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聖女の矜持編
セリーナの告白
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聖女セリーナが魔物討伐に出られなくなって三か月が経つ。
セリーナは教会での祈りは続けているものの、それ以外は自室に籠る日々を送っていた。聖女が重圧で魔物討伐に行けなくなることは珍しいことではないが、セリーナがこのような状況に陥るのは初めてのことで、教会も困惑していた。
自室には彼女の侍女とブラッドしか入室を許可しなかった。今日もセリーナの部屋を訪ねる為、教会の廊下を歩く彼の表情は冴えない。
──カレンが王都に旅立ってからしばらくの間、セリーナは普段通りに元気な姿を見せていた。サイラス団長と婚約解消してから吹っ切れたのか、表情も明るくなり機嫌もいい毎日を送っているようだった。
だが三か月ほど経った頃、セリーナとブラッドの関係に変化が訪れる。
いつものようにセリーナの部屋を訪ねたブラッド。部屋の中にはセリーナと侍女の他に、針子の女が二人いた。
「ああ、待っていたのよブラッド。早くこちらに来て」
セリーナは椅子から立ち上がり、ブラッドの所にやってきた。
「何か……?」
怪訝な顔のブラッドに、セリーナは満面の笑みで出迎える。
「彼女達にあなたの採寸をしてもらおうと思って。あなた達、すぐにお願いできるかしら?」
「はい、セリーナ様」
針子の女達はセリーナに頷くと、早速採寸用の紐を取り出してブラッドの身体を勝手に測り始めた。
「これは………何ですか?」
困惑しながらブラッドはセリーナに尋ねる。
「新しい儀礼用の服を作らせようと思って」
「儀礼用の服なら既に持っていますし、なぜ教会が俺の服を作る必要があるんです?」
セリーナはどこか浮かれていて、ブラッドの困惑の表情にも気づいていない。
「じっとしていてください」
針子の女がピシャリとブラッドに言い、強引に腕を持ち上げて長さを測っている。
「騎士団の儀礼服よりも素敵なものを作りたいの。王国でただ一つの、特別なものよ。出来上がりを楽しみにしていてね」
「あの……説明してもらえますか? セリーナ様。何がなんだかさっぱり分かりません」
「動かないでください」
針子の女達はセリーナとブラッドが話していることに構うことなく、手早い動きで着々と採寸を進めていく。
「私と婚約解消した後、サイラス様は新しい聖女に求婚したそうよ。今度の相手は十八ですって! あの人は本当に若い女が好きなのね」
セリーナはブラッドの質問には答えず、サイラスの噂話を始めた。
「……その噂は俺も聞いてますけど……」
「私、サイラス様の話を聞いて本当に嬉しいの。彼を傷つけてしまったと思っていたから……彼が立ち直ってくれてホッとしているわ。これで、私も先に進めると思ったのよ」
宝石のような美しい瞳で、セリーナはブラッドを見つめる。
「だから……ブラッド。私はあなたの求婚を受けることに決めたの。儀礼服は私とあなたの結婚式に着用してもらおうと思って……」
セリーナは少し俯き、恥ずかしそうに言った。彼女の言葉にブラッドはポカンとした後、急に慌て出した。
「待ってください、セリーナ様! その、俺があなたに求婚……?」
針子の女達は、二人の様子がおかしいことに気づき、静かにブラッドから離れる。セリーナの有能な侍女はそっと針子達に声をかけ、一緒に部屋を出ていった。
部屋の中はセリーナとブラッドの二人だけになる。
静かになった部屋で、セリーナはブラッドに語りかけた。
「ごめんなさい。私はずっとあなたの気持ちに気づいていながら、それに応える勇気がなかったの。あなたはいつも私を守ってくれる護衛騎士で……それ以上の関係になってはいけないと思っていたから……」
ブラッドはずっと驚いた顔でセリーナを見ていた。頬を染めるセリーナの顔は人形のように完璧な顔立ちで、その肌は陶器のように艶がある。
ブラッドは美しいセリーナを長年見つめてきた。その視線がただの護衛騎士のものではないことは、二人を見て来た者なら全員が知っていた。
