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聖女の目覚め編
騎士団の館・1
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無言のまま、先を歩くブラッド副団長を追いかけるように歩くカレン。教会は白を基調としていて、大理石のような床と壁に掛けられた数々の絵画や、廊下に飾られた胸像など、まるでどこかのお城かと思うほど豪華な造りだ。
キョロキョロしながら教会の中を歩き、ようやく外に出たカレンは外の風景を見てあぜんとした。
教会の周囲がぐるりと巨大な塀で囲われている。見えるのは後ろにある巨大な教会の建物と、固く閉じられた大きな門と、広い庭だ。
「外が見えない……」
この世界の外がどうなっているのか、ここからでは全く分からない。空はどこまでも青く、頬を撫でる風は爽やかで心地よかった。
口を開けたまま周囲を見回しているカレンに、ブラッドがため息をつきながら近づいてきた。そして自分が着ていた上着を脱ぐと、カレンの肩にそれをどさりと掛けた。
「あ……ありがとうございます……重っ!? 鉄板が入ってるかと思った」
その上着はサイドに大きな切れ込みがあるジャケットのようなもので、驚くほど重かった。ブラッドは冷たい目つきのまま、カレンの服装をじろじろと見る。
「寝間着のままで外を歩くのはまずいだろう」
(私、パジャマを着てると思われてる……!?)
カレンは焦って自分の格好に目をやる。旅行中だったので動きやすさを重視し、肩回りが大きく開いたペラペラのワンピースを着ていた。日本にいるならカレンと同じ格好をした女に腐るほど出会うが、ここはどうやら日本とは全然違う世界のようである。
「すいません……寝間着ではないんですけど……でもあの、ありがとうございます」
カレンが変な愛想笑いで礼を言うと、ブラッドは前に向き直り再び歩き出す。
「教会の隣が『騎士団の館』だ。騎士団の館へはそこの門からしか出入りできない」
歩きながらブラッドは、道の先にある門を指さした。そこは正門とは別の場所にあり、門自体もそれほど大きいものではない。
門の前には警備をしている男が立っていた。ブラッドと似た服装なので、恐らくこの男も騎士に違いない。警備の騎士はブラッドの姿を確かめると、背筋を急に伸ばした。
ブラッドは何も言わずに門を当たり前のように通り抜ける。カレンも続けて通り抜けようとすると、騎士はカレンを奇妙なものを見るような目で見てきた。ブラッドの上着を肩に掛け、寝間着みたいな恰好で歩く女が彼の後ろを歩いているのだから当然だ。
騎士団の館の敷地に入ると、またカレンはぽかんと口を開けた。教会は白を基調としているが、騎士団の館は赤レンガ造りの重厚感のある建物だ。そしてこちらも外が見えないほどの高い塀で、全てが囲われていた。
ようやく騎士団の館に着く。玄関に入ると、若い男がブラッドを出迎えた。ブラッドは腰に付けられたベルトを外し、鞘に入った剣を彼に手渡す。
「ブラッド様、こちらの方は……?」
若い男はカレンに気づくと不思議そうな顔をした。
「今朝『聖女の霊廟』で見つかった女だ。聖女の才能はなかったが、教会がこの女をしばらく保護することになった」
「ああ! この方がそうなのですか」
ブラッドはカレンに振り返る。
「自己紹介が遅れたな。俺はブラッド・カートラッド。アウリス騎士団の副団長だ。この男はアルド。俺の従騎士をしている」
「アルドと申します。ええと……?」
カレンはハッとして、慌てて頭を下げた。
「初めまして! 私はカレン……霧崎可憐と言います」
「カレン・キリサキ……? 変わった名だな、まあいい。カレン、お前は今日からここで使用人として働いてもらうことになる」
