12 / 80
聖女の目覚め編
聖女セリーナ・2
しおりを挟む
セリーナの部屋の中に入ったカレンは、その豪華さにあっけにとられていた。
(何、ここ!? 何この広さ!?)
白を基調とした部屋は眩しいほど明るい。部屋の中には段差があり、一番低い所に何故か池のようなものがある。
(池!? 部屋の中に池ぇ!?)
その池には花が浮かんでいて、魚のようなものはいなかった。池を眺める為のソファが置かれ、更に一段高い場所には大きなテーブルと椅子が置かれている。奥には扉があり、もう一つ部屋がありそうだった。
「いらっしゃい。どうぞこちらにいらして」
美しい楽器のような声だ。セリーナは真っ白なテーブルに座っていた。大きな窓から入る光が、彼女のプラチナブロンドの髪を更に輝かせている。足首まで覆う白のロングワンピースは、他の聖女と違う物だ。彼女だけの特別なものだろう。
まさに「聖女様」だ。セリーナは完璧な顔に笑みを浮かべ、まるで人形のような美しさだった。カレンは圧倒されながら、恐る恐るテーブルに向かう。
「カレン、そんなに緊張しないで。さあ、どうぞおかけになって」
「は、はい。失礼します」
緊張するなと言われても、圧倒的な美を前にしてさすがのカレンも怯む。日本にいた頃はこれでも美人だと言われてきた方なのだ。だがセリーナの完璧な美しさを前にすると、カレンが持っていた少しの自尊心はあっという間に崩れ去る。
「今、お茶を用意させているから少し待ってね? 今日は来てくれて嬉しいわ。ずっとあなたと話したかったのよ」
「わ……私もお会いしたかったです、セリーナ様」
セリーナはカレンを見ながら目を細める。
「使用人の仕事はどう? 嫌なことをされたりしていないかしら?」
「とんでもない、良くしてもらってます。あの……セリーナ様にずっとお礼を言いたかったんです。あなたが私を保護しようと言ってくださったおかげで、私は騎士団の館で仕事をもらえたので……」
「良かったわ。誰も頼る人がいない所で、一人で街に放り出されるなんて……とても辛いことだもの。でも実はね、さっきブラッドには叱ったところだったのよ」
「叱った……?」
カレンがキョトンとすると、セリーナはいたずらっぽく笑った。
「右も左も分からないカレンを、使用人に預けて放っておくなんて……もっと大切に扱うようにブラッドには言っておいたわ」
「いえ、ブラッド様は魔物討伐がありましたし……それに、使用人仲間のエマが色々教えてくれて、助かりました」
「そう? それなら良かったわ……でも、ブラッドが何かあなたに失礼なことをしたら、すぐに私に言ってちょうだいね? 私から言っておきますから」
「ありがとうございます」
話をしながら、セリーナとブラッドの絆を何度も感じる。二人は長い付き合いで、心から信頼し合っているのだろうとカレンは思った。二人の間には、割って入れない雰囲気がある。
セリーナの侍女がワゴンを押し、紅茶とお菓子を持ってきた。
「さあ、どうぞ召し上がってね。気に入ってもらえるといいのだけど……」
カレンの前に出されたのは、香りのいい紅茶と小さな焼き菓子だった。紅茶が美味しいのは勿論、焼き菓子はフィナンシェに似ていて、バターの香りがよくとても美味しかった。
「凄く美味しいです」
笑顔のカレンに、セリーナはホッとした表情を見せる。教会の筆頭聖女だという彼女だが、実際に会って話してみると気さくで優しい女性だった。カレンの緊張も徐々に和らいでいった。
「セリーナ様は、いつからここにいるんですか?」
カレンはセリーナに質問をしてみた。
「私は十四からここにいるの。今二十歳だから……六年になるわね」
「若いのに筆頭聖女だなんて……セリーナ様って凄い人なんですね」
「そんなことはないわ。教会に入って、私には強い力があると言われて……いつの間にかこうなっていたの。もちろん、筆頭聖女として私は務めを果たしているつもりよ。でも……時々逃げ出したくなることもあるわね」
セリーナは冗談なのか本気なのか分からないことを言い、微笑んだ。
「まだ若いんですもん。仕方がないですよ」
カレンはあどけない少女のように微笑むセリーナを見て、少し気の毒に思った。