「……セリーナ様。誤解をさせたのなら申し訳ありません。俺はあなたに求婚をしたつもりはありません」
ブラッドの口から思いもよらない言葉が出てきたことに、セリーナは一瞬意味が分からない、といった顔をした。
「……え? あの……どういうこと?」
セリーナは固まった笑顔でブラッドに尋ねる。ブラッドは言いにくそうに口を開いた。
「セリーナ様は、素敵な方です。俺にはもったいない女性です。セリーナ様には相応しい騎士がきっといます。俺は……あなたとの結婚は考えられません」
セリーナの顔に驚きと絶望が浮かび、その場に呆然と立ち尽くしていた。
「私とは……結婚できないというの?」
ブラッドは困ったような顔でセリーナを見た。
「申し訳ありません」
セリーナは震える手で髪をかき上げた後、取り繕うように笑顔をブラッドに見せた。
「ごめんなさい。私、少し急ぎ過ぎたようだわ。今日のことは忘れて。いいわね?」
ブラッドはセリーナの笑顔を見て、ホッとしたように頬を緩めた──
♢♢♢
そんな出来事があった直後、次の魔物討伐からセリーナが参加しなくなった。教会に残って祈りを捧げる役目も放棄し、部屋の中に閉じこもった。
朝のお祈りには出てくるが、他の聖女達と会話を交わすこともなく、すぐにセリーナは自室に戻った。セリーナの表情は暗く、明らかに何かあったと思われる顔だ。
部屋に閉じこもるようになってからも、セリーナは相変わらずブラッドを部屋に呼びつけていた。部屋に招いて一緒にお茶を飲んだり、ボードゲームの相手をさせたり、ヴァイオリンの練習にブラッドを付き合わせたりしていた。
婚約解消したセリーナがブラッドと部屋で過ごしていることに、いつしか周囲は「二人の結婚は近い」などと噂するようになった。
結婚式用の儀礼服を仕立てている、という話も、その噂に信憑性を持たせた。
そんな噂をされても、ブラッドは否定も肯定もしなかった。ブラッドはずっとセリーナを気遣っていた。彼女が元気を取り戻し、再び魔物討伐に復帰できるよう、彼女のそばに寄り添い続けている。
浮かない表情でブラッドは今日も、セリーナの部屋の前に立つのだった。
セリーナは教会での祈りは続けているものの、それ以外は自室に籠る日々を送っていた。聖女が重圧で魔物討伐に行けなくなることは珍しいことではないが、セリーナがこのような状況に陥るのは初めてのことで、教会も困惑していた。
自室には彼女の侍女とブラッドしか入室を許可しなかった。今日もセリーナの部屋を訪ねる為、教会の廊下を歩く彼の表情は冴えない。
──カレンが王都に旅立ってからしばらくの間、セリーナは普段通りに元気な姿を見せていた。サイラス団長と婚約解消してから吹っ切れたのか、表情も明るくなり機嫌もいい毎日を送っているようだった。
だが三か月ほど経った頃、セリーナとブラッドの関係に変化が訪れる。
いつものようにセリーナの部屋を訪ねたブラッド。部屋の中にはセリーナと侍女の他に、針子の女が二人いた。
「ああ、待っていたのよブラッド。早くこちらに来て」
セリーナは椅子から立ち上がり、ブラッドの所にやってきた。
「何か……?」
怪訝な顔のブラッドに、セリーナは満面の笑みで出迎える。
「彼女達にあなたの採寸をしてもらおうと思って。あなた達、すぐにお願いできるかしら?」
「はい、セリーナ様」
針子の女達はセリーナに頷くと、早速採寸用の紐を取り出してブラッドの身体を勝手に測り始めた。
「これは………何ですか?」
困惑しながらブラッドはセリーナに尋ねる。
「新しい儀礼用の服を作らせようと思って」
「儀礼用の服なら既に持っていますし、なぜ教会が俺の服を作る必要があるんです?」
セリーナはどこか浮かれていて、ブラッドの困惑の表情にも気づいていない。
「じっとしていてください」
針子の女がピシャリとブラッドに言い、強引に腕を持ち上げて長さを測っている。
「騎士団の儀礼服よりも素敵なものを作りたいの。王国でただ一つの、特別なものよ。出来上がりを楽しみにしていてね」
「あの……説明してもらえますか? セリーナ様。何がなんだかさっぱり分かりません」
「動かないでください」
針子の女達はセリーナとブラッドが話していることに構うことなく、手早い動きで着々と採寸を進めていく。
「私と婚約解消した後、サイラス様は新しい聖女に求婚したそうよ。今度の相手は十八ですって! あの人は本当に若い女が好きなのね」
セリーナはブラッドの質問には答えず、サイラスの噂話を始めた。
「……その噂は俺も聞いてますけど……」
「私、サイラス様の話を聞いて本当に嬉しいの。彼を傷つけてしまったと思っていたから……彼が立ち直ってくれてホッとしているわ。これで、私も先に進めると思ったのよ」
宝石のような美しい瞳で、セリーナはブラッドを見つめる。
「だから……ブラッド。私はあなたの求婚を受けることに決めたの。儀礼服は私とあなたの結婚式に着用してもらおうと思って……」
セリーナは少し俯き、恥ずかしそうに言った。彼女の言葉にブラッドはポカンとした後、急に慌て出した。
「待ってください、セリーナ様! その、俺があなたに求婚……?」
針子の女達は、二人の様子がおかしいことに気づき、静かにブラッドから離れる。セリーナの有能な侍女はそっと針子達に声をかけ、一緒に部屋を出ていった。
部屋の中はセリーナとブラッドの二人だけになる。
静かになった部屋で、セリーナはブラッドに語りかけた。
「ごめんなさい。私はずっとあなたの気持ちに気づいていながら、それに応える勇気がなかったの。あなたはいつも私を守ってくれる護衛騎士で……それ以上の関係になってはいけないと思っていたから……」
ブラッドはずっと驚いた顔でセリーナを見ていた。頬を染めるセリーナの顔は人形のように完璧な顔立ちで、その肌は陶器のように艶がある。
ブラッドは美しいセリーナを長年見つめてきた。その視線がただの護衛騎士のものではないことは、二人を見て来た者なら全員が知っていた。
「……セリーナ様。誤解をさせたのなら申し訳ありません。俺はあなたに求婚をしたつもりはありません」
ブラッドの口から思いもよらない言葉が出てきたことに、セリーナは一瞬意味が分からない、といった顔をした。
「……え? あの……どういうこと?」
セリーナは固まった笑顔でブラッドに尋ねる。ブラッドは言いにくそうに口を開いた。
「セリーナ様は、素敵な方です。俺にはもったいない女性です。セリーナ様には相応しい騎士がきっといます。俺は……あなたとの結婚は考えられません」
セリーナの顔に驚きと絶望が浮かび、その場に呆然と立ち尽くしていた。
「私とは……結婚できないというの?」
ブラッドは困ったような顔でセリーナを見た。
「申し訳ありません」
セリーナは震える手で髪をかき上げた後、取り繕うように笑顔をブラッドに見せた。
「ごめんなさい。私、少し急ぎ過ぎたようだわ。今日のことは忘れて。いいわね?」
ブラッドはセリーナの笑顔を見て、ホッとしたように頬を緩めた──
♢♢♢
そんな出来事があった直後、次の魔物討伐からセリーナが参加しなくなった。教会に残って祈りを捧げる役目も放棄し、部屋の中に閉じこもった。
朝のお祈りには出てくるが、他の聖女達と会話を交わすこともなく、すぐにセリーナは自室に戻った。セリーナの表情は暗く、明らかに何かあったと思われる顔だ。
部屋に閉じこもるようになってからも、セリーナは相変わらずブラッドを部屋に呼びつけていた。部屋に招いて一緒にお茶を飲んだり、ボードゲームの相手をさせたり、ヴァイオリンの練習にブラッドを付き合わせたりしていた。
婚約解消したセリーナがブラッドと部屋で過ごしていることに、いつしか周囲は「二人の結婚は近い」などと噂するようになった。
結婚式用の儀礼服を仕立てている、という話も、その噂に信憑性を持たせた。
そんな噂をされても、ブラッドは否定も肯定もしなかった。ブラッドはずっとセリーナを気遣っていた。彼女が元気を取り戻し、再び魔物討伐に復帰できるよう、彼女のそばに寄り添い続けている。
浮かない表情でブラッドは今日も、セリーナの部屋の前に立つのだった。
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