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第七話

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 がたごと、と揺れる音がした。
 その揺れのせいで頭をぶつけたセランは、ようやく意識を取り戻す。

(……どこ、ここ)

 辺りは暗い。そしてセランと同じように身体を縮こまらせた影が複数。
 すぐに声を上げるようなことはしなかった。
 それでどうにかなる状況ではないとすぐに理解したからだ。
 口は塞がれていないが、両手首は縛られている。おそらくは周りにいる人々もそうだろう。
 がた、と再び揺れた。
 息を殺しながら、改めて自分の状況を整理する。

(誰かに襲われたのは確かだよね。それで……たぶん、どこかに運ばれてる)

 セランがいるのは、荷物を運ぶ馬車の中だろう。
 そして周りにいるのは。

「……っ、ひっく……うっ……」
「お母さん……お母さん……」

(……女の人ばっかり)

 すすり泣きは一人二人のものではなかった。
 見る限り、亜人の姿はない。

(……うーんと)

 こういった状況から見るに、考えられるのはひとつ。
 セランは人攫いに捕まってしまったのだ。

「おい、さっきからうるせぇぞ!」

 外から怒鳴り声が響く。
 びくっとセランの隣ですすり泣いていた女性が震えた。
 見ているだけでも痛ましい。セランは自分よりも幼く見えたその少女にそっと話しかける。

「大丈夫?」
「う……」

 怯えた目で見つめ返される。
 抱き締めてあげたくとも、今、セランの腕は自由を奪われていた。

「泣かないで……」

 セランにできるのはそう声をかけることだけだった。
 ごとごとと揺られながら目を閉じる。
 以前、アズィム族でも人攫いのことで騒ぎになったのを思い出していた。

(あのときも私、眠れないから外を歩いてた。あれは……五歳くらいのときだっけ)

 長の娘とはいえ、セランの扱いはそういいものではなかった。
 眠るときは一人ぼっちで、側にいてくれる人などいない。乳母はセラン以外の子供のもとにおり、母親はもちろん父もそれぞれ好きなように夜を過ごしている。
 本来、五歳という年齢で天幕を独り占めできるのは破格の待遇だった。だが、セランはそれを嬉しいと思ったことがない。
 眠れない日でもたった一人でいなければならず、一度父親の天幕に行ったときは叱られたものだった。父にしなだれかかる複数の女性たちの姿は今も忘れられない。
 だからセランは一人で月を見に行ったのだ。そうすれば眠れると信じて。

(……ああ、そういえば)

 これまで思い出しもしなかった夜のことが次々に浮かんでくる――。
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