16 / 71
聖女の目覚め編
処分
しおりを挟む
数日後、普段通りに仕事を続けていたカレンは、夕食の時間が終わった頃にアルドに呼び出され、ブラッドのいる副団長室に向かった。
「失礼します……」
中に入ると、机の上で手を組んでいるブラッドと、机の前で腕組みしながら立っているエリックがいた。基本的に夕食が終わると騎士としての時間は終わり、それぞれ自由に過ごすのだが、彼らはまだ働いているようだ。
「来たか、カレン」
ブラッドに手招きされ、カレンはブラッドの前に立つ。横に立つエリックはニコニコしながら「やあ、カレン」と顔を覗き込んだ。
「エリック、ここからはカレンと話すからもう帰れ」
「僕も残るよ。今回のことは僕も少しは関係しているみたいだしね」
ブラックはため息をつくと「……まあいい」と呟いた。
緊張気味に立っているカレンに、ブラッドは話し始めた。
「ラグナルとソーンの処分が決まったから、カレンにも伝えておこうと思って呼んだんだ。あの二人はノクティア騎士団に行ってもらうことにした」
「ノクティア騎士団?」
首を傾げるカレンに、ブラッドは頷いて話を続ける。
「ノクティア領は北の国境に接する。ノクティア騎士団は魔物討伐の他にも、国境警備や山賊との争いなどがあって、傭兵もいるんだが人手が足りないんだ。騎士の派遣は常に歓迎されている所だ」
エリックは笑みを浮かべながらブラッドに続く。
「ノクティア騎士団はね、各領地から騎士を集めているんだけど……国境沿いに出る山賊は荒っぽい連中でね。そういう奴らと渡り合える『荒っぽい騎士』が求められているんだよ」
「ああ……なるほど」
エリックの意味ありげな笑顔に、カレンは納得したように頷く。つまりは「厄介払い」ということなのだろう。
「ラグナルとソーンの二人は、ノクティア領の国境警備に就いてもらうことになるはずだ。お前と会うことはもうないだろう」
カレンは思わず背筋を伸ばした。
「はい、ありがとうございます」
「二人の処分は以上になる。それともう一人、処分をしたからお前に伝える」
「もう一人ですか?」
「針子のアメリアだ。彼女には騎士団の仕事を辞めてもらった。もうここにはいないよ」
エリックは眉を下げ、カレンに話しかけた。
「僕のせいでカレンが逆恨みされたみたいだね。ごめんね」
「アルドに調べてもらった。カレンに関する不名誉な噂は、アメリアがある騎士に話したことが広まってしまったらしい。そのことを真に受けたラグナル達が、カレンを襲おうと計画を立てたようだ」
「不名誉な噂って何ですか?」
大体想像はつくが、一応ブラッドに聞いてみる。
「……カレンが騎士を誘っているという噂だ。だが実際は、誘っていたのはアメリアだったというわけだ」
「あの女ぁー……」
カレンは思わず悪態をついた。こちらから何かしたわけでもないのに、勝手に恨まれて変な噂を立てられて、あげくに襲われるところだったのだ。カレンの怒りは当然である。
「カレンの噂は俺が騎士達に訂正しておいたから心配するな。これで奴らがお前にちょっかいを出すことはもうないはずだ。安心してくれ」
「ありがとうございました。ブラッド副団長」
「気にするな。仕事中に呼び出して悪かったな。戻ってくれ」
「はい、失礼します」
カレンは二人に軽く頭を下げ、副団長室を出て行った。
(騎士団の規律が厳しいのは、なんとなく分かるけど……まさか首ホクロ女まで首にするなんて)
カレンはブラッドの容赦のなさに、少しの恐ろしさを感じたのだった。
「失礼します……」
中に入ると、机の上で手を組んでいるブラッドと、机の前で腕組みしながら立っているエリックがいた。基本的に夕食が終わると騎士としての時間は終わり、それぞれ自由に過ごすのだが、彼らはまだ働いているようだ。
「来たか、カレン」
ブラッドに手招きされ、カレンはブラッドの前に立つ。横に立つエリックはニコニコしながら「やあ、カレン」と顔を覗き込んだ。
「エリック、ここからはカレンと話すからもう帰れ」
「僕も残るよ。今回のことは僕も少しは関係しているみたいだしね」
ブラックはため息をつくと「……まあいい」と呟いた。
緊張気味に立っているカレンに、ブラッドは話し始めた。
「ラグナルとソーンの処分が決まったから、カレンにも伝えておこうと思って呼んだんだ。あの二人はノクティア騎士団に行ってもらうことにした」
「ノクティア騎士団?」
首を傾げるカレンに、ブラッドは頷いて話を続ける。
「ノクティア領は北の国境に接する。ノクティア騎士団は魔物討伐の他にも、国境警備や山賊との争いなどがあって、傭兵もいるんだが人手が足りないんだ。騎士の派遣は常に歓迎されている所だ」
エリックは笑みを浮かべながらブラッドに続く。
「ノクティア騎士団はね、各領地から騎士を集めているんだけど……国境沿いに出る山賊は荒っぽい連中でね。そういう奴らと渡り合える『荒っぽい騎士』が求められているんだよ」
「ああ……なるほど」
エリックの意味ありげな笑顔に、カレンは納得したように頷く。つまりは「厄介払い」ということなのだろう。
「ラグナルとソーンの二人は、ノクティア領の国境警備に就いてもらうことになるはずだ。お前と会うことはもうないだろう」
カレンは思わず背筋を伸ばした。
「はい、ありがとうございます」
「二人の処分は以上になる。それともう一人、処分をしたからお前に伝える」
「もう一人ですか?」
「針子のアメリアだ。彼女には騎士団の仕事を辞めてもらった。もうここにはいないよ」
エリックは眉を下げ、カレンに話しかけた。
「僕のせいでカレンが逆恨みされたみたいだね。ごめんね」
「アルドに調べてもらった。カレンに関する不名誉な噂は、アメリアがある騎士に話したことが広まってしまったらしい。そのことを真に受けたラグナル達が、カレンを襲おうと計画を立てたようだ」
「不名誉な噂って何ですか?」
大体想像はつくが、一応ブラッドに聞いてみる。
「……カレンが騎士を誘っているという噂だ。だが実際は、誘っていたのはアメリアだったというわけだ」
「あの女ぁー……」
カレンは思わず悪態をついた。こちらから何かしたわけでもないのに、勝手に恨まれて変な噂を立てられて、あげくに襲われるところだったのだ。カレンの怒りは当然である。
「カレンの噂は俺が騎士達に訂正しておいたから心配するな。これで奴らがお前にちょっかいを出すことはもうないはずだ。安心してくれ」
「ありがとうございました。ブラッド副団長」
「気にするな。仕事中に呼び出して悪かったな。戻ってくれ」
「はい、失礼します」
カレンは二人に軽く頭を下げ、副団長室を出て行った。
(騎士団の規律が厳しいのは、なんとなく分かるけど……まさか首ホクロ女まで首にするなんて)
カレンはブラッドの容赦のなさに、少しの恐ろしさを感じたのだった。
2
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる