上 下
17 / 63

16 ウェルミナside:1

しおりを挟む


私が前世を思い出したのは、10歳の時に両親に連れられて行った王子様のお茶会でのことだった。


アンカー公爵家の娘である私は、エリアス王子殿下の婚約者候補筆頭に選ばれるとかでその時初めて王子様と対面した。


王子様の顔を見ながら、私は何か懐かしい気持ちになり……と、唐突に記憶が甦ったのだ。


急に頭の中に沢山の映像が流れ、混乱した私は、そのまま倒れ………はしなかった。


一瞬で王子様が乙女ゲームの攻略対象なのだと気付き、自分は悪役令嬢だと判断していたのだ。





そういえばこの悪役令嬢、意外と鋼のメンタルで、頭も切れる、所謂姐御みたいなタイプだったわね。

何て思い出してみたものの、実際にそんな性格にもなれそうにない事に気付いてしまった。



このままいけば、王子様と婚約して、卒業パーティーで断罪されるんだわ…。何とか回避できないかしら…。あぁ、でも前世のころから思ってたけど、エリアス様は素敵ね…。



今の王子はゲームの時よりも全然子供だというのに、それでも私は彼に恋をしていたのだろう。


自分でもわかるくらい王子様に熱を持った目を当てているのが判る。


そんな目で見ながら令嬢としての挨拶をした私に、エリアス様は二コリと微笑むと、そのまま離れて行ってしまった。



あら?ちょっとそっけない?



なんて思ってる間に、あっという間にエリアス様の周りには人だかりができてしまい、結局その後は、あまり彼と話すことができないままお茶会は終了した。






邸に帰り自室にこもって今日の出来事を振り返る。


悪役令嬢の私は、王子様のお茶会で見染められ、婚約者になり、将来ヒロインが現れて王子様を奪われて断罪される。


まだ王宮からの連絡はないけれど、おそらくエリアス様の婚約者に選ばれるはず。


エリアス様の事は転生前から好きだったし、婚約自体は素直にうれしい。後は、嫌われないようにすることね。



ふと、そこまで考えてもう一つ思い出した。


あっ!そういえばこのゲーム、悪役令嬢が主役のスピンオフ小説があったわね!


そういった悪役令嬢物の小説は、大体の乙女ゲームでよく出るものだが、このゲームは他のゲームと違い、小説が出るのはすごい早かった気がする。



たしか、悪役令嬢ファンがすごく多く、また、ヒロインの性格がユーザーに嫌われ過ぎていたのも理由の一つだ。


私も悪役令嬢のファンだった。だからその本人に転生したのは本当にうれしかったし、だからこそ断罪されたくないと思う。





そう思った私は必死に小説の内容を思い出す。う~ん、とうなりながら考えていると、トントンと扉をたたく音がした。


「お嬢様、ご夕食ができましたよ。旦那様たちもお待ちです。」

そう言って部屋に入ってきた人物を見て私はあっ!と思った。



そうだわ、確か小説の方には私付きの専属執事がいたのだったわ!と、ゲームの方では執事ではなく侍女だったことを思い出す。


そう、今目の前にいる少年こそがその執事なのだ。


彼は私より2つ年上で、幼馴染でもある。お母様の親戚すじで私ともすぐに仲良くなった彼は、私に変な虫がつくよりはと、お父様が彼を私付きにと推したのだ。


幼いながらもすでに執事としての振る舞いを完璧にマスターしており、しかも見た目もかなり良い。とはいえ、小説のキャラクターなのかもちろんヒロインの攻略対象者ではない。



そこまで考えて、私はこの世界ここがゲームではなく、小説の世界なのだと確信した。



よかった、私は断罪されずに済むのね!そして王子様に溺愛されるのよ…!!



それからの私の行動は小説に沿うようになった。何度も何度も小説の内容を思い出しては同じように行動する。


そうすると結果は確かに小説の通りになっていった。ただエリアス様の婚約者に選ばれなかったこと以外は。



大丈夫、ちゃんと小説通りに話は進んでいるもの、婚約者でなくてもエリアス様とは何度かお茶会をしているし、嫌われている感じでもないわ。


きっと最後には私を選んでくれるはず。



そう私は自分に言い聞かせていたのかもしれない。元々ゲーム設定のウェルミナの性格とはあまり似ていない私は、必死に自分を隠し、ウェルミナを演じていた。



そんな風に無理をしている私を、ずっと傍で見ていた彼の視線にも気付かないまま……





















ウェルミナとして生きて、学園に入学する歳になった私は、未だにエリアス様の婚約者にはなれておらず、婚約者候補止まりだった。公爵家ということで筆頭ではあるが。







学園に入学し、エリアス様に嫌われないよう、公爵家令嬢としても、そして勉学も頑張った私はもちろん一番上のAクラスだった。


やはり同じクラスにはエリアス様もいてうれしくなる。同時にヒロインであろう子を周りを見渡し探す。すると自分の目にピンクゴールドの髪が移った。


え?確かヒロインはこの時点ではまだ聖女に覚醒していないはず…よく見ると顔も違うし…でも他にヒロインらしい子が見当たらない。


私が知らないだけでもう一人ヒロインがいたのかしら?



そう思っていたら自己紹介の時に本当のヒロインが誰なのかがはっきりした。


眼鏡なんかかけて、地味に見せているようだけど、名前も同じ、眼鏡で良く見えないけど顔も間違いないわ。



腰まである紫色のストレートの髪を後ろで一つに縛り、眼鏡をかけている彼女をじっと見つめた。




でも、小説のヒロインはそんな恰好していなかったはず。


小説の彼女も転生者ではあったが、あんな地味な装いではなく、寧ろ己の容姿をうまく引き立てるように派手さがあった。



きっと彼女も転生者に違いない。あの恰好は、私に逆ざまあされるのが嫌で、あえて地味な恰好をしてエリアス様の気を引こうとしているのね!


そうよ、間違いないわ!この時の私は完全にエリアス様に目がくらみ過ぎていたのだと思う。



自分でも判っているけど中々治せない、思い込んだらそのまま突っ走ってしまう性格を。








授業が始まり数日、私は成績上位者だからと生徒会に選ばれた。


まあ、当然よね!これも小説の通り。もちろんエリアス様も同じ。


彼は一位だからとそのまま会長になった。その下はとりあえず慣れてから誰が適しているか見極めて決めようということになった。






生徒会に慣れてきてさらに数日後、教室に生徒会顧問であるマクドウェル先生が来て、ヒロインであるユリーナ・フェリス公爵令嬢が生徒会に入ることが聞かされた。


ゲームや小説の彼女の性格が好きではなかった私は、きっと彼女もそうなのだろうと決めつけていた。


ヒロインが生徒会に入るのも小説通り。だけど、素直に歓迎できない私がいる。自分でもわかるくらいには彼女に向けた私の微笑みが敵意が入ってしまっている。


だめよ、ここで彼女にきつく当たってしまってはゲームのように断罪されてしまう。大丈夫、この世界はここは小説の方なのよ…と己に言い聞かせる。




だけど、彼女がエリアス様の補佐になって一緒に仕事をしているところを見ると、どうしても黒い感情が出てしまう。


暫く同じ生徒会で過ごすうちに、彼女がゲームのようなひどい性格ではないことは気付いているはずなのに…


彼女とエリアス様を見ると感情が引っ張られてしまう。




その感情のまま、ついに私はゲームのような悪役令嬢の振舞いを彼女にしてしまう。



その日、自室に戻った私は自己嫌悪に陥っていた。



どうしてあんな事を言ったしまったのかしら。これではエリアス様に嫌われてしまう。


今思えば、私があんな風に相手に詰め寄ることなどできるはずがないのだ。ウェルミナを演じてはいるけど、実際の私は臆病で、口喧嘩だって得意ではない。


そもそも小説のウェルミナを演じているのだからあんな事を言うべきではない。


なのに…あの時の私は…いや、もっと前から…?



何かに感情を操られているかのように、彼女に対して憎悪ともいえる程敵対視していて、その感情のままに言葉をぶつけてしまったように思う。




その違和感はある日エリアス様の話によって解決されることになる。










夜に投稿しようと思っていましたがそのまま寝落ちしてしまったようです。楽しみにして下さった方、すみません。
そしてウェルミナsideもう少し続きます。本編もう少しお待ちくださいm(_ _)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

傾国の聖女

恋愛
気がつくと、金髪碧眼の美形に押し倒されていた。 異世界トリップ、エロがメインの逆ハーレムです。直接的な性描写あるので苦手な方はご遠慮下さい(改題しました2023.08.15)

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます

にじくす まさしよ
恋愛
R18、R18シーンは18才になってから。 タグお読みください。 難関高校に合格した私は、家族とお祝いにレストランに向かっていた。エレベーターに乗りそこに向かう途中、エレベーターが落下するような感覚に襲われる。 気がつけば、私は家族と離れ、エレベーターに同乗していたJKと共に異世界にやって来たようだ。 彼らが望んだのはJK。 不用品だけれども還せないからと、訳アリの王子たちの妻にさせられ──。 合わないと思ったかたはバックお願いいたします。 右手は出すと思います!ヒーローたち視点のモノローグあり シリアス、ロマンチック、コメディあり。いつもですね。 筋肉はもれなく、嫌だと言われてもオプションサービスとなって付随しています。 今度のマスコット(?)は絵文字にあります。 獣化状態とのR18シーンはありません。 2022.3.26HOTランキング2位、ご支援いただきありがとうございました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...