カレンはごくりと唾を飲み「……はい」と答えた。
「アルド、使用人棟に行ってカレンの部屋を用意するよう言って来てくれ。この女は教会から託されている。それを踏まえて相応しい部屋を用意するようにと」
「かしこまりました」
アルドは返事をするとすぐにどこかへと歩いて行った。アルドが去ってすぐ、ブラッドはカレンに「着いて来い」と言い、先に歩き出した。
不安な気持ちを抱えたまま、カレンはブラッドに着いていく。副団長という立場だからなのか、見た目は若いが随分しっかりとしている男だ。カレンは背が低い方ではないが、そんな彼女から見てもブラッドは背が高く、服の上からでも鍛えていることが分かる体つきだ。
(肩幅広いなあ)
ぼんやりとそんなことを思いながらブラッドの後を着いていくと、ブラッドはある部屋の中に入った。
そこは調理場と思われる部屋だった。中央に巨大なテーブルがあり、テーブルの上には大きな籠がいくつも置かれ、その中には沢山の野菜や果物が入っている。奥にはかまどがあり、壁に据えられた棚にはお皿やコップなどがびっしり並んでいた。
調理場には一人だけいた。若い女で、何かつまみ食いでもしてるのか、口をもぐもぐさせている。ブラッドの姿を見ると慌てて手をエプロンで拭い、こちらへ駆け寄ってきた。
「ブラッド様! ……ええと、何かご用ですか……?」
「エマ、この女はカレンだ。教会から保護を頼まれたから、使用人として仕事を与えようと思う。カレンをお前に預けてもいいか?」
エマは小柄で、とても可愛らしい顔立ちをしていた。怯えた顔をしているカレンに、エマはにっこりと微笑む。
「勿論です! お任せください、ブラッド様」
「エマなら信頼できると思ったんだ。カレンはどこか遠い所から来たようで、この国の勝手が分からないかもしれない。色々大変だと思うが、よろしく頼むよ」
「遠い所から……!? それは大変。えーと、カレンさん? 私、エマって言います。よろしくね」
「カレンです。よろしくお願いします!」
カレンは思わず深々とお辞儀をした。その姿が奇異に映ったのか、ブラッドとエマは思わず顔を見合わせる。
(お辞儀しちゃまずかった?)
顔を上げたカレンは、不思議そうな顔で自分を見るブラッドとエマを見てなんだか恥ずかしくなった。
「……それとエマ、カレンは寝間着のままなんだ。急いで彼女に着替えを用意して欲しい」
「ああ! 本当ですね! すぐにお持ちします」
「それじゃ、俺は戻る。後はよろしく」
ブラッドは部屋を出ようと足を進める。カレンは慌てて上着を脱ぎ、ブラッドにそれを返した。
「助かりました、ありがとうございました。あの……ブラッド様」
「気にするな」
ブラッドはにこりともせずにカレンから上着を受け取り、さっさと調理場を出て行った。
キョロキョロしながら教会の中を歩き、ようやく外に出たカレンは外の風景を見てあぜんとした。
教会の周囲がぐるりと巨大な塀で囲われている。見えるのは後ろにある巨大な教会の建物と、固く閉じられた大きな門と、広い庭だ。
「外が見えない……」
この世界の外がどうなっているのか、ここからでは全く分からない。空はどこまでも青く、頬を撫でる風は爽やかで心地よかった。
口を開けたまま周囲を見回しているカレンに、ブラッドがため息をつきながら近づいてきた。そして自分が着ていた上着を脱ぐと、カレンの肩にそれをどさりと掛けた。
「あ……ありがとうございます……重っ!? 鉄板が入ってるかと思った」
その上着はサイドに大きな切れ込みがあるジャケットのようなもので、驚くほど重かった。ブラッドは冷たい目つきのまま、カレンの服装をじろじろと見る。
「寝間着のままで外を歩くのはまずいだろう」
(私、パジャマを着てると思われてる……!?)
