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新しい計画
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キャスリーンとクラウスの婚約話が白紙に戻り、しばらく経ったある日の朝。
キャスリーンは父デクスターを見送る為、母エレノアと共に父の部屋を訪ねていた。今日は父が趣味の狩猟に出かける日である。デクスターは狩猟用の装備に身を包み、どこか浮かれ気味だ。
「狩りにご一緒できず、すみません」
「構わんよ。キャスリーンは今日、孤児院に行くんだったな? ジョセフィンによろしく言っておいてくれ。私も今度様子を見に行くとな」
「はい、伝えておきます」
キャスリーンはこの後、城下町にある孤児院を訪問する予定である。その為、父のお供で狩りに行くのを断っていた。
「今回は久しぶりに兄弟水入らずで楽しむことにしよう」
デクスターは機嫌がいい。今日の狩りにはデクスターの弟であるチェスターが一緒だ。二人は狩り仲間で、時々こうして一緒に狩りに行くことがあった。
「楽しむのはいいですが、羽目を外しすぎないようにお願いしますね、お父様」
ニコニコしながらキャスリーンが釘を刺すと、隣のエレノアが冷たい表情でデクスターを見た。
「な、何を言う! 私達はただ狩りを楽しむだけだ」
急に焦りだすデクスターを、苦笑いしながら母と娘が目を合わせる。キャスリーンが一緒の時は、彼女が目を光らせているので彼らは悪さをしないが、キャスリーンがいない時は「謎の美しい料理人」とか「やけに色っぽい看護師」などが彼らに同行しているのだ。
「分かっています。それではお父様、道中お気をつけて」
「……ああ、お前も」
デクスターは気まずそうな顔で返した。
♢♢♢
王宮の北にある森。デクスターは弟チェスターと一緒に、狩りを楽しんでいた。森の中を談笑しながら歩いていたその時、突然デクスターは驚いたような声を出した。
「どうしました、陛下!?」
護衛の上級騎士がすぐにデクスターの元へ駆け寄る。
「何かに足を噛まれたようだ」
驚いた騎士達が周囲を見回す。
「いたぞ!」
すぐに騎士の一人が地面に剣を突き刺し、それを高く掲げた。騎士の剣に刺さっていたのは蛇だった。
「蛇か。この森には詳しい方だが、噛まれたのは初めてだ……」
「すぐに手当てを……!」
「服の上から少し噛まれただけだ。それにこの蛇は毒を持っていない。平気だ」
デクスターはふくらはぎの辺りに目を落とす。外からは特に異常は見当たらない。
「兄上、念のために手当てをした方がいい」
弟のチェスターも心配そうにデクスターの足を覗き込む。
「……ううむ、仕方ない。では私は先に別荘に戻るとしよう」
デクスターは残念そうに呟いた。
「なあに、お楽しみは今夜が本番だろう? 兄上」
チェスターが意味ありげに笑うと、デクスターもニヤリと笑った。
先に別荘に戻ったデクスターは、ベッドの上で看護師の女から手当てを受けていた。
「陛下のおっしゃる通り、大したことはないようですね。毒蛇ではなくて安心しました」
ふくらはぎに薬を塗り、丁寧に包帯を巻きながら看護師の女はデクスターに話しかけた。
「突然私の足を噛むとは、随分気の立った蛇がいたものだな」
デクスターは苦笑いしながら、女と視線を合わせる。女はとても美しかった。色っぽい視線を送りながら、やけに丁寧に包帯を巻いている。
「……お前に医術の心得があるとは知らなかった。ただの娼婦だと聞いていたのだが」
「あら、意外ですか? 陛下」
女は笑みを浮かべたまま、ベッドに横たわるデクスターに顔を近づけた。
その瞬間、デクスターの期待の笑みは、絶望の表情に変わった。
デクスターの首に、女が突き刺した針があった。やがてデクスターの顔面が蒼白になり、ガタガタと震え出すのを女はじっと観察していた。
やがて事切れたデクスターの首に手を当て、針を引き抜くと素早く女は部屋を出た。
「陛下は大丈夫でしたか?」
外で待っていた侍従の言葉を無視し、早足で看護師の女は去って行く。首を傾げながら部屋に入った侍従の叫び声が、別荘の中に響き渡った。
♢♢♢
キャスリーンは城下町にある孤児院を訪ねていた。
