、ユリーナ嬢。」
「…私?ですか?」
「なんだ。自覚ないのかな?君も倒れそうな表情をしているよ?」
何かあったんだろう?そう聞いてくる先生の声は優しい。
そうだった、この先生は基本優しい人だった。
だけど、だからと先生に話す気にはならなかった。
話す事で先生を巻き込み、先生までも呪いに掛けられでもしたら、それこそ迷惑をかけたどころじゃ済まなくなる。
「…まあ、話したくないならそれでも構わないよ。」
愚痴位は聞いてあげるから。そう言うと先生は柔らかく笑った。
「そういえば、先生はどうしてここに?」
「あぁ、ケインとフレイが、君たちや殿下が来ないから心配していてね。」
そうだ、自分達は生徒会室へ行く途中だったということを思い出した。
でも…あれ?
「私達はともかく、殿下もですか?」
「聞いた所によると、どうやら殿下も急に具合が悪くなったらしくて、そのまま帰ったらしい」
「え!?それは…大丈夫なんですか?」
「とりあえずは問題ないみたいだよ、一応王宮医に見てもらうからと、王宮には戻っていったようだから」
付き添いでここの常勤医が着いていったんだよ。
という先生の言葉に、だから誰も居なかったのかと納得する。
殿下…もしかして殿下もウェルミナと同じ症状に…?
だとしても。今の自分には何も出来ない。
今日はもう生徒会の方は休みにしたから、お帰り。
と先生は言う。
先生にウェルミナの事を頼み、アンカー公爵家へと連絡してもらい、
私は自分の無力さに歯がゆく思いながら帰路に着いた。
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