鬼畜な悪党の下っ端に転生したのだが、頑張って生き抜きたい

花村 ネズリ

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第5.5章 番外編 鬼の記憶〜

鬼の記憶7

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「くく‥いい子だ‥ご褒美をあげないとな‥」



首筋を触る手は身体中を這っていく。
それが皮膚に触れるたび吐き気がしたが、
凍ったように固まった身体と、役に立たない声にもうどうでもよくなって抵抗することを諦めた。

俺は目を閉じ、思考を削す。どこまでも何もかも
何も感じない。何も感じない。





衣服を脱がされ、
またあの残酷な行為が行われる。


そう構えた時だ。











「ッ、こんのっ、変態があああああッ?!?!」




「なん、ゔぐっ!?ーー」



「っ!?」



視界が急に明るくなりクソ野郎の呻き声と鈍い音に、俺は驚いて目を開く。



「‥」


俺の前に立ち塞がる子ども。
太陽に照らされた髪がオレンジ色に輝いて、
その黄色い瞳がキラキラと俺を捉えた。



どうして‥ここに‥


「お前なぁ!?俺っちを置いていきやがって!!俺この歳で迷子とか恥ずかしくて死にそうだったんだかんなッ

‥、つか、ほんと‥もう俺から離れんなバカ‥」

「っ、」


パサリとアイツの上着を被せられ、俺から顔を隠すようにそっぽを向いたアイツ。
地面にポタリと雫が落ちて、それがアイツが流したものだと理解した途端、胸がひどく締め付けられた。



何故、お前が泣くんだーー





「ぐ、うう‥ふざけたガキがッ!?私の顔に傷をつけたなッ許さない許さない許さないっ」



「っ!?」

「うげ、俺っち石で額殴ったはずなんですけどー‥
変態ってメンタル強すぎじゃない?‥まじで怖いわー‥」



まずい。
起き上がり発狂するクソ野郎。

今の俺じゃこいつを守れない。
このままでは2人共‥ダメだ。こいつにあんな悪夢は耐えられない。

くそ、どうすればっ



「ッ!?」

逃げろ
そう言いたいのに声が出ない。

そうしている間にもクソ野郎が立ち上がり、手を掲げ奴めがけて何かを唱え出す。


魔法かっ、くそ
こいつだけでも逃してッ




「なぁ‥絶対に守るから。お前の事」




ふと、俺に笑いかけるそいつ。
異様なその光景に俺は一瞬時間が止まったような感覚に陥る。
なに、言ってるんだ‥こんな時に馬鹿なのか
いや、馬鹿なのは知っているが‥まさか、狂ったのか?

そうこうしているうちにもクソ野郎からただならぬ魔力を感じて焦る。

放たれたのはどす黒い紫の球体。


「っ、」



ばかっ、にげッーー



「俺の命をお前に捧げる。お前の望む道を俺が切り開いてやる。



お前の為だけに

だから‥頼む。



俺の為に‥生きてくれーー」



その横顔はどこか切なく儚げで
俺はこの状態も忘れて、ただ目の前のこいつに




見惚れていた




俺の、為、だけの



こいつは、






俺のモノなんだーーー






「死ねッ」

球体が小さな体を包み込む。


「ぐっ!?ー





ーーがぁああっ!?!?」




小さな体が悲鳴を上げて叫び声が聞こえて

それでも俺は、
目の前のその背中に


全てを託していた。







音が止み。ばたりと倒れる背中。
皮膚がただれていて、血が所々から吹き出している。
毒魔法か


普通なら、即死。
だが、

徐々に再生していく肌。
やはりこいつは‥





「ああ、子どもの悲鳴は最高だ‥くくく。さあ、王子様、邪魔者は消えましたよ‥」


クソ野郎がまた俺に気味の悪い視線を向ける。
そのおぞましさに一瞬震えたが、
ピクリと動いた指先に安堵し、油断させる為そのままジッと俯く。


「さあ‥おたのしみはこれからーー」

「ーーッは、はは‥何これ‥体溶けてんだ、けど‥ああ、でも‥




大丈夫そうみたいだ‥」


「なっ!?ぐひっ!?ーー」



まるで恐ろしいお伽話に出てくる怪物のようだな‥。
そう思いながら、背後に立ち上がるアイツを眺める。

ゆっくりと立ち上がり、俺に触れようとしていたクソ野郎に乗り掛かる奴。



「なぁ、変態さんよう‥この石で何度殴ったらアンタは死んでくれる?」

「な、な何を言って‥っ、いぐっ!?」


殺気立った瞳は、燃える炎のようにーー


「だーかーらー‥この石っころでお前の脳天何回潰したら死ぬんだって言ってんだよぉッ!?」


「ひ、こいつ化け物か!?くそくそっ!?死ねええしねえええ!?!?がはっ!?」


振りかざす腕は小さく、だけど力強いーー



「いっーーてえなぁッ!!!お次は、毒針ですかぁ!?なあ、あと何回だ?あ〝あ??」


「ぐえっ、やめ、がっ、し、しぬっぎあっ?!ひ、もう、があっ!?」


容赦なく命を奪う小さな身体。


全部、全て‥俺の為だけの行為ーー


「きもいんだよッ変態がックソ野郎ッ地獄に落ちろッ死ねよ、死ねッ死ね、死ねッ、ーーー」





顔面を何度も何度も殴る。
繰り返して、繰り返して‥


血が飛び散り、目玉も抉れ
それでも殴り続ける奴に、笑みが溢れた。



狂ってる。


きっと、俺は狂ってるのだろう。



血に染まる奴の姿が





とても美しく感じたのだ。







「が、あ‥‥‥」





「し、ね‥し‥ね‥はぁ‥はぁ‥っ、



ゔえぇ‥っおえッ」


「‥」


ピクリとも動かなかったクソ野郎と、その顔面に汚く吐き散らす奴。



「ころ、し、ちゃった、‥ほんとに、殺しッ俺っ、く、うえ‥ッ」



正気に戻ったのかクソ野郎から上から這い降りて震えだす。
殺しは初めてだったのか。
それにしては上出来だ。


俺は動けるようになった身体で立ち上がり、
ぐちゃぐちゃになったクソ野郎の頭を踏みつけ懐から契約書を取り出した。


「精霊共‥燃やせ‥」


途端に灰になる紙切れ。
こんな脆いものに縛られていたとは
反