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第一部
1-1 冒険者の街・ライフス
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東大陸の中央に位置する都市『ライフス』は、安定した穏やかな気候と肥沃な土壌で育った豊かな自然に囲まれ、豊富な資源に恵まれた街である。
総人口は北、西、南、東の四大大陸を含めても最大規模であり、また、住人のほとんどが人間種ではあるものの、亜人種や獣人種への差別意識もない平和な街だ。
そんな平和な『ライフス』は、住人からはこう呼ばれている。
“冒険者の街・ライフス”
穏やかな気候、肥沃な土壌、豊かな自然……これらは魔獣や魔物にとっても、育ちやすく繁殖しやすい環境である。街から少し離れれば、群れを成す魔獣や魔物が簡単に見つかることだろう。
それらの脅威からライフスを守るため、多くの冒険者が雇われているのだ。
しかし冒険者たちの間では、ライフスは別の呼ばれ方をしている。
――――『最も死に近い街』
……ユアとヒユウが出会ったのは、ライフスがそう呼ばれるようになってからちょうど一年がたったころである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ヒユウさん、お願いします! 私をあなたのパーティーに入れてください!」
そう言って目の前で頭を下げる少女に、ヒユウ・アイシーはただただ困惑することしかできなかった。
ライフスにある冒険者ギルドは、いつも多くの冒険者で賑わっている。
依頼を吟味する者、報酬金を山分けする者、酒に酔って騒ぐ者などなど。老若男女人間亜人獣人お構いなしだ。
そんな中、隅においやられるように集団から離れて一つぽつんと置かれた小さなテーブルで、まだ二十歳の成人を迎えて間もないヒユウが一人ぼっちでちまちまと酒を呑んでいた時のことだった。
冒険者の波をかいくぐって、自分に向かって歩いてくる一人の少女が目に入った。
おそらく十三か、十四かといった年齢で、あどけない顔立ちに亜麻色のセミロングヘア―をした少女だ。
椅子に座っているヒユウと同じくらいの背丈で、そんな小柄な身体を清潔感のある白を基調としたローブが覆っている。
手には少女の背丈と同じサイズの杖が握られており、そして少女のサファイアのように澄んだ蒼色の瞳は、まっすぐにヒユウへと向けられていた。
ヒユウは困惑する。
あの少女は間違いなく自分に用があるのだろう。あれだけまっすぐに視線を向けられれば、それくらいは考えるまでもなく分かることだ。
しかし、だからこそ『なぜ』という思いで頭がいっぱいになる。
なぜ、よりにもよって自分に?
ヒユウは自分が他の冒険者たちから避けられていることを自覚している。
こんな大勢で賑わう中、自分の周りだけぽっかりと穴が開いたかのように人が寄り付かないのだから、自覚するなという方が無理な話だ。
ヒユウは自分が避けられていることも、ついでに避けられる理由についても自覚しているし、納得もしている。むしろ避けられてホッとしているくらいだ。
だからこそ、少女が自分に近づいてくることに『なぜ』という疑問が尽きないのだ。
ましてや、よりにもよって女の子からパーティーに入れてくれなんて頼まれては、もう困惑することしかできないのであった。
「えーっと……取り敢えず、君が誰なのか教えてもらってもいいか?」
「あっ、これは失礼しました。ユア・マイハーと申します。どうぞユアとお呼びください、ヒユウさん」
そう言って、小さくお辞儀をするユア。
「……俺の自己紹介は必要ないみたいだな」
名乗る前から『ヒユウさん』と呼んでくるユア対し、まあいい意味でも悪い意味でも俺は有名だしな、とヒユウは一人納得する。その顔は、諦めの色が強いどこか達観した顔だった。
「世界最強の魔術師を知らない程、私は無知でも無学でもありませんから」
「なら、どうして俺が誰とも組まず冒険者をやってるのかも、当然知ってるよな?」
「はい。お噂はかねがね」
ユアはお辞儀をやめると、顔をあげてヒユウについて自分が知っていることを語り始める。
「その身には尽きることのない無限の魔力を宿し、そしていかなる存在にも絶対の死を与える【即死魔術】の世界唯一の使い手。あふれ出る魔力は無差別に周囲の生命を削り取る。故に、その実力を知ったものは畏怖と異形を込めてこう呼んだ――」
ユアはヒユウの瞳をまっすぐ見つめ、その二つ名を口にした。
