鬼畜な悪党の下っ端に転生したのだが、頑張って生き抜きたい

第6章 選択編

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「ク、ソッ‥、っ」

ふいに押さえつけられていた腕が緩んで、
俺は足りない酸素を吸い込んだ。

「カハッ、はっ‥、ラシルっ‥ごめん、ごめんなッ」

荒い息も構わずに、ラシルの顔を引き寄せて、額と額をくっつける。
俺が間違っていたんだ。弱くて馬鹿で信じることができなかった。


「コロシテヤル」

そんな言葉と同時に虚な瞳から、ツーっと滴が流れ落ちて、それをソッと拭う。

「本当にごめん‥」

何度謝っても足りないだろう。
俺はこの傷だらけの男を裏切ったんだから。
それでも、俺を殺さなかったのはきっと‥

「コロス」

「ごめん‥ごめんな‥」

「コロス、」

ラシルの唇が僅かに震えている。
いくら拭っても止まらない涙に、胸が痛んだ。

「なぁ‥辛いか？」

「コロス」

「泣かないで」

「、」

「ラシル、」

「‥、」

「ラシル」

「ッ黙れッ！」


きつく寄せられた眉。
ラシルは俺の方を見ようとはしない。
ただ、ぎゅっと掴まれた両腕が、痛いほど必死に握り締められていて、

「なぁ‥俺がいないと、ラシルは辛い？」

俺は優しい口調でラシルに問いかける。
少しだけでいい。この状況を変えるきっかけをくれ。俺が勝手に決めつけて放り出していたお前の気持ち。ラシルが俺に望むこと。

「、」

俺が前に進めるようにーーー。

「絶対に俺が必要なのか？」

「ッ、何度もそう言ったッ！」

大きな悲鳴のような声が辺りに響く。
掴まれた腕にぽたりと滴が落ちて、俺はまた、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「‥お前は‥俺の事が、好きなんだな‥？」

「‥ッ」


ふいに、ラシルと目が合って、
見開かれたそれは、やがてスッと細められて俺を睨みつける。


あぁ‥ほんっとズルいやつ‥。だけど、それで充分だよラシル。
ちゃんと、届いたよ。
俺は高まる気持ちを抑えつけて、また口を開いた。



「なぁ‥全部捨てて‥俺と逃げる覚悟はあるか？ーーー。」