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第四話
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しおりを挟む「キッカって、ときどき妙にかっこいいね」
「はぁ? なんだよ、ときどきって」
「今、ちょっと思ったの。そういうとこ好きだよ」
「この程度でそんなこと言ってたら、俺が元の姿になったときは大騒ぎだな」
「どうして?」
「今の千倍くらいかっこいいからに決まってる」
「……そうなの?」
「絶対見惚れるぞ。賭けてもいい」
「そう言われると、急にかっこいいと思えなくなるね……」
「なんだよー」
二人同時に声を上げて笑う。
なにげなく手を動かすと、距離を空けていたはずなのにキッカの指が触れた。
気付かずに距離を埋めていたらしい。
懲りずにまたどきどきしてしまったセランは、自分の意識を逸らすために敢えてからかうことにした。
「でも、かっこ悪いところもあるよ」
「え、どこだよ。素顔は見せてねぇし……」
「足が遅いとこ」
「あー……。仕方ねぇだろ。俺、あんまり足使わねぇもん」
「飛ぶから?」
「そう。ちょっとした距離なら、腕だけ翼に変えて飛ぶ」
「そんな器用なことできるんだ……」
「あんまりやってる奴、見たことないかもなー。俺はほら、なるべく人間の姿でいようとしてるだけだから」
(そういえば、さっきも飛んで逃げなかったっけ)
「なにか理由があるの?」
「あると言えばあるけど、お前には言えねぇなぁ」
ちょっとした意地悪というわけではなさそうだった。
キッカにも事情があるのだ――と考え、聞かないでおく。
そこで踏みとどまれたのは、なにかと失言の多いセランにとって進歩だった。
「……ね、そろそろ戻る?」
「おー、そうだな」
どちらも会話の終わりが急だったことには触れなかった。
立ち上がったキッカがセランに手を差し出してくる。
ありがたくその手を取ってセランも身を起こした。
キッカが持っていた笛を口元へ持っていく。吹き鳴らそうとしたその瞬間、セランはふと自分の座っていた場所に目を向けた。
(……ん?)
「キッカ、待って」
「どした?」
「ここ……水があるみたい」
「んあ?」
セランの座っていた場所――正確にはその少し横にあるひび割れた地面。そこにじんわりと染みだしているのは紛れもなく水だった。
深く考えることなく、そこを靴のつま先で掘ってみる。
「なにしてんだ」
「前ね、おんなじようなところを見つけたことがあるの。そのときもこうやって掘ったら、ちょっとだけ水が出てきて――」
セランとしては飲んでしまった分くらいの水を補充できればいいと思っていた。
だが、浅く掘り進めていたそこから、染みだした水の色がじわじわ広がっていく。
「……あれ?」
なんとも間の抜けた声が出たその時、セランの足元から勢いよく水が噴き出した。
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