カレンは焦って自分の格好に目をやる。旅行中だったので動きやすさを重視し、肩回りが大きく開いたペラペラのワンピースを着ていた。日本にいるならカレンと同じ格好をした女に腐るほど出会うが、ここはどうやら日本とは全然違う世界のようである。
「すいません……寝間着ではないんですけど……でもあの、ありがとうございます」
カレンが変な愛想笑いで礼を言うと、ブラッドは前に向き直り再び歩き出す。
「教会の隣が『騎士団の館』だ。騎士団の館へはそこの門からしか出入りできない」
歩きながらブラッドは、道の先にある門を指さした。そこは正門とは別の場所にあり、門自体もそれほど大きいものではない。
門の前には警備をしている男が立っていた。ブラッドと似た服装なので、恐らくこの男も騎士に違いない。警備の騎士はブラッドの姿を確かめると、背筋を急に伸ばした。
ブラッドは何も言わずに門を当たり前のように通り抜ける。カレンも続けて通り抜けようとすると、騎士はカレンを奇妙なものを見るような目で見てきた。ブラッドの上着を肩に掛け、寝間着みたいな恰好で歩く女が彼の後ろを歩いているのだから当然だ。
騎士団の館の敷地に入ると、またカレンはぽかんと口を開けた。教会は白を基調としているが、騎士団の館は赤レンガ造りの重厚感のある建物だ。そしてこちらも外が見えないほどの高い塀で、全てが囲われていた。
ようやく騎士団の館に着く。玄関に入ると、若い男がブラッドを出迎えた。ブラッドは腰に付けられたベルトを外し、鞘に入った剣を彼に手渡す。
「ブラッド様、こちらの方は……?」
若い男はカレンに気づくと不思議そうな顔をした。
「今朝『聖女の霊廟』で見つかった女だ。聖女の才能はなかったが、教会がこの女をしばらく保護することになった」
「ああ! この方がそうなのですか」
ブラッドはカレンに振り返る。
「自己紹介が遅れたな。俺はブラッド・カートラッド。アウリス騎士団の副団長だ。この男はアルド。俺の従騎士をしている」
「アルドと申します。ええと……?」
カレンはハッとして、慌てて頭を下げた。
「初めまして! 私はカレン……霧崎可憐と言います」
「カレン・キリサキ……? 変わった名だな、まあいい。カレン、お前は今日からここで使用人として働いてもらうことになる」
カレンはごくりと唾を飲み「……はい」と答えた。
「アルド、使用人棟に行ってカレンの部屋を用意するよう言って来てくれ。この女は教会から託されている。それを踏まえて相応しい部屋を用意するようにと」
「かしこまりました」
アルドは返事をするとすぐにどこかへと歩いて行った。アルドが去ってすぐ、ブラッドはカレンに「着いて来い」と言い、先に歩き出した。
不安な気持ちを抱えたまま、カレンはブラッドに着いていく。副団長という立場だからなのか、見た目は若いが随分しっかりとしている男だ。カレンは背が低い方ではないが、そんな彼女から見てもブラッドは背が高く、服の上からでも鍛えていることが分かる体つきだ。
(肩幅広いなあ)
ぼんやりとそんなことを思いながらブラッドの後を着いていくと、ブラッドはある部屋の中に入った。
そこは調理場と思われる部屋だった。中央に巨大なテーブルがあり、テーブルの上には大きな籠がいくつも置かれ、その中には沢山の野菜や果物が入っている。奥にはかまどがあり、壁に据えられた棚にはお皿やコップなどがびっしり並んでいた。
調理場には一人だけいた。若い女で、何かつまみ食いでもしてるのか、口をもぐもぐさせている。ブラッドの姿を見ると慌てて手をエプロンで拭い、こちらへ駆け寄ってきた。
「ブラッド様! ……ええと、何かご用ですか……?」
「エマ、この女はカレンだ。教会から保護を頼まれたから、使用人として仕事を与えようと思う。カレンをお前に預けてもいいか?」
エマは小柄で、とても可愛らしい顔立ちをしていた。怯えた顔をしているカレンに、エマはにっこりと微笑む。
「勿論です! お任せください、ブラッド様」
「エマなら信頼できると思ったんだ。カレンはどこか遠い所から来たようで、この国の勝手が分からないかもしれない。色々大変だと思うが、よろしく頼むよ」
「遠い所から……!? それは大変。えーと、カレンさん? 私、エマって言います。よろしくね」
「カレンです。よろしくお願いします!」
カレンは思わず深々とお辞儀をした。その姿が奇異に映ったのか、ブラッドとエマは思わず顔を見合わせる。
(お辞儀しちゃまずかった?)
顔を上げたカレンは、不思議そうな顔で自分を見るブラッドとエマを見てなんだか恥ずかしくなった。
「……それとエマ、カレンは寝間着のままなんだ。急いで彼女に着替えを用意して欲しい」
「ああ! 本当ですね! すぐにお持ちします」
「それじゃ、俺は戻る。後はよろしく」
ブラッドは部屋を出ようと足を進める。カレンは慌てて上着を脱ぎ、ブラッドにそれを返した。
「助かりました、ありがとうございました。あの……ブラッド様」
「気にするな」
ブラッドはにこりともせずにカレンから上着を受け取り、さっさと調理場を出て行った。
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