「聖女様って、傷を癒したり、穢れを浄化したりするんですよね……セリーナ様は生まれつき、そうだったんですか?」
「生まれつき……どうかしらね。聖女の才能が分かるのは、もっと大きくなってからなの。個人差はあるけど、大体十二から十六くらいが多いかしら。いつ、どんな時に聖女の力に目覚めるかは人それぞれなの。カレン、だから私はあなたを保護するべきだと思ったのよ」
「……私に、聖女の才能があるかもしれないと?」
セリーナは真剣な顔で頷いた。
「あなたは教会の敷地内にある、聖女の霊廟で見つかった。あそこは外から侵入するのはとても難しいわ……私は、ひょっとしたらカレンは『聖女エリザベータ様』が遣わしたのではないかと思っているのよ」
「聖女エリザベータ……」
「あの霊廟に眠る、この国で一番最初の聖女となった方よ」
聖女の本の表紙の女性は、聖女エリザベータを描いたものだ。彼女の話は本にも書いてあったなとカレンは思い出す。
カレンは戸惑いながら首を振った。
「そう思ってくれるのは嬉しいんですけど……私はもう二十三歳で、聖女の才能ってやつに目覚めるとは思えません。セリーナ様が期待するような人ではないと思います」
「まだ分からないわ。だから……しばらくはここで過ごして欲しいの」
セリーナはカレンが特別な存在だと信じているようだった。カレンは彼女の表情を見て胸が痛んだ。
(私はただの女だ。日本から何かの拍子にこちらの世界に紛れ込んでしまっただけの)
何の才能もない女だと知られたら、もうここにはいられないだろうとカレンは思った。だが使用人としてなら、なんとか置いてもらえるかもしれない。
(失望されないように、仕事を頑張らないと)
何も持たないカレンが生きていく為には、今の仕事にしがみつくしかなかった。
(何、ここ!? 何この広さ!?)
白を基調とした部屋は眩しいほど明るい。部屋の中には段差があり、一番低い所に何故か池のようなものがある。
(池!? 部屋の中に池ぇ!?)
その池には花が浮かんでいて、魚のようなものはいなかった。池を眺める為のソファが置かれ、更に一段高い場所には大きなテーブルと椅子が置かれている。奥には扉があり、もう一つ部屋がありそうだった。
「いらっしゃい。どうぞこちらにいらして」
美しい楽器のような声だ。セリーナは真っ白なテーブルに座っていた。大きな窓から入る光が、彼女のプラチナブロンドの髪を更に輝かせている。足首まで覆う白のロングワンピースは、他の聖女と違う物だ。彼女だけの特別なものだろう。
まさに「聖女様」だ。セリーナは完璧な顔に笑みを浮かべ、まるで人形のような美しさだった。カレンは圧倒されながら、恐る恐るテーブルに向かう。
「カレン、そんなに緊張しないで。さあ、どうぞおかけになって」
「は、はい。失礼します」
緊張するなと言われても、圧倒的な美を前にしてさすがのカレンも怯む。日本にいた頃はこれでも美人だと言われてきた方なのだ。だがセリーナの完璧な美しさを前にすると、カレンが持っていた少しの自尊心はあっという間に崩れ去る。
「今、お茶を用意させているから少し待ってね? 今日は来てくれて嬉しいわ。ずっとあなたと話したかったのよ」
「わ……私もお会いしたかったです、セリーナ様」
セリーナはカレンを見ながら目を細める。
「使用人の仕事はどう? 嫌なことをされたりしていないかしら?」
「とんでもない、良くしてもらってます。あの……セリーナ様にずっとお礼を言いたかったんです。あなたが私を保護しようと言ってくださったおかげで、私は騎士団の館で仕事をもらえたので……」
「良かったわ。誰も頼る人がいない所で、一人で街に放り出されるなんて……とても辛いことだもの。でも実はね、さっきブラッドには叱ったところだったのよ」
「叱った……?」
カレンがキョトンとすると、セリーナはいたずらっぽく笑った。
「右も左も分からないカレンを、使用人に預けて放っておくなんて……もっと大切に扱うようにブラッドには言っておいたわ」
「いえ、ブラッド様は魔物討伐がありましたし……それに、使用人仲間のエマが色々教えてくれて、助かりました」
「そう? それなら良かったわ……でも、ブラッドが何かあなたに失礼なことをしたら、すぐに私に言ってちょうだいね? 私から言っておきますから」
「ありがとうございます」
話をしながら、セリーナとブラッドの絆を何度も感じる。二人は長い付き合いで、心から信頼し合っているのだろうとカレンは思った。二人の間には、割って入れない雰囲気がある。
セリーナの侍女がワゴンを押し、紅茶とお菓子を持ってきた。
「さあ、どうぞ召し上がってね。気に入ってもらえるといいのだけど……」
カレンの前に出されたのは、香りのいい紅茶と小さな焼き菓子だった。紅茶が美味しいのは勿論、焼き菓子はフィナンシェに似ていて、バターの香りがよくとても美味しかった。
「凄く美味しいです」
笑顔のカレンに、セリーナはホッとした表情を見せる。教会の筆頭聖女だという彼女だが、実際に会って話してみると気さくで優しい女性だった。カレンの緊張も徐々に和らいでいった。
「セリーナ様は、いつからここにいるんですか?」
カレンはセリーナに質問をしてみた。
「私は十四からここにいるの。今二十歳だから……六年になるわね」
「若いのに筆頭聖女だなんて……セリーナ様って凄い人なんですね」
「そんなことはないわ。教会に入って、私には強い力があると言われて……いつの間にかこうなっていたの。もちろん、筆頭聖女として私は務めを果たしているつもりよ。でも……時々逃げ出したくなることもあるわね」
セリーナは冗談なのか本気なのか分からないことを言い、微笑んだ。
「まだ若いんですもん。仕方がないですよ」
カレンはあどけない少女のように微笑むセリーナを見て、少し気の毒に思った。
「聖女様って、傷を癒したり、穢れを浄化したりするんですよね……セリーナ様は生まれつき、そうだったんですか?」
「生まれつき……どうかしらね。聖女の才能が分かるのは、もっと大きくなってからなの。個人差はあるけど、大体十二から十六くらいが多いかしら。いつ、どんな時に聖女の力に目覚めるかは人それぞれなの。カレン、だから私はあなたを保護するべきだと思ったのよ」
「……私に、聖女の才能があるかもしれないと?」
セリーナは真剣な顔で頷いた。
「あなたは教会の敷地内にある、聖女の霊廟で見つかった。あそこは外から侵入するのはとても難しいわ……私は、ひょっとしたらカレンは『聖女エリザベータ様』が遣わしたのではないかと思っているのよ」
「聖女エリザベータ……」
「あの霊廟に眠る、この国で一番最初の聖女となった方よ」
聖女の本の表紙の女性は、聖女エリザベータを描いたものだ。彼女の話は本にも書いてあったなとカレンは思い出す。
カレンは戸惑いながら首を振った。
「そう思ってくれるのは嬉しいんですけど……私はもう二十三歳で、聖女の才能ってやつに目覚めるとは思えません。セリーナ様が期待するような人ではないと思います」
「まだ分からないわ。だから……しばらくはここで過ごして欲しいの」
セリーナはカレンが特別な存在だと信じているようだった。カレンは彼女の表情を見て胸が痛んだ。
(私はただの女だ。日本から何かの拍子にこちらの世界に紛れ込んでしまっただけの)
何の才能もない女だと知られたら、もうここにはいられないだろうとカレンは思った。だが使用人としてなら、なんとか置いてもらえるかもしれない。
(失望されないように、仕事を頑張らないと)
何も持たないカレンが生きていく為には、今の仕事にしがみつくしかなかった。
28
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!
Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。
なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。
そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――?
*小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる