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11 キリクside
しおりを挟むユリーナと一緒に眠った日から、毎日ユリーナが安心して眠れているのか、私は夜中によく確認するようになった。
妹とはいえ、年頃の女性の寝室に無断で入るなど、良くないことは判っているが、あの時のユリーナの状態があまりにも尋常じゃなかったのを見て、
そのままでいることがどうしてもできなかったのだ。
とはいえ、
幸い、あれから夢を見ていないのか、ユリーナが魘されていることもないようだった。
ユリーナは怖い夢を見ただけだと言っていた。だが、ただ夢を見ただけというにはユリーナの脅え方は普通じゃなかった。
震えるユリーナを抱きしめた時、ユリーナの身体がしっとりしていることに気付いた。
よっぽど怖かったのだろう、恐怖で汗が出たのかもしれない。
とりあえず、このままではユリーナは風邪を引いてしまう。恐怖でユリーナが自分で体をうまく動かせないだろうことは気付いていたが、さすがに私自身が着替えさせるのは気が引けた。
ユリーナが気を失ってるとかならともかく、一応意識ははっきりしているようだから、着替え位なら大丈夫だろうと思い、ユリーナ自身で着替えさせた。
ユリーナがおぼつかない体で着替えを済ませている間、私はフェリス公爵家筆頭執事にユリーナを自分の部屋で寝させることを告げ、朝もゆっくりでいいと伝える。
そうしてユリーナの部屋の前まで戻れば、ちょうど着替え終わったのだろう、ユリーナの私を呼ぶ声がした。
ユリーナから一緒に寝てほしいという言葉を聞いて、わざとらしく仕方ないな。と言う。
ユリーナから言ってこなくても私から提案しようと思っていたし、もしそのときそれでユリーナが断ったとしても、強引にでも承諾させるつもりだった。
元々ユリーナを一人で寝させるつもりなどなかった。
そんなことを私が考えているなんて、きっとユリーナは露ほども思っていないだろう。お願いしますというユリーナの表情は、無意識だろう、上目遣いで、先ほどまで泣いていたせいか少し目が潤んでいた。
困った子だ。そんな表情を見せるのは、今後も私だけであってほしいものだ。などと場違いなことを考えつつ、動けないユリーナを優しく抱き上げ、己の寝室へと連れて行った。
途中、ふにゃりとした顔でユリーナが自分の首にしがみついたのを見て、知らず自分も顔が緩む。
寝室につくと、先ほどまで自分が寝ていたベッドにゆっくりユリーナを下し、すかさず自分もユリーナの横に入る。
今頃正常な意識が少し戻ってきたのか、ユリーナがこの状況に慌てふためいているのを見て、あえて気付かない振りをしてどうしたの?何て聞いてみる。
確かに、一緒に寝るのは、子供のころ以来だ。何よりユリーナはそういうことにも恥じらうだろうお年ごろ。彼女が焦るのも無理はないだろう。
だがユリーナはややあって諦めたのか、観念したのか、おとなしくなったかと思うと、ごめんなさいと呟いて目を瞑った。
そんなユリーナの瞼にキスをし、優しく、しかししっかりとユリーナを抱きしめる。
愛しく、可愛い私の花。君を傷つける者は許さない。これから先、もしユリーナが私以外の誰かを選んだとしても。君を一番に守ることはきっと変わることはない。
安心して体を預けてくれているユリーナに、自分は男として見られていないのか。
少し自嘲するも、それでも自分の腕の中にユリーナがいるという事実に、不謹慎ながらも幸福を感じ、ユリーナを抱きしめたまま眠りについた。
早朝、いつもの習慣で早い時間に目が覚める。ふと自分の腕の中にいるユリーナを見ると、まだ夢の中にいるのだろう、幸せそうに寝ていた。良かった、悪夢は見ていないようだ。
まだ彼女が起きるには時間が早い。もう少し寝させてあげよう。本当は自分はいつもなら起きる時間だが、今日は急ぎの仕事もないし、少しくらい遅れても大丈夫だろう。
ユリーナの寝顔をずっと見ていたくて、抱きしめたままユリーナの顔を見つめていたら、窓から漏れる朝日が顔に当たって眩しいのか、ユリーナが身動ぎしようとした。
だが私が抱きしめているせいで動けないとわかると、今度は私の胸元に顔を摺り寄せてきた。かわいい…などと思っていると、ユリーナの呟きに虚をつかれ、固まった。
「…きもちいい、ずっとこうしていたい…」
なんて言いながら、ぎゅっと抱き着いてきた。無意識に呟いたのだろうが、それだけで己の一部が急激に昂ったのが判る。このままユリーナを思いのまま組み伏したい欲望に囚われるが、
ここはグッと堪え、ユリーナを優しく起こす。
それでもユリーナは中々起きないのか、寝ぼけた声で答えてくる。あぁ、あまりの可愛さに、自身がはち切れそうだ。
未来、もし君が私を選んだなら。その時は覚悟するんだよ?まあ、諦める予定もないけどね?クスクスと笑いながら、私に夢中になってくれるように煽ることも忘れない。
真っ赤になったユリーナを、腰を抱く腕はそのままに、もう片方の腕でユリーナの髪を撫でた。
恥ずかしながらもいつも通りに学園に行くユリーナを見送りつつ、思案する。
昨日のユリーナから、わずかではあるが外的からの魔力を感じていたのだ。ユリーナだけを狙ったことなのか、公爵家を貶めたい誰かなのかはわからない。だが調べる必要はあるだろう。
どちらにせよ、ユリーナを傷つけたこと、許しはしない。後悔させてやる。
黒い微笑みを浮かべ、父へユリーナの事を報告すべく、私は執務室で待っているであろう父のもとへと踵を返した。
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