67 / 80
聖女の矜持編
私がすべきこと
しおりを挟む
今回の野営地は、前回アウリスの討伐に行った時とは別の場所になる。二回目ということもあり、カレンはだいぶ落ち着いていた。
野営地で夜を明かし、翌日の「新月の夜」を待つ。
現地で監視をしていた騎士からは気になる報告があった。瘴気がいつもよりも大きいとのことである。やはりセリーナがいない影響が出ているようだ。
フロスガー副団長は、ブラッドとはまた違うタイプの上官だった。物腰柔らかで楽観的な彼は、瘴気が大きいと聞いて不安がる騎士達を笑って励ましていた。
「フロスガー副団長はいつもああなんだ。でも怒る時はブラッドよりも怖いって話だよ」
エリックはそんなことをカレンに話した。
♢♢♢
翌日になり日が落ちた頃、一行は魔物が現れる地面の裂け目近くに移動した。彼らは慣れた動きで討伐の準備を進めている。聖女達が祈りを捧げ、騎士の剣がそれに呼応して光り出し、辺りを照らした。カレンは前回と同じように青い炎を彼らの頭上に持って行き、星のように散らして見せた。
「おお……!」
フロスガー達はカレンが見せた幻想的な光景に喜んでいるが、サイラス団長の表情は厳しいままだ。
「瘴気の大きさはここ最近見たこともないほどだ。気を引き締めてかかるぞ」
サイラスの一言で、騎士達の表情が変わった。
地面の揺れが収まり、裂け目から現れた魔物達は一斉に騎士に襲い掛かる。魔物の数は明らかに前回よりも多い。
カレンの青い炎は魔物を少し弱体化させているはずだ。だが魔物の数が多く、騎士はどうしても攻撃を受けやすくなる。彼らは次々と傷を負い、聖女の所へ運び込まれてくる。
カレンも急いで彼らの傷を治した。痛々しい傷痕があっという間に塞がっていくことに、当の騎士が驚いていた。
「信じられない……こんなに早く傷が塞がるとは。これならすぐに前線に復帰できます」
「良かった。無理はしないでください」
カレンは喜ぶ騎士にホッと頬を緩める。周囲を見回すと怪我人だらけだ。前回の討伐とは明らかに違う。
「カレン様、エリックが……!」
その時、カレンを呼ぶ声にハッと振り返ると、仲間の騎士に抱えられぐったりとしたエリックの姿があった。
カレンの心臓がどくんとなる。
「早く寝かせて!」
慌てて騎士はエリックを地面に寝かせた。エリックの顔と首のあたりに大きな傷があり、出血が酷い。エリックは意識がない状態で、何の反応もなかった。
「すぐに助けます、エリック様」
無我夢中でカレンは傷痕に手をかざした。
(駄目駄目、まだ逝っちゃ駄目だよエリック様!)
エリックの首の辺りから青白い光が現れ、その光はどんどん強くなった。やがて出血が止まり、恐ろしい早さで傷が塞がっていく。
──もしも私に特別な力が与えられたのだとしたら、それは誰かを助ける為に使うべきなんでしょ? エリセア様──
エリックはゆっくりと目を開けた。そして視線を動かし、その青い瞳はカレンを見つけて止まった。
「……カレン、信じてたよ」
エリックの傷痕はすっかり塞がっていた。カレンは涙を浮かべながら、ハンカチを取り出してエリックの顔についた血を拭った。
「エリック様の綺麗な顔が台無し」
エリックはカレンをじっと見ると、アハハと声を上げて笑った。
♢♢♢
ようやく魔物は地面の裂け目から出てこなくなった。魔物は撤退したと判断し、後は裂け目を塞いで大地の浄化の作業に入る。
今回の戦いはいつもより激しかったようで、時間がかかった。聖女達は皆へとへとだ。だが彼女達の仕事はここからが本番である。早く裂け目を塞がなければ、再び魔物が現れる。
カレンは緊張しながら裂け目の近くへ行った。ばっくりと開いた地面の裂け目からは、何やら蠢く気配がする。
「何か感じますか? あの裂け目から」
隣の聖女にカレンは尋ねる。
「いいえ? もう魔物は地の底に撤退したのですから、ここは安全ですよ」
「そうですよね……あはは」
首を傾げる聖女に笑ってごまかしたカレンは、再び裂け目に目をやる。
(何か聞こえる)
人がざわめくような声がする。カレンはオズウィン司教の言葉を思い出した。この「悪意の塊」はまだ形になっていない。カレンが気をしっかり持てば、何も恐れることはないはずだ。
ざわめきはどんどん大きくなる。怒り、悲しみ、嫉妬、恥、欲望、人間の負の感情が塊のようになって裂け目からカレンに向かってきた。
──来るなら来い! 私はあんた達の悪意を全て受け止めてあげる!──
真っ黒な塊はカレンの体を覆いつくした。
「分かるよ、あんた達の気持ち」
カレンは不敵に微笑む。彼女の体を包むように青い炎が現れ、カレンの瞳は青い瞳と同じ色に輝いていた。青い炎はゆっくりと、彼女を覆った悪意の塊を焼き尽くしていく。
カレンを覆う真っ黒な塊は完全に消えた。そして青い炎はそのままカレンの体を離れ、裂け目の中に真っすぐ飛んで行く。
その炎は激しい光を周囲に放った。こうして裂け目は完全に閉じられたのだった。
野営地で夜を明かし、翌日の「新月の夜」を待つ。
現地で監視をしていた騎士からは気になる報告があった。瘴気がいつもよりも大きいとのことである。やはりセリーナがいない影響が出ているようだ。
