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第六話
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しおりを挟む金鷹の魔王キッカ・クゥクゥは生まれて七百年あまりになる。
卵から生まれた生粋の獣人――人間は亜人と呼ぶ――でありながら、それなりに人間たちともうまく付き合ってきた。
深入りせず、かといってまったく手を貸さないわけでもなく、弱肉強食に生きる獣たちの中でも、どちらかといえば優しい気質である。そういった本人の性格もあって周りからの助力を得てきたため、今まで、頭を悩ませるほど困ったことがないのだが。
「あのなー……」
残念ながら、今は違っていた。
その手にあるのは、現れたその瞬間からキッカを混乱させるセランからの手紙である。
そこには、しばらく出掛けてくること、行き先は南の大陸ウァテルであること、同行者はカフであることなどが書かれていた。
問題がなければ数日で帰ってくるともあったが、あの好奇心旺盛でどこにでも首を突っ込みたがるセランに果たせるかは怪しい。
「やっぱ、南の話をしたのがマズかったか……?」
セランはずっとこのナ・ズの砂漠で生きてきた。
当然、水というものがどれだけ貴重なものなのかが染みついている。
キッカはそんなセランにウァテルという水の大陸の話をしてしまった。高級品だと信じている魚がいくらでも獲れることや、どこまでも続く広い海のこと。目を輝かせていたセランを思い出すと、なんとも言えない気持ちになる。
あのとき、セランはキッカに連れて行ってほしいとねだった。話の流れとして自然だったが、本気なのは間違いない。
キッカはそれを断った。セランに対するちょっとしたからかいももちろんある。しかし、それ以上に気恥ずかしさを感じてしまったのだ。
きっとセランは背にいる間、キッカの羽毛に顔を埋めて喋り続けるのだろう。広い海を見下ろして落ちそうになるのだろう。初めての大陸にはしゃぎ、運んだキッカに笑顔で礼を言うのだろう――。
「……っていうか、なんでカフなんだよ」
それが、今のキッカの思いのすべてだった。
今が落ち着いたら連れて行ってもいいと思っていたのに、セランは一足早く自分の目的を果たしてしまった。それも、キッカ以外の手を借りて。
妙に面白くなくて、手紙を握り締めてしまう。
先日、グウェンの言っていたことが思い出された。
恋をしているのではないか、というあれである。
否定はしたが、わからないというのが正直なところだった。
キッカが美しいと感じ、心惹かれるのは見事な尾羽や綺麗に繕った翼である。大きなくちばしを見れば声をかけてみたいと思うし、鳴く歌声が甘ければどきどきもする。
魔王と言えど、どこまでも普通の雄の鳥なのだが。
なにも持たないセランがかかわるとそれが少しだけおかしくなる。
キッカは溜息を吐いてバルコニーに出た。キッカにとってはここももう一つの扉で、外から戻ってくるときはここから出入りする。
外はよく晴れていた。飛ぶにはちょうどいい、気持ちのいい天気なのに、空を見上げるキッカの心は晴れない。
考えるのはセランのこと。
最初に拾ったとき、セランは死ぬために砂漠へ出たのだと思っていた。ならば目的がなければまた死にに行くのではないかと考えた。だから、自身が魔王であることを隠して、魔王になるというセランの背を押した。
とはいえ、セランはどうやらあちこちに気を散らせやすい性格のようで。
最近はそこまで目的に向けて行動していないように見える。キッカが立場を明かしても大して気にしなさそうな空気は確かに感じられた。
何度も告げようとしたというのは事実だった。
言えなかったのは――キッカがセランとの関係を惜しんだから。
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