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第6章

傷ついた心

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『おまえはリオンをなんとかしろーー』

『任せてください!ーー』

そうファイさんに勢いよく宣言したのは昨日のこと。
だけど‥現実はそんなに甘くない

あれからリオンさんの様子がおかしい。


「リオンさッ」

「‥」

昼休み。いつもならゴリ押しで二人でランチコースまで持っていけるはずなのに、
今日は一言たりとも返事を返してくれない。

「あの‥リオンさん‥お昼を、」

「‥」

俺を方を一切見ない。
寄せた眉と冷たい空色の瞳が俺への拒絶を全面的に表している‥

昨日の出来事からリオンさんには会っていない。
去り際、否定はしたもののここまでじゃなかったのに‥。

「‥リオンさん。」


俺を無視して去っていく背中。
いつもなら強行突破ストーカーモードで食らいつくのだが、
今のリオンさんにはそれも響かない気がした。



‥‥


虚しさが襲う。
5限目の授業は自習で、各々が仲のいいグループになって集まっていた。

その中で机に伏してリオンさんのことを考える。
何かした?怒らせるようなこと‥うん、沢山してる気がする‥
でもいつもはちゃんと俺の顔を見てくれるのに‥


俺が大っ嫌いって表情だった‥
憎いって感情が伝わってきた。
しんどいな‥もう

やはり昨日の出来事が原因‥
思い返すと俺は、ファイさんという大きな壁に焦って、
自分勝手な言動ばかりとっていたと思う‥リオンさんを取られたくない一心で、
リオンさんが傷ついてしまうような事を散々してしまった。
最終的にはファイさんの魔法を解いたことで良い結果に収まった様に思えたけれど、
リオンさんが傷ついたことに変わりはない。

怒って、恨んで当然だ。もしかしたら傷ついてまたあの時みたいに泣くのを我慢していたんじゃないだろうか。


本当に‥自分勝手で‥最低だよね俺‥あ゛あ!?またネガティブにッ


「えと‥エル‥あの、調子はどうだ‥?」

「‥シオン‥」

伏していた頭上で聞き慣れた声がして、俺は顔を上げた。
毎日教室で顔を合わせているはずなのに、
久々に話したような気がする。
心なしか少しやつれた顔が痛々しく笑った。

「シオン?なにか‥あった‥?」

「ッ‥え、え?なにか、って?」

「‥なんだか、やつれて‥」

「お、俺は元気だぞ!ほら!最近体重が増えたから少しダイエットをな‥はは‥」

これが嘘、ってのはわかる。だけど隠しておきたいことなら、無理には聞かない。


「そっか‥それで、どうしたの?」

「ッ、あの、さ‥その‥」

「‥?シオン?」



「ッーー、リオンのこと、俺に任せてくれないかッ!?」




「っ、え?」


予想外。必死な形相。
けっしてふざけて言い出した言葉ではない。
だけど、なぜが嫌な胸騒ぎがした。

「どうして‥急に‥?」

「、俺に考えが、あるんだ‥。だから‥任せてほしい。」

照れた時はよく目線を逸らすけど、
真面目な話の最中に目が合わないなんて珍しい。
シオンは何を考えているんだ‥?

「考え‥?」

「ああ‥」

俯く顔。それ以上は口を開かない。

「‥教えては、くれないんだね‥。」

「ッ」

「ごめんシオン。俺は、俺の手でリオンさんに思い出してほしいんだ。だから‥全部投げ出して‥任せてしまいたくないんだ‥ごめん。」

俺は俯いたシオンの頭に手を置いて、
そっとその赤毛を撫でた。

気持ちはありがたい‥本当に‥だけど、俺がやらないと、駄目なんだ。駄目な気がするんだ。




「ッ!?あんなにッ‥傷つけられてるのに‥ッ、エルはッ平気なのかよ!?」


カバっと勢いよく顔を上げたシオン。
その瞳は涙で揺れていて、俺は目を見開く。
俺の手を掴んで、大事そうに胸に抱える。また俯いて、ポロポロと地面に落ちる雫に、俺は狼狽えた。

「ッシオン‥?」

「‥耐えられないんだ‥もう‥無理なんだよ‥」

「ちょっと、シオンッ、ッーー、」

「俺にしてよッ‥エルッ‥!」

ぎゅっと俺の腹に抱きつくシオンを受け止める。
苦痛を押し殺したような声。
いつもは明るい彼が、今にも崩れてしまいそうだ。


「俺がリオンの代わりになるからッ‥なんでもするから‥だから‥俺を選んでよッ‥」

「ッ‥」

静かに呟かれた言葉。それはシオンの溢れ出した本音だった。
俺はどうしていいのか分からずにただただ彼の赤髪を見つめる。

俺はシオンの気持ちを考えたことがあっただろうか。
違う、彼なら大丈夫だと勘違いしていたんだ。この世界の主人公だから、シオンはいつだって強かったから

そんなわけないのに‥彼だって普通の人間なんだ。
転生してきた俺と同じ人間。
傷つくし、ボロボロにだってなる‥

‥友達なのに‥気づけなかった‥。

「シ、オン‥ごめん、‥ごめんッ」

こんな言葉しか出てこない自分に腹が立つ。なにがごめんだよッ。
散々助けてもらっておいて‥でも気持ちには答えられなくて‥何様のつもりだよなほんと‥


「ッ‥そんな言葉聞きたくないッ‥‥、

‥エルは勝手にすればいい‥俺も勝手にするから‥」

腕の力が抜けたのと同時に、
シオンが足速に教室を出て行く。
刹那聞こえた言葉に、ここで止めなければ最悪の事態になるような予感がして、俺は必死にシオンに手を伸ばした。

「シオンッ!?まって!ーーシオンッ!?」

「いかせないよーー。」

「ッ、ルー‥」

がしりと掴まれた腕に眉を顰める。
ここのところまともに授業すら受けず、姿を現さなかったくせに、なぜこのタイミングで‥


俺はハッとして教室のドアに視線を向ける。
そこにシオンの姿はなかったーー。

ああ、嫌な予感がする‥。













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