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第八話
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しおりを挟むそれを聞いたキッカが顔を上げる。
そして、セランをまっすぐに見つめた。
「――俺は、西の大陸を治める金鷹の魔王キッカ・クゥクゥだ。翼の下で生きる獣すべてを守ってる」
「私はアズィム族のセラン。砂漠に飛び込んだり、まともに結婚する気のなかった婚約者に復讐しようとしたり、結構考えなしに生きてるよ」
「はは、知ってる」
「そこはもうちょっと、そんなことないよ、とか言ってくれても」
「だって事実じゃん」
笑ってくれたことにほっとする。
落ち込んでいるより、そうしている方がずっといい。
「本当はね、ひどいと思った」
「俺を?」
「うん。騙してたんだ、馬鹿にしてたんだって思ったから」
「う……。……まあ、そうなるよなあ」
「でもキッカだから違うかなって」
「なに。俺、すげぇ信頼されてるじゃん。そう思われるだけのこと、なんかしたっけか」
「たくさんしてくれたよ。何度も私を助けてくれた。それに、なにかと真剣に話を聞いてくれてた気もするし。そんな人が誰かを傷付けるための嘘をつくかなーと思ったの」
「お前、いい奴だよなー」
「私は自分がされたことを返してるだけだよ。もしキッカが本当に私を騙してたなら、とびっきりの復讐を考えてた」
「参考に聞いておくけど、例えば?」
「焼き鳥にする」
「やめろよ、笑えねぇぞ」
そう言うくせに笑っている。
「ばらばらにして串に刺すの。それで、安く売る」
「考えることえげつねぇ……」
「金鷹の魔王の串焼きなんて、評判よさそうじゃない?」
「あのなー……」
くくく、とキッカが喉を鳴らした。
「お前の考えることがぶっ飛んでるのはもともとか。婚約者に捨てられたから魔王になるって言うような奴だもんな」
「す、捨てたのはラシードじゃなくて私だよ」
「目ぇ泳がせながら言うなよ」
「だって本当のことだもの」
「はいはい」
一度は離れたキッカがセランに近付く。
大きな手がセランの頭を抱き寄せた。
そして、仮面のくちばしを擦り付けてくる。
「それ、ちょっと冷たいからやだ」
「いいからじっとしてろっつの」
「やだ」
(だってそれ、なんだかざわざわする)
キッカが近い。それで胸が騒ぐのは、セランの気持ちがキッカの抱くそれと違うせい。
(魔王に告白する女になってやる! ……って思ったけど、いつ言えばいいんだろう?)
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