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緑と茶色と遭難
しおりを挟む崖の下には流れの急な川が流れており、その川を下ってしばらく行ったところの岸に、俺とココア・ブラウンは横たわっていた。
「うおぉぉ……生きてるぅ……」
「た、助かった……」
川の流れはかなり早く、泳ぐどころか溺れないようにするだけで精一杯であった。さすがにもう駄目かとも思ったが、途中で川が大きくカーブしている場所があり、そこで少し流れが弱まり、何とか近くにあった背の低い木の枝に捕まることが出来たのだ。ココア・ブラウンもつかんだままだったので、二人とも無事に岸に上がることが出来た。正直、助かったのは奇跡である。
「ふぅ、礼を言うぞ緑。おぬしのおかげで助かった」
「お、おぉ……意外と素直に礼とか言えるんだな」
「失礼だぞおぬし!」
この様子だと、ココア・ブラウンもどこかを怪我していることもなさそうだ。俺も特に体に痛みがあるわけでもないし、お互いに問題ないようだ。問題があるとすれば、仮面が流されてしまい、素顔をさらしたまま変態タイツを着ていることくらいか。
「さて、ふざけるのもこれくらいにして、ここからどうするか考えないとな」
あたりを見渡すも、その景色に見覚えは全くない。もしかしたらかなり遠くまで流された可能性もある。
「どうやらずいぶん流されたみたいだな」
「うむ、そのようだの。まあ上流に向かって歩いていけば、見知った場所に出れるかもしれん」
「なら、とりあえず歩いてみるか意外と何とかなりそうだ」
「うむうむ。知らない土地まで来てしまったのには焦ったが、たいしたことはなさそうだの」
「「はっはっはっはっは!」」
……………………。
「……現実逃避もこれくらいにしておくか」
「……そうだの。いい加減にせんと夜になってしまう」
改めてあたりを見渡す。
前を見れば木、右を見れば木、左を見れば木、川の向こうも木、木、木。
どこを見ても木が生い茂っているだけの、見覚えのない場所だった。
「……どこだ、ここ」
「……森、かの?」
「俺にはジャングルにしか見えないんだが? 何で日本にこんなアマゾンの秘境みたいな場所があるんだよ」
長い長い川に流されると、そこはジャングルだった……なんて、小説の一節になりそうな言葉が頭に思い浮かんだ。冗談になってなくて笑えない。
「どうする緑。このままでは、おぬしが餓死した後にわれも餓死して、二人共のたれ死んでしまうぞ」
「さりげなく食料を独り占めしようとしてることはこの際置いといて、その場合、俺はこのタイツを着たまま死んだ変態として世間に知れ渡るのか……それは勘弁願いたいな」
俺の携帯は水没してしまい使えない。ココア・ブラウンも何か通信手段を持っているようには見えない。つまり、俺達から誰かに助けを求めることは出来ない。
「こうなったら、シンプル・グリーンか鈴ちゃんが助けに来てくれることを願うしかないの」
「だな。もしかしたらもう近くまで来てるかもしれないし」
さすがにあれだけ大きな音がしたのだ。通普も俺達が崖から落ちたことには気づいているだろう。あの後すぐに助けるために行動してくれているのだとしたら、意外と早くに助かるかもしれない。
「われらもできることはしようかの。川に沿って歩いていけば、元居た場所には近づけるであろう」
「ああ、もしかしたら途中であいつらに出くわすかもな」
そう言って、俺はココア・ブラウンの指さす方向へと視線を向ける。
今更ながら、こんな流れの急な川でよく生き残れたものだ。運が悪かったら、と考えると、冷や汗が浮かぶ。もし木の枝を掴むことが出来ていなかったら、溺れていただろう。
ほら、ちょうど流れてきた、あのピンクの魔法少女と、緑色のタイツを着たあいつみたいに…………
「…………ごぽごぽごぽ」
「だ、誰か助け──がぼぼっ! あっ緑──ごぼぼぼ」
「「……………………」」
シンプル・グリーン ト リンチャン ガ タスケ テ ホシソウ ナ メ デ コチラ ヲ ミテイル
タスケマスカ?
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