フロスガー副団長は、ブラッドとはまた違うタイプの上官だった。物腰柔らかで楽観的な彼は、瘴気が大きいと聞いて不安がる騎士達を笑って励ましていた。
「フロスガー副団長はいつもああなんだ。でも怒る時はブラッドよりも怖いって話だよ」
エリックはそんなことをカレンに話した。
♢♢♢
翌日になり日が落ちた頃、一行は魔物が現れる地面の裂け目近くに移動した。彼らは慣れた動きで討伐の準備を進めている。聖女達が祈りを捧げ、騎士の剣がそれに呼応して光り出し、辺りを照らした。カレンは前回と同じように青い炎を彼らの頭上に持って行き、星のように散らして見せた。
「おお……!」
フロスガー達はカレンが見せた幻想的な光景に喜んでいるが、サイラス団長の表情は厳しいままだ。
「瘴気の大きさはここ最近見たこともないほどだ。気を引き締めてかかるぞ」
サイラスの一言で、騎士達の表情が変わった。
地面の揺れが収まり、裂け目から現れた魔物達は一斉に騎士に襲い掛かる。魔物の数は明らかに前回よりも多い。
カレンの青い炎は魔物を少し弱体化させているはずだ。だが魔物の数が多く、騎士はどうしても攻撃を受けやすくなる。彼らは次々と傷を負い、聖女の所へ運び込まれてくる。
カレンも急いで彼らの傷を治した。痛々しい傷痕があっという間に塞がっていくことに、当の騎士が驚いていた。
「信じられない……こんなに早く傷が塞がるとは。これならすぐに前線に復帰できます」
「良かった。無理はしないでください」
カレンは喜ぶ騎士にホッと頬を緩める。周囲を見回すと怪我人だらけだ。前回の討伐とは明らかに違う。
「カレン様、エリックが……!」
その時、カレンを呼ぶ声にハッと振り返ると、仲間の騎士に抱えられぐったりとしたエリックの姿があった。
カレンの心臓がどくんとなる。
「早く寝かせて!」
慌てて騎士はエリックを地面に寝かせた。エリックの顔と首のあたりに大きな傷があり、出血が酷い。エリックは意識がない状態で、何の反応もなかった。
「すぐに助けます、エリック様」
無我夢中でカレンは傷痕に手をかざした。
(駄目駄目、まだ逝っちゃ駄目だよエリック様!)
エリックの首の辺りから青白い光が現れ、その光はどんどん強くなった。やがて出血が止まり、恐ろしい早さで傷が塞がっていく。
──もしも私に特別な力が与えられたのだとしたら、それは誰かを助ける為に使うべきなんでしょ? エリセア様──
エリックはゆっくりと目を開けた。そして視線を動かし、その青い瞳はカレンを見つけて止まった。
「……カレン、信じてたよ」
エリックの傷痕はすっかり塞がっていた。カレンは涙を浮かべながら、ハンカチを取り出してエリックの顔についた血を拭った。
「エリック様の綺麗な顔が台無し」
エリックはカレンをじっと見ると、アハハと声を上げて笑った。
♢♢♢
ようやく魔物は地面の裂け目から出てこなくなった。魔物は撤退したと判断し、後は裂け目を塞いで大地の浄化の作業に入る。
今回の戦いはいつもより激しかったようで、時間がかかった。聖女達は皆へとへとだ。だが彼女達の仕事はここからが本番である。早く裂け目を塞がなければ、再び魔物が現れる。
カレンは緊張しながら裂け目の近くへ行った。ばっくりと開いた地面の裂け目からは、何やら蠢く気配がする。
「何か感じますか? あの裂け目から」
隣の聖女にカレンは尋ねる。
「いいえ? もう魔物は地の底に撤退したのですから、ここは安全ですよ」
「そうですよね……あはは」
首を傾げる聖女に笑ってごまかしたカレンは、再び裂け目に目をやる。
(何か聞こえる)
人がざわめくような声がする。カレンはオズウィン司教の言葉を思い出した。この「悪意の塊」はまだ形になっていない。カレンが気をしっかり持てば、何も恐れることはないはずだ。
ざわめきはどんどん大きくなる。怒り、悲しみ、嫉妬、恥、欲望、人間の負の感情が塊のようになって裂け目からカレンに向かってきた。
──来るなら来い! 私はあんた達の悪意を全て受け止めてあげる!──
真っ黒な塊はカレンの体を覆いつくした。
「分かるよ、あんた達の気持ち」
カレンは不敵に微笑む。彼女の体を包むように青い炎が現れ、カレンの瞳は青い瞳と同じ色に輝いていた。青い炎はゆっくりと、彼女を覆った悪意の塊を焼き尽くしていく。
カレンを覆う真っ黒な塊は完全に消えた。そして青い炎はそのままカレンの体を離れ、裂け目の中に真っすぐ飛んで行く。
その炎は激しい光を周囲に放った。こうして裂け目は完全に閉じられたのだった。
26
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
王子よ、貴方が責任取りなさい
天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」
王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。
それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。
だけど、私の答えは……
皆さんに知ってほしい。
今代の聖女がどんな人物なのか。
それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる