【完結】聖女の矜持~騎士が愛していたのは、私じゃないはずでした~

弥生紗和

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聖女の矜持編

筆頭聖女と護衛騎士

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 セリーナが初めて魔物討伐に参加した時、恐怖で震えているセリーナに駆け寄ったのがブラッドだった。
 当時セリーナは十五歳、ブラッドは二十歳だった。

「大丈夫ですか!? セリーナ様」
 頭を抱え、今にも泣きだしそうな顔で震えている幼いセリーナに、ブラッドは心配そうに声をかける。
「あ……ありがとう。初めて魔物を見たから……怖くて」
「魔物は俺達が必ず倒します。ですから安心してください」

 ブラッドはセリーナを安心させるように笑った。セリーナはブラッドの笑顔を見てようやく落ち着き、震えながら笑顔を作った。

 セリーナが教会に入ってから一年、まだ若いにも関わらず、彼女の癒しの能力は非常に高かった。セリーナ自身の希望もあり、魔物討伐に参加することになったのだが、やはり彼女はまだ幼かった。戦いの場であまりにも頼りないセリーナを、ブラッドは放っておけなかった。

 それから魔物討伐のたびにセリーナはブラッドを頼った。ブラッドもセリーナに頼られて悪い気はしなかった。
 セリーナは教会に入った時から評判の美少女だった。ブラッドにとって当時の彼女はまだ幼く、女性としてというよりは保護しなければならない存在として見ていた。

 セリーナの美しさに惹かれている騎士は多かったが、中でもサイラス団長は年の離れたセリーナをいたく気に入り、教会に足繁く通ってはセリーナに様々な贈り物をしていた。豪華なアクセサリーや髪留めなど、サイラスの贈り物はどんどん増えていった。

 セリーナは聖女として成長すると共に、女性としても魅力的になっていく。ブラッドは次第にセリーナに対して特別な感情を抱くようになった。だがサイラス団長の意中の人であるセリーナに恋をしていることは、周囲に知られてはならなかった。
 
 ブラッドは当時まだ副団長ではなくただの騎士だったが、セリーナは聖女として成長し、十八歳の時に筆頭聖女となる。そしてセリーナは筆頭聖女の護衛騎士に、ブラッドを指名したのだ。

 セリーナの護衛騎士に任命されたブラッドの喜びは大きかった。ブラッドは騎士としてめきめきと頭角を現していく。その後彼は筆頭聖女セリーナの強い後押しもあり、若くしてアウリス騎士団副団長になったのである。

 セリーナはサイラス団長からずっと求婚されていたが、ずっとかわし続けていた。サイラスからの贈り物は増えていき、セリーナの部屋は豪華になっていく。一方でセリーナはブラッドに対して「あなたは私の一番信頼できる人よ」と言い続け、彼の心を揺さぶっていた。

 ブラッドはいつかセリーナに愛される日が来ることを夢見ていたが、ある日その気持ちは打ち砕かれることとなる。

 セリーナが十九歳になったばかりの時、セリーナはサイラスからの求婚を受け入れ、二人は婚約した。

 婚約発表を聞いたブラッドの落胆は大きかった。はっきりとセリーナに失恋したのだ。そして時間が経ち、徐々にセリーナのことを過去として捉えられるようになっていった。


 そんなある日、ブラッドが出会ったのがカレンだったのだ。


 カレンはセリーナとは全く違う女だった。魅力的な見た目なのに、言葉遣いは上品とは言い難く、立ち振る舞いは雑でろくなマナーも知らない。だが性格は素直で気取った所がなく、前向きな女だった。

 初めてブラッドがカレンを見た時、彼女は寝間着姿のまま、胸元も足もむき出しの格好で呆然としていた。

(気の毒に。寝間着のまま、自分がどこにいるのかすら分かっていないのか)

 迷子の彼女を放っておけず、思わず騎士団で面倒を見ると言った。セリーナとの面会の為に「聖女の本」を渡したら、自分の仕事の合間を縫って本を全部読んだカレンに驚いたものだ。カレンはアウリスの生まれではないが、アウリスを理解しようと頑張っていた。

 カレンがいつアウリスを出てニホンに帰ると言い出すか分からない。それでもブラッドは、カレンと一緒に過ごすたびにどんどん彼女に惹かれていくのを感じていた。

 ブラッドがセリーナに抱いていた長い恋心は、カレンに出会ったことで終わりを迎えたはずだったのだ。
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