4 / 63
3 キリクside
しおりを挟む私には病弱な妹がいた。妹は生まれた時から病弱で、自分で歩くことも儘ならないほどで、
私は妹がベッドから出ているところを殆ど見たことがない。
顔色はいつも青白く、いつ死んでも不思議ではないだろうことがわかる。
辛いだろうに、いつも妹は、大丈夫、毎日ありがとうと、儚く微笑う。
そんな妹を見ながら私は、どうして妹が…、
いったい妹がなにをしたのだと、何もできない自分にとても腹が立った。
そして何もできないまま、妹はたったの6歳でこの世を去った。
その時の悲しみは、決して忘れることはないだろう。両親も、邸の使用人たちも皆、
最後まで心優しい妹を哀しみ、喪に服した。
「大丈夫、お兄様、きっとまた逢えます…」
それが妹の最期の言葉だった。きっとまた逢える…というのは来世の事だろう。
そうだな、来世でまた逢うことができたなら、今度こそお前をたっぷり甘やかそう。今までなにもしてやれなかった分以上に。
そして妹が亡くなってちょうど一年後、公爵家が寄付している孤児院へいつものように巡回に行くと、
一人の少女が、傍らで蹲っているもう一人の少女に向かって両手を組み、祈るような仕草をしてるのを見かけた。
いったい何をしているのだろうか、蹲っている少女は具合でも悪いのだろうか?
そう思って二人の少女に声を掛けようとした時だった。
「______っ!?あれは…まさか」
私は目の前に広がる光景に驚愕した
祈るような仕草をしていた少女の体が突如光り輝き、その眩しさに目を細めていると、その少女の紫色の髪が、金色へと変わったのだ。
いや、あれは金というより、黄金と言ったほうがいいかもしれない。
それくらい光り輝き、そしてとても美しかった。まるでその場に天使が現れたのかの様に。
その様子に魅入っていると、蹲っていた少女が笑顔を浮かべて立ち上がり、容姿の変わった少女に抱き着いた。
「ありがとう!ユリー!本当に天使様みたい!」
「…私は天使様ではないけど、ミリイが元気になって良かった」
天使という言葉に苦笑いを返す少女の髪は、いつの間にかもとの紫色に戻っていた。
先ほどの光景に、国の重要機密でもある言い伝えに考えを巡らせる。
建国してからこの国は、突如として黄金の髪をもつ聖女が現れる事があるという。
その聖女が現れる時期は決まっておらず、また、聖女が現れる時期は国が窮地に陥り、魔物が蔓延り、魔王が現れるとも。
この言い伝えがただの伝説に済まされないのは、今までにも何度か聖女が現れたことがあり、
そのたびにその聖なる力で国を救っているからだ。魔王が現れたことはなかったようだが…
その歴代の聖女は皆、言い伝え通りの黄金の髪だった。
そして聖女だけが持つといわれている、光の力…聖属性魔法である癒しの力だ。
普通の人間にも稀に光属性を持つ者もいるが、それは聖属性とは異なる。怪我などを癒すことはできるが、
ただそれだけだ。逆に聖属性魔法は癒すだけでなく、魔を払い、悪意からの異常も消し去り、この世を清浄へともたらす。
先ほどの少女の放った力は確かに光魔法だった。だがそれが聖属性魔法であるかは今の段階では確定することはできない。
髪色が変わったのは見たが、すぐに戻ってしまったのを考えると、聖女というより、聖女候補という状態なのではないだろうか。
とりあえず、この少女はずっと孤児院に居させるわけにはいかないだろう。
どこかの悪い輩にでも見つかったら、どうなるかわからない。
私は魔法で父上に急ぎ手紙を送ると、孤児院の責任者、院長を呼び出し、少女の話を切り出した。
「やはり、お気づきになりましたか。私も、もしかしたらとは思っておりました。ですが確定はできず…」
きっと院長は今までにも先ほどの光景を何度か見ているのだろう。確かに院長の手に余る案件ではある。
たまたま私が居合わせたかの様に思っていたが、そうではないのかもしれない。この院長の頭は切れるからな。
その後、すぐにやってきた父上と共に話し合った結果、少女は我が公爵家に養女として受け入れることになり、
その成長と共に、本当に聖女であるかどうかを見極めることになった。
いきなり公爵家に知らない少女を連れ帰ったというのに、母は優しく少女を受け入れた。
そして、聖女云々関係なく、私や両親だけでなく、使用人達までも、いつしかこの心優しい少女に惹かれていき、
血は繋がらずとも、本当の家族として暮らしていくようになった。
今では皆、私の妹となったユリーナに甘い。溺愛していると言ってもいい。
甘やかせば、人は傲慢になるものだ、だがユリーナはそんなことにはならず、むしろ逆に謙虚になった。
