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3 ついて来たければ強く、誰よりも強くなるんだな。
しおりを挟む異世界転生の経験はあっても、今までこんなことはなかったな…
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幼なじみ皆が各々のステータスを見ている中、
もう一度、皆と自分のステータスを見比べてみる。
これは別に勇者の称号がまだどこかに書いてないかとか探してるわけじゃない。
その称号とは別に、自分のステータスはおかしいのだ。
皆のステータスには、HPやMP、レベルなど(この世界の普通の人達よりおそらく上なんだろう)全て三桁数字表示されているのに対し、
飛鳥のステータス数値の桁数があり得ないくらい多いのだ。
どうやらスキルや属性など、全ての数値がそう表示されている。
それだけではない。
勇者の称号はないが、その代わりによくわからない称号が表記されている。
“異世界の旅人ー異邦人”
“万物の片割れ”
異世界の旅人はわかる。だが万物の片割れって何だ?
このステータスそのまま人に見せたらヤバい気がする。ちょうど私は皆の後方にいて、国王たちから見えない位置にいる。
まだ見られてはいないだろう。見られる前に何とか出来ないだろうか…
「…おい、1人だけステータスおかしくないか?」
と。飛鳥の願いも無情に叶うことなく。
一番近くに居たのだろう兵士か騎士らしい人に見られてしまっていた。
「どうやら件の1人がはっきりしたようだな。そなた、名をアスカと申すのか。」
国王の発言で、今まで自身のステータスに釘付けだった皆が、ハッとしたように飛鳥の顔を見た。
国王にも見られてしまったからにはもう隠すのは無理だろう。だが…
「勇者でないのは間違いないのだろうが、そのステータス、何故読めぬ?」
読めないとはどういう意味だ…
「本当だ、飛鳥のステータス、文字化けしてて読めない…」
文字化けしてる?
「…実力やレベルに関係しないものは読めるわね。」
どういうことだろう…
「飛鳥…」
「慧も読めない?」
「そうだな…」
自分自身では普通に読めている。だが自分以外は誰1人として読めていないらしい。
「国王さま、こういうことはよくあるんですか?」
「…あるにはあるが、だがそれが本当なら信じられないことだ。」
「どういうことですか」
「他人のステータスは、ほとんどが、誰にも見れるようになっている。
だが、まれにそれが見れないことがあるという。
その原因は、その者のレベルがとてつもなく上位に位置しているため、
見ようとする側の人間のレベルが、その者と離れすぎていると見れない。
つまり、レベルの低い者は見ることが叶わないということだ。」
「じゃあ、飛鳥は俺たちよりかなり上のレベルってことか?」
「そういうことになる。…だからこそ信じられないことだと言うのだ。
勇者ならともかく…勇者でもないのにそのステータスは本来ならあり得ないことだが…
それとも異世界人として何か特別なことがあるのか…だとしても、歴代の勇者ですらもこのような事は今まで1度としてなかったのだ。
だがそのステータス、あやつなら見れるかもしれぬ。騎士団長、リカルドよ、魔術師長を呼んで参れ!」
「はっ!」
数分もしないうちに、魔術師長らしき人がやってくる。
服装は魔術師のそれらしく、だが、長というにはまだ若すぎるのではないかというくらいの外見だった。
そんな考えが顔に現れていたのか、わざとらしく、ごほん!と魔術師長が咳払いした。
「私は宮廷魔術師長、ルイスだ。こんな見た目だが、一応君たちの数倍以上は生きている。よろしく頼む。」
「え!?俺たちの数倍って…」
「魔術師さんって、不老不死とかなんですか!?」
「いや、不老不死ではないが、魔法で体の時間を止めているだけだ。」
「ルイスは簡単に言っているが、時を止める魔法を使えるのは、本の一握りのものだけだ。
それほどルイスは優秀ということだ。彼ならアスカとやらのステータスも見れるのではないかと思ってな。」
「陛下は買い被りすぎですよ。たまたま私より強い者がいなかっただけです」
「一見謙遜に聞こえるが、ルイスよ、それは暗に己が一番強いと言っているようなものだぞ」
「あぁ、バレましたか。」
はははと悪びれもせず笑うルイスに、一瞬頭を抱えた王だが、すぐに気を立て直し。
「それで、ルイスよ、確認できるか?」
ルイスはその言葉に瞬時に表情を固くした。
「それは無理です。」
きっぱりと断言する。
「な!なぜだ!?むしろ、まだ見てすらもいないではないか!」
「見なくてもわかるのですよ。
この謁見の間に入った瞬間、彼女からとてつもない威圧と、膨大な力、魔術の流れを感じましたから。
それは今でも言える事ですがね」
「威圧…?何も感じぬが…」
「それはそうでしょうね。どうやら彼女の力は、強い者に対してのみにその力を隠さず。ようするに、警戒しているということでしょう。無意識かはわかりませんがね」
自分では全くそんなつもりはないのに…彼の言う通り、無意識なのだろうか。
だからたとえ見ても同じく読めないだろう。と、ルイスは苦笑いした。
だが…と、一言加え、おもむろに飛鳥に近づくと、いきなりずいっと顔を覗きこまれ…
「…お前、アスカだったか、その顔は生まれつきのものか?」
「?そうです。」
「おい!あんた、いきなりなに言い出すんだ!」
ルイスの問いに困惑しながらも肯定の言葉を返していたら、隣にいた慧が飛鳥を庇うように間に入ってくれた。
一体、この魔術師長は何が言いたいのか。私が整形しているとでも思っているのだろうか。
その疑問の理由はすぐにルイス自身から教えてもらえることになる。
「もう一度、お前のステータスを開いてもらえるか?」
さっきからルイスの口調が変わっていることに気付きながらも、
コクりと頷き言われるままステータスを表示させようと念じる。
(ステータスオープン)
ブンッと表れたステータス。それはやはり先ほどと何も変わらない表示が目の前にある。
「やはりそうか…」
「…?」
「陛下、このアスカの顔を見て、何か思い出しませんか?」
「顔…?」
「あぁ、このままでは判りづらいかもしれませんね、アスカ、眼鏡を外させてもらうぞ。どうせ伊達だろう」
いつの間にかルイスに呼び捨てられたことにも驚いたが、
アスカの返事も待たずに勝手に眼鏡を外したルイスにもっと驚いた。
無理やり分厚い眼鏡で慣れていた目に、急に視界が開け、一瞬眩しさを感じ、俯いて目を擦った。
そしてスッと顔を上げゆっくり目を開いた。の瞬間、
「....!?なんと、まさか!」
「美しい!だがどこかで…?」
国王を始め、周りから一気におぉー、という歓声が上がった。
人1人の素顔だけでこんなに盛り上がるものなんだなと、
自身でも扱いに困っている顔面偏差値に、まあ、嫌われるよりかはいいかと考え、
国王だけ周りと微妙に違う反応だったことに気付いた飛鳥は、ルイスに先ほどの疑問をぶつけてみることにした。
「私の顔と、似たような人でもいるのですか?」
「聡いやつは嫌いじゃない。似たような、というより、そのものだな。」
「さっきの、アスカ、お前のステータスを見て確信したのもあるが。
レベルとかはやはり読めなかったが、レベルに関係しない、称号は読むことができたからな。
その称号に、決定的なことが書いてあっただろう。」
「称号…もしかして、”万物の片割れ”でしょうか?」
自分でもよくわかっていないその称号、もう一つはわかりやすく異世界とある。
消去法でそれしかないと考え、そしてそれは正解だったようだ。
ルイスがニヤリと笑う。
「その通りだ。お前はその称号の意味を理解しているか?」
「いいえ。自分でも、何の事だか…」
「その称号の意味を教える前に、見てもらいたいものがある。
ちょうどいい、今この場に居る者たち全員に承認と称して一緒に確認してもらおう。
陛下、よろしいですね?」
「あ、あぁ、よかろう。では、誰ぞ、応接間の肖像画を持って来るのだ!」
「…肖像画?」
「見ればわかる」
慧が飛鳥を心配しながら問いかけるも、返答にはとりつく島もない。
とりあえずその肖像画を見てみようと、4人で顔合わせ頷きあっていると、