山の麓にある孤児院は、周囲を強固な塀で囲まれている。今日はこの塀が壊れたとのことで、様子を見に来ていたのだ。
「思ったよりも大きく壊れたのですね」
塀のすぐ後ろは斜面になっていて、一部が大雨で崩れたのだ。流れ込んだ土砂が孤児院に直撃したが、幸いにも塀が崩れただけで建物自体には被害がなかった。今は塀の修復作業が続いていて、多くの石工が忙しく働いている。
「ええ、キャスリーン様。でも子供たちに被害が出なかったのは幸いでした」
キャスリーンの隣に立つのは、孤児院長のジョセフィンだ。彼女は貫禄のある中年女性で、デクスター王からこの孤児院経営を任されている。
「西の橋の修理に人手が取られて、こちらの修理が遅れて申し訳ありません」
「そんな、謝らないでくださいませ! ここは塀が壊れただけですから、修理は後回しでいいと陛下にお伝えしていたのです」
ジョセフィンは慌てて手を振る。
「ですが、塀が壊れるとおかしな者が入り込む可能性がありますから……」
「そうですね。でも陛下がすぐに騎士をここに派遣してくださいましたから、安心ですよ」
「お父様が?」
キャスリーンは目を丸くした。
「ええ、陛下は常に孤児院のことを気にかけてくださるのです。塀が壊れたと手紙を書きましたら、すぐに護衛の騎士を二人、こちらに寄越したのですよ」
「そうでしたか……」
確かに、孤児院の庭をゆっくりと歩きながら警備をしている騎士の姿が見える。
「陛下はお優しい方です。魔法使いを王宮で保護したり、こんな立派な孤児院を建ててくださったり。常に全ての民に目を配ってくださるのですわ」
微笑みながら語るジョセフィンに、キャスリーンは「……ええ。お父様は素晴らしい方です」と笑みを返した。
♢♢♢
看護師のふりをした暗殺者の女は、森の中を一人走っていた。絶対に逃げ切れると信じ、森を駆け抜けていた彼女の背中に、一本の弓矢が刺さった。
その瞬間目を大きく見開き、そのまま女はうつ伏せに倒れこんだ。
女の遥か後ろに、弓を構えた騎士がいた。彼はすぐに女を追っていた。騎士はうつ伏せのまま痛みにもがく女の身体を持ち上げて担いだ。
騎士は女を担いだまま、すぐ近くの湖へ行く。そして岸に繋いであるボートの中に女を投げ込むように入れ、自分もボートに乗り込んだ。
デクスターを暗殺した犯人は、その日のうちにある騎士の手によって、湖の底に沈められたのだった。
キャスリーンは父デクスターを見送る為、母エレノアと共に父の部屋を訪ねていた。今日は父が趣味の狩猟に出かける日である。デクスターは狩猟用の装備に身を包み、どこか浮かれ気味だ。
「狩りにご一緒できず、すみません」
「構わんよ。キャスリーンは今日、孤児院に行くんだったな? ジョセフィンによろしく言っておいてくれ。私も今度様子を見に行くとな」
「はい、伝えておきます」
キャスリーンはこの後、城下町にある孤児院を訪問する予定である。その為、父のお供で狩りに行くのを断っていた。
「今回は久しぶりに兄弟水入らずで楽しむことにしよう」
デクスターは機嫌がいい。今日の狩りにはデクスターの弟であるチェスターが一緒だ。二人は狩り仲間で、時々こうして一緒に狩りに行くことがあった。
「楽しむのはいいですが、羽目を外しすぎないようにお願いしますね、お父様」
ニコニコしながらキャスリーンが釘を刺すと、隣のエレノアが冷たい表情でデクスターを見た。
「な、何を言う! 私達はただ狩りを楽しむだけだ」
急に焦りだすデクスターを、苦笑いしながら母と娘が目を合わせる。キャスリーンが一緒の時は、彼女が目を光らせているので彼らは悪さをしないが、キャスリーンがいない時は「謎の美しい料理人」とか「やけに色っぽい看護師」などが彼らに同行しているのだ。
「分かっています。それではお父様、道中お気をつけて」
「……ああ、お前も」
デクスターは気まずそうな顔で返した。
♢♢♢
王宮の北にある森。デクスターは弟チェスターと一緒に、狩りを楽しんでいた。森の中を談笑しながら歩いていたその時、突然デクスターは驚いたような声を出した。
「どうしました、陛下!?」
護衛の上級騎士がすぐにデクスターの元へ駆け寄る。
「何かに足を噛まれたようだ」
驚いた騎士達が周囲を見回す。
「いたぞ!」
すぐに騎士の一人が地面に剣を突き刺し、それを高く掲げた。騎士の剣に刺さっていたのは蛇だった。
「蛇か。この森には詳しい方だが、噛まれたのは初めてだ……」
「すぐに手当てを……!」
「服の上から少し噛まれただけだ。それにこの蛇は毒を持っていない。平気だ」
デクスターはふくらはぎの辺りに目を落とす。外からは特に異常は見当たらない。
「兄上、念のために手当てをした方がいい」
弟のチェスターも心配そうにデクスターの足を覗き込む。
「……ううむ、仕方ない。では私は先に別荘に戻るとしよう」
デクスターは残念そうに呟いた。
「なあに、お楽しみは今夜が本番だろう? 兄上」
チェスターが意味ありげに笑うと、デクスターもニヤリと笑った。
先に別荘に戻ったデクスターは、ベッドの上で看護師の女から手当てを受けていた。
「陛下のおっしゃる通り、大したことはないようですね。毒蛇ではなくて安心しました」
ふくらはぎに薬を塗り、丁寧に包帯を巻きながら看護師の女はデクスターに話しかけた。
「突然私の足を噛むとは、随分気の立った蛇がいたものだな」
デクスターは苦笑いしながら、女と視線を合わせる。女はとても美しかった。色っぽい視線を送りながら、やけに丁寧に包帯を巻いている。
「……お前に医術の心得があるとは知らなかった。ただの娼婦だと聞いていたのだが」
「あら、意外ですか? 陛下」
女は笑みを浮かべたまま、ベッドに横たわるデクスターに顔を近づけた。
その瞬間、デクスターの期待の笑みは、絶望の表情に変わった。
デクスターの首に、女が突き刺した針があった。やがてデクスターの顔面が蒼白になり、ガタガタと震え出すのを女はじっと観察していた。
やがて事切れたデクスターの首に手を当て、針を引き抜くと素早く女は部屋を出た。
「陛下は大丈夫でしたか?」
外で待っていた侍従の言葉を無視し、早足で看護師の女は去って行く。首を傾げながら部屋に入った侍従の叫び声が、別荘の中に響き渡った。
♢♢♢
キャスリーンは城下町にある孤児院を訪ねていた。
山の麓にある孤児院は、周囲を強固な塀で囲まれている。今日はこの塀が壊れたとのことで、様子を見に来ていたのだ。
「思ったよりも大きく壊れたのですね」
塀のすぐ後ろは斜面になっていて、一部が大雨で崩れたのだ。流れ込んだ土砂が孤児院に直撃したが、幸いにも塀が崩れただけで建物自体には被害がなかった。今は塀の修復作業が続いていて、多くの石工が忙しく働いている。
「ええ、キャスリーン様。でも子供たちに被害が出なかったのは幸いでした」
キャスリーンの隣に立つのは、孤児院長のジョセフィンだ。彼女は貫禄のある中年女性で、デクスター王からこの孤児院経営を任されている。
「西の橋の修理に人手が取られて、こちらの修理が遅れて申し訳ありません」
「そんな、謝らないでくださいませ! ここは塀が壊れただけですから、修理は後回しでいいと陛下にお伝えしていたのです」
ジョセフィンは慌てて手を振る。
「ですが、塀が壊れるとおかしな者が入り込む可能性がありますから……」
「そうですね。でも陛下がすぐに騎士をここに派遣してくださいましたから、安心ですよ」
「お父様が?」
キャスリーンは目を丸くした。
「ええ、陛下は常に孤児院のことを気にかけてくださるのです。塀が壊れたと手紙を書きましたら、すぐに護衛の騎士を二人、こちらに寄越したのですよ」
「そうでしたか……」
確かに、孤児院の庭をゆっくりと歩きながら警備をしている騎士の姿が見える。
「陛下はお優しい方です。魔法使いを王宮で保護したり、こんな立派な孤児院を建ててくださったり。常に全ての民に目を配ってくださるのですわ」
微笑みながら語るジョセフィンに、キャスリーンは「……ええ。お父様は素晴らしい方です」と笑みを返した。
♢♢♢
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その瞬間目を大きく見開き、そのまま女はうつ伏せに倒れこんだ。
女の遥か後ろに、弓を構えた騎士がいた。彼はすぐに女を追っていた。騎士はうつ伏せのまま痛みにもがく女の身体を持ち上げて担いだ。
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