「――“生殺与奪”のヒユウ・アイシー」
ライフスが『最も死に近い街』呼ばれる原因は、たった一人の魔術師の存在である。
総人口は北、西、南、東の四大大陸を含めても最大規模であり、また、住人のほとんどが人間種ではあるものの、亜人種や獣人種への差別意識もない平和な街だ。
そんな平和な『ライフス』は、住人からはこう呼ばれている。
“冒険者の街・ライフス”
穏やかな気候、肥沃な土壌、豊かな自然……これらは魔獣や魔物にとっても、育ちやすく繁殖しやすい環境である。街から少し離れれば、群れを成す魔獣や魔物が簡単に見つかることだろう。
それらの脅威からライフスを守るため、多くの冒険者が雇われているのだ。
しかし冒険者たちの間では、ライフスは別の呼ばれ方をしている。
――――『最も死に近い街』
……ユアとヒユウが出会ったのは、ライフスがそう呼ばれるようになってからちょうど一年がたったころである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ヒユウさん、お願いします! 私をあなたのパーティーに入れてください!」
そう言って目の前で頭を下げる少女に、ヒユウ・アイシーはただただ困惑することしかできなかった。
ライフスにある冒険者ギルドは、いつも多くの冒険者で賑わっている。
依頼を吟味する者、報酬金を山分けする者、酒に酔って騒ぐ者などなど。老若男女人間亜人獣人お構いなしだ。
そんな中、隅においやられるように集団から離れて一つぽつんと置かれた小さなテーブルで、まだ二十歳の成人を迎えて間もないヒユウが一人ぼっちでちまちまと酒を呑んでいた時のことだった。
冒険者の波をかいくぐって、自分に向かって歩いてくる一人の少女が目に入った。
おそらく十三か、十四かといった年齢で、あどけない顔立ちに亜麻色のセミロングヘア―をした少女だ。
椅子に座っているヒユウと同じくらいの背丈で、そんな小柄な身体を清潔感のある白を基調としたローブが覆っている。
手には少女の背丈と同じサイズの杖が握られており、そして少女のサファイアのように澄んだ蒼色の瞳は、まっすぐにヒユウへと向けられていた。
ヒユウは困惑する。
あの少女は間違いなく自分に用があるのだろう。あれだけまっすぐに視線を向けられれば、それくらいは考えるまでもなく分かることだ。
しかし、だからこそ『なぜ』という思いで頭がいっぱいになる。
なぜ、よりにもよって自分に?
ヒユウは自分が他の冒険者たちから避けられていることを自覚している。
こんな大勢で賑わう中、自分の周りだけぽっかりと穴が開いたかのように人が寄り付かないのだから、自覚するなという方が無理な話だ。
ヒユウは自分が避けられていることも、ついでに避けられる理由についても自覚しているし、納得もしている。むしろ避けられてホッとしているくらいだ。
だからこそ、少女が自分に近づいてくることに『なぜ』という疑問が尽きないのだ。
ましてや、よりにもよって女の子からパーティーに入れてくれなんて頼まれては、もう困惑することしかできないのであった。
「えーっと……取り敢えず、君が誰なのか教えてもらってもいいか?」
「あっ、これは失礼しました。ユア・マイハーと申します。どうぞユアとお呼びください、ヒユウさん」
そう言って、小さくお辞儀をするユア。
「……俺の自己紹介は必要ないみたいだな」
名乗る前から『ヒユウさん』と呼んでくるユア対し、まあいい意味でも悪い意味でも俺は有名だしな、とヒユウは一人納得する。その顔は、諦めの色が強いどこか達観した顔だった。
「世界最強の魔術師を知らない程、私は無知でも無学でもありませんから」
「なら、どうして俺が誰とも組まず冒険者をやってるのかも、当然知ってるよな?」
「はい。お噂はかねがね」
ユアはお辞儀をやめると、顔をあげてヒユウについて自分が知っていることを語り始める。
「その身には尽きることのない無限の魔力を宿し、そしていかなる存在にも絶対の死を与える【即死魔術】の世界唯一の使い手。あふれ出る魔力は無差別に周囲の生命を削り取る。故に、その実力を知ったものは畏怖と異形を込めてこう呼んだ――」
ユアはヒユウの瞳をまっすぐ見つめ、その二つ名を口にした。
「――“生殺与奪”のヒユウ・アイシー」
ライフスが『最も死に近い街』呼ばれる原因は、たった一人の魔術師の存在である。
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