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作戦
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今日、キャスリーンの姿は騎士団の館にあった。広い作戦室の奥にはもう一つ、上官達が作戦を立てる為の部屋がある。キャスリーンはその部屋を使い、ルディガーを呼び出して報告を聞いている。
部屋の中には大きなテーブルがあり、テーブルの上にはアズールマーレ王国の地図が描かれている。壁面には資料となる本がびっしりと置かれた本棚があり、テーブルの前には指揮官が座る机もあった。
キャスリーンは椅子には座らず、立ったままルディガーの話を聞いていた。
「女の身元について、少し分かりました。女はいつも陛下に同行する娼婦ではなく、別の娼婦だったようです。クラウスが送り込んだんでしょう」
「逃げられて、女は湖に身を投げたんでしたね。せめて生きて捕まえていれば話を聞けたものを」
「そのことなんですが……」
ルディガーは言いにくそうに声を潜めて、デクスターの護衛をしていた騎士がわざと死なせたのではないか、と言った。
「心当たりがあるということですか?」
「……確証はないですが、あの日陛下の護衛をしていた騎士ラングウェルの家は、無茶な事業に手を出して大失敗したんです。それで破産寸前だと噂があります」
「クラウスが、ラングウェルを買収したと?」
キャスリーンは信じられない、という顔をしていた。ラングウェルは上級騎士で、長く騎士団にいてデクスターの信頼も得ていた。
「家を救う為なら、やるかもしれません」
ルディガーは話を続ける。
「それに、狩りに同行していた猟師も姿を消しています。蛇を仕込んだのはその猟師と見て、我々の仲間が追っています……もう生きてはいないかもしれませんけどね」
ルディガーの報告を聞き、キャスリーンは顔を上げた。
「ありがとう。猟師のことは騎士団に任せます……それよりも、クラウスの動向です。彼はどうしているのです?」
ルディガーはため息をついた。
「噂では、キャスリーン様と暮らすつもりなのか、新居の模様替えに励んでいるようですよ。あの男は未だにキャスリーン様との結婚を諦めてはいません。父親が航海から戻ったら婚約式だと、周囲に吹聴しているようで」
「マシュー卿はまだ戻っていないのですか? 予定ではもうブルーゲートに戻っているはず」
「航海が長引いているようで、予定からだいぶ遅れているようです」
「そうですか……」
キャスリーンはアズールマーレ王国の地図に目を落としながら呟いた。港町ブルーゲートからは貿易船が出入りしている。クラウスの父マシューは、沢山の交易品を積んで今頃ブルーゲートを目指しているはずだ。
「キャスリーン様。もうじきクラウスを捕える材料が揃います。猟師が見つかり、証言が取れれば奴を連行できますから、もう少しの辛抱です」
「ええ。お父様へしたことを、必ずあの男に償わせます」
キャスリーンの瞳には覚悟が見えた。
♢♢♢
キャスリーンはその後、騎士のラングウェルを捕えて尋問するように騎士団に命じた。ラングウェルは口を閉ざし続けたが、五日後にようやく口を開いた。彼は実家を支援してもらう代わりに、クラウスに協力していた。捕まえるふりをして暗殺者の女を殺せと命じられたのだと話した。
そしてラングウェルが証言をしたのと同じ頃、猟師を追っていた騎士団は、猟師を見つけて彼から証言を引き出した。猟師はクラウスに金を積まれ、デクスターに蛇をしかけたのだと認めた。
こうしてクラウスがデクスター王殺害に関与した証拠が揃った。キャスリーンは騎士団に、クラウスの連行を命じた。
部屋の中には大きなテーブルがあり、テーブルの上にはアズールマーレ王国の地図が描かれている。壁面には資料となる本がびっしりと置かれた本棚があり、テーブルの前には指揮官が座る机もあった。
キャスリーンは椅子には座らず、立ったままルディガーの話を聞いていた。
「女の身元について、少し分かりました。女はいつも陛下に同行する娼婦ではなく、別の娼婦だったようです。クラウスが送り込んだんでしょう」
「逃げられて、女は湖に身を投げたんでしたね。せめて生きて捕まえていれば話を聞けたものを」
「そのことなんですが……」
ルディガーは言いにくそうに声を潜めて、デクスターの護衛をしていた騎士がわざと死なせたのではないか、と言った。
「心当たりがあるということですか?」
「……確証はないですが、あの日陛下の護衛をしていた騎士ラングウェルの家は、無茶な事業に手を出して大失敗したんです。それで破産寸前だと噂があります」
「クラウスが、ラングウェルを買収したと?」
キャスリーンは信じられない、という顔をしていた。ラングウェルは上級騎士で、長く騎士団にいてデクスターの信頼も得ていた。
「家を救う為なら、やるかもしれません」
ルディガーは話を続ける。
「それに、狩りに同行していた猟師も姿を消しています。蛇を仕込んだのはその猟師と見て、我々の仲間が追っています……もう生きてはいないかもしれませんけどね」
ルディガーの報告を聞き、キャスリーンは顔を上げた。
「ありがとう。猟師のことは騎士団に任せます……それよりも、クラウスの動向です。彼はどうしているのです?」
ルディガーはため息をついた。
「噂では、キャスリーン様と暮らすつもりなのか、新居の模様替えに励んでいるようですよ。あの男は未だにキャスリーン様との結婚を諦めてはいません。父親が航海から戻ったら婚約式だと、周囲に吹聴しているようで」
「マシュー卿はまだ戻っていないのですか? 予定ではもうブルーゲートに戻っているはず」
「航海が長引いているようで、予定からだいぶ遅れているようです」
「そうですか……」
キャスリーンはアズールマーレ王国の地図に目を落としながら呟いた。港町ブルーゲートからは貿易船が出入りしている。クラウスの父マシューは、沢山の交易品を積んで今頃ブルーゲートを目指しているはずだ。
「キャスリーン様。もうじきクラウスを捕える材料が揃います。猟師が見つかり、証言が取れれば奴を連行できますから、もう少しの辛抱です」
「ええ。お父様へしたことを、必ずあの男に償わせます」
キャスリーンの瞳には覚悟が見えた。
♢♢♢
キャスリーンはその後、騎士のラングウェルを捕えて尋問するように騎士団に命じた。ラングウェルは口を閉ざし続けたが、五日後にようやく口を開いた。彼は実家を支援してもらう代わりに、クラウスに協力していた。捕まえるふりをして暗殺者の女を殺せと命じられたのだと話した。
そしてラングウェルが証言をしたのと同じ頃、猟師を追っていた騎士団は、猟師を見つけて彼から証言を引き出した。猟師はクラウスに金を積まれ、デクスターに蛇をしかけたのだと認めた。
こうしてクラウスがデクスター王殺害に関与した証拠が揃った。キャスリーンは騎士団に、クラウスの連行を命じた。
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