そんなユリーナをそばでずっと見ていた私は、いつの間にか妹とは違う目で見ていることに気付く。
5つ違いの妹に対してこんな感情を抱くとは、自分でも驚きだったが、愛してしまったのだから仕方ない。
何もしてやれなかった死んだ妹に負い目があるのかもしれない。ユリーナとは別の人間のはずなのに、
なぜか本能が告げる。二人は同じだと…
だがユリーナを一人の女性として愛しているのは確かだ。ならばもう私はユリーナを離したくはない。
ユリーナが望むなら、すべてを敵に回すことも厭わないだろう。
いつだったかユリーナが私から離れようとしたことがあった。話を聞けばいつか私にできるであろう婚約者に悪いからと。
本当によくできた妹だ、私はユリーナが可愛くてしょうがなかった。
いくら私のためだからと、私から離れるのは許せなかった。ユリーナが私の懇願する目に弱いということを知っている私は、
それを最大限利用してユリーナを説き伏せた。
ふふ、そんな困った顔で睨んでも可愛いだけだよ、ユリー。
そんなユリーナが学園に入学することになった。
入学式の早朝、ユリーナの貴族らしからぬ姿に一瞬フリーズし、なぜそんな恰好を…とも思ったが、
逆にこれでいいのかもしれない。
ユリーナの可愛い姿を見て、悪い虫が増えるのは避けたいところだ。
だがこの姿ならば、…と考え、何も言わず、ユリーナを送り出した。
私がそんなことを考えているとは思いもしないだろうユリーナに、私も後から入学式に向かうからねと、
いつものように彼女を抱きしめ頬にキスをする。もうずっと行っているこの愛情表現に、未だ頬を薄っすら染めるユリーナは、
行ってきます!と元気に馬車に乗り込んでいった。
ユリーナの向ける私への感情は、親愛の情しかないのは気づいている。だが諦めはしない。
私のキスに頬を染めてくれるのだから、少し過剰なスキンシップも無駄ではないだろう。
元から辞めるつもりはないが。
はやく私のもとに落ちておいで。ユリー。愛しているよ。
0
お気に入りに追加
2,030
あなたにおすすめの小説
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます
にじくす まさしよ
恋愛
R18、R18シーンは18才になってから。
タグお読みください。
難関高校に合格した私は、家族とお祝いにレストランに向かっていた。エレベーターに乗りそこに向かう途中、エレベーターが落下するような感覚に襲われる。
気がつけば、私は家族と離れ、エレベーターに同乗していたJKと共に異世界にやって来たようだ。
彼らが望んだのはJK。
不用品だけれども還せないからと、訳アリの王子たちの妻にさせられ──。
合わないと思ったかたはバックお願いいたします。
右手は出すと思います!ヒーローたち視点のモノローグあり
シリアス、ロマンチック、コメディあり。いつもですね。
筋肉はもれなく、嫌だと言われてもオプションサービスとなって付随しています。
今度のマスコット(?)は絵文字にあります。
獣化状態とのR18シーンはありません。
2022.3.26HOTランキング2位、ご支援いただきありがとうございました。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました
灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。
恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。
本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。
シェルビビ
恋愛
膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。
平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。
前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。
突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。
「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」
射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる