上 下
2 / 4
第一部

1-1 冒険者の街・ライフス

しおりを挟む
 東大陸の中央に位置する都市『ライフス』は、安定した穏やかな気候と肥沃な土壌で育った豊かな自然に囲まれ、豊富な資源に恵まれた街である。

 総人口は北、西、南、東の四大大陸を含めても最大規模であり、また、住人のほとんどが人間種ではあるものの、亜人種や獣人種への差別意識もない平和な街だ。

 そんな平和な『ライフス』は、住人からはこう呼ばれている。

 “冒険者の街・ライフス”

 穏やかな気候、肥沃な土壌、豊かな自然……これらは魔獣や魔物にとっても、育ちやすく繁殖しやすい環境である。街から少し離れれば、群れを成す魔獣や魔物が簡単に見つかることだろう。
 それらの脅威からライフスを守るため、多くの冒険者が雇われているのだ。

 しかし冒険者たちの間では、ライフスは別の呼ばれ方をしている。



――――『最も死に近い街』



 ……ユアとヒユウが出会ったのは、ライフスがそう呼ばれるようになってからちょうど一年がたったころである。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ヒユウさん、お願いします! 私をあなたのパーティーに入れてください!」

 そう言って目の前で頭を下げる少女に、ヒユウ・アイシーはただただ困惑することしかできなかった。


 ライフスにある冒険者ギルドは、いつも多くの冒険者で賑わっている。
 依頼を吟味する者、報酬金を山分けする者、酒に酔って騒ぐ者などなど。老若男女人間亜人獣人お構いなしだ。

 そんな中、隅においやられるように集団から離れて一つぽつんと置かれた小さなテーブルで、まだ二十歳の成人を迎えて間もないヒユウが一人ぼっちでちまちまと酒を呑んでいた時のことだった。

 冒険者の波をかいくぐって、自分に向かって歩いてくる一人の少女が目に入った。

 おそらく十三か、十四かといった年齢で、あどけない顔立ちに亜麻色のセミロングヘア―をした少女だ。
 椅子に座っているヒユウと同じくらいの背丈で、そんな小柄な身体を清潔感のある白を基調としたローブが覆っている。
 手には少女の背丈と同じサイズの杖が握られており、そして少女のサファイアのように澄んだ蒼色の瞳は、まっすぐにヒユウへと向けられていた。

 ヒユウは困惑する。
 あの少女は間違いなく自分に用があるのだろう。あれだけまっすぐに視線を向けられれば、それくらいは考えるまでもなく分かることだ。
 しかし、だからこそ『なぜ』という思いで頭がいっぱいになる。

 なぜ、よりにもよって自分に?

 ヒユウは自分が他の冒険者たちから避けられていることを自覚している。
 こんな大勢で賑わう中、自分の周りだけぽっかりと穴が開いたかのように人が寄り付かないのだから、自覚するなという方が無理な話だ。

 ヒユウは自分が避けられていることも、ついでに避けられる理由についても自覚しているし、納得もしている。むしろ避けられてホッとしているくらいだ。

 だからこそ、少女が自分に近づいてくることに『なぜ』という疑問が尽きないのだ。
 ましてや、よりにもよって女の子からパーティーに入れてくれなんて頼まれては、もう困惑することしかできないのであった。

「えーっと……取り敢えず、君が誰なのか教えてもらってもいいか?」
「あっ、これは失礼しました。ユア・マイハーと申します。どうぞユアとお呼びください、ヒユウさん」

 そう言って、小さくお辞儀をするユア。

「……俺の自己紹介は必要ないみたいだな」

 名乗る前から『ヒユウさん』と呼んでくるユア対し、まあいい意味でも悪い意味でも俺は有名だしな、とヒユウは一人納得する。その顔は、諦めの色が強いどこか達観した顔だった。

「世界最強の魔術師を知らない程、私は無知でも無学でもありませんから」
「なら、どうして俺が誰とも組まず冒険者をやってるのかも、当然知ってるよな?」
「はい。お噂はかねがね」

 ユアはお辞儀をやめると、顔をあげてヒユウについて自分が知っていることを語り始める。

「その身には尽きることのない無限の魔力を宿し、そしていかなる存在にも絶対の死を与える【即死魔術】の世界唯一の使い手。あふれ出る魔力は無差別に周囲の生命を削り取る。故に、その実力を知ったものは畏怖と異形を込めてこう呼んだ――」

 ユアはヒユウの瞳をまっすぐ見つめ、その二つ名を口にした。



「――“生殺与奪”のヒユウ・アイシー」



 ライフスが『最も死に近い街』呼ばれる原因は、たった一人の魔術師の存在である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...