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第三話

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(昨日のあれ、どういう意味だったのかしら)

 そのとき聞けなかった疑問を、翌日まで持ち越してしまう。
 ティアリーゼは確かにシュクルが「人としか子供を作れない」と言ったのを聞いた。
 トトもどうやら知っているらしいが、内容から察するにメルチゥは知らないだろう。

(……あの言い方だと、他の亜人は同じ亜人同士で子供を作れるけれどシュクルにはできない、って聞こえるわよね。それって亜人を統べる王にとって致命的なんじゃないのかしら。血筋にうるさいのは人間も亜人も同じだろうし)

 ティアリーゼも王宮にいた頃はよく兄の婚約者について聞いたものだった。
 主に教えてくれるのはレレンだったが、「今回の候補者は父親の身分が低くても持参金が多い」だの、「貴族だから候補に入れたのにあんな年齢だと思わなかったらしい」だの、いつも相手の血筋が会話に紛れていた気がする。
 王族の血に下々の血が混ざってはならない――。誰に刻み込まれたわけでもなく、そういうものなのだとティアリーゼの頭には入っていた。

(もし私が結婚することになっていたら、相手はやっぱりどこかの王子だったのかしら。それとも……)

 ティアリーゼはずっと勇者だった。
 だから幼い頃に決めるはずの婚約者もなく、年頃になってもそういった話が出てこないいまま。よりによって殺せと言われ続けてきた魔王に求婚される羽目になっている。

(そう考えると、ものすごく長期的な計画よね。二十年近く、偽物の勇者を作り続けてきたんだから)

 なぜ父が、そして国がそれを選んだのかまだティアリーゼにはわからない。
 ティアリーゼでなければならなかった理由。そうして育てておきながら供物として捧げた理由。
 それを知りたくないからこそ、自由が利く身であっても国に戻ろうとしないのかもしれなかった。

(私のこと、国ではどんな風に言われているのかしらね)

 供物になったと言われているのか、それともまだ平気な顔をして歩き回っていると知られているのか。
 しかし、ティアリーゼは考えを中断させる。
 それ以上考えを深めていると、暗い感情に引きずられてしまいそうだった。
 気を取り直し、今日はどうしようかと考える。
 外は明るい。ならば出かけてみるのもいいだろう。
 昨日は城の中を歩くに留まったが、今度こそ外へ出るのだ。

(シュクルは今日も仕事?)

 窓の外を見ながら、異様なほど懐いてくる魔王のことを思い出す。
 話は通じないし、いきなり求婚してくるし、ティアリーゼに対してまったく遠慮をしない。そんな人なのにきちんと王としての責務をこなしているのは少し不思議な気持ちがした。
 結局、邪魔をするのは悪いだろうと考えて声をかけにいくのはやめる。
 またメルチゥか、あるいは他の誰かに会えればいい。
 そう思いながらティアリーゼは部屋を出て行った。
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