先ほど魔術師長を呼びに行った騎士団長のリカルドが、手に大きな額縁を持って現れる。
ルイスはリカルドから額縁を受け取ると、それを飛鳥、皆に見せるように掲げた。
「!!」
「飛鳥に…そっくり」
誰かの呟きとともに、周りがざわざわと騒ぎだす。
飛鳥と額縁の絵を見比べては、皆、思い思いの言葉を口にしている。
「…ルイスさん、私たちの世界には、世の中には同じ顔の人間が3人いるといいます。
この絵をわざわざ大袈裟に見せしめたということは、ただの他人のそら似…ではないということですね?」
「あぁ、話が早くて助かる。この絵の人物はもちろん実在する。ただ、人ではないが…」
顔はそのまま飛鳥その物だが、描かれている人物の背には、黄金の翅が10枚、広がっている。明らかに人とは違う。
「確かにこの絵姿を見れば、人ではないだろう事はわかります。では人でないならなんなのですか?」
「精霊だ。」
「精霊?」
「ちょっと待て、なら飛鳥が精霊だとでもいうのか!?」
「飛鳥は今まで私たちと一緒に普通に人間として育って来たわよ!!」
「二人とも、少し落ち着け。」
「だって、慧は気になんねーのか?」
「俺だって気になるさ、だけど、まだ話は終わってないだろう?」
現代組3人が静かになったのを見計らって、ルイスが話を続ける。
「この絵の人物は確かに精霊だ。そしてアスカ、お前はこの精霊とはもちろん無関係ではない。だが、同じ精霊だというわけではない。」
「…それで?」
「そこで、さっきのお前のステータス欄にある称号が関係する。」
「万物の片割れ…」
「そうだ。まだ何の精霊か言ってなかったな。この絵は、数百年以上前に現れたと言われている、万物の精霊を模した姿絵だ。」
「!!では…」
「ああ、称号そのままの意味だというなら、お前は万物の精霊の片割れ…ということになるだろう。」
「なら、…片割…とは、兄弟とか、そういうことですか?」
「それは、はっきりとはわからない。お前が本人と直接逢えればわかるだろう。」
「いやいや、無理だろ!さっきあんたその精霊が現れたの数百年以上前って言ってたじゃねーか!」
今まで静かに横で話を聞いていた良が割って入る。
たしかに、数百年以上前なら、いくら精霊でも今も生きているのかどうなのかもあやしい。
「その心配はない。万物の精霊は、生まれる時や死ぬ時に同時に全世界の自然現象をも引き起こすという。
この数百年の間でその様な事象は記録にない。ということは」
「その精霊はまだ生きているということですね」
「そういう事だ。だが普段精霊は、契約していない限り人前には現れることは稀だ。そう簡単には会うことは難しいだろうな。」
「…では、精霊の集まり易い場所などはあるのですか?」
「あるにはあるが…只の人間は行く事は出来ても中には入れないだろう。だが…アスカ、お前は入れるはずだ。」
「…」
暗に飛鳥は人間じゃないと言われているかのようで、飛鳥は渋い顔をする。
実際そういう所があるのは自分でもわかっているから、諦めるしかないのだろうが…何とも言えずにいると
「私たちは入れるんですか?」
結衣が飛鳥を心配そうに見ながらたずねる。
「あの地は勇者であろうとそう簡単に入れはしない。だが、アスカと友人ということを精霊に説得すれば入れるかもしれん」
そこまで己の存在が重要だとは露程も思えない飛鳥…
何にせよ、とりあえずはその精霊に逢わずには何も始まらないのだろう。
「その精霊の集まり易い場所とは何処ですか?」
「「飛鳥!?」」
「…逢いに行くのか?なら、俺も一緒に…」
「お前たち勇者は、これから鍛錬に入ってもらわなければならない。よって同行は不可だ。」
「な!?」
「そんな…」
「…」
慧が自分も一緒に行くと言いかけ、結衣や良も同じように声をかけようとしたところを
ルイスはバッサリと切り捨てた。そのルイスを何か言いたげな顔で無言で見つめる慧だが…
「ついて来たければ強く、誰よりも強くなるんだな。」
現代組の間に重い沈黙が降りる…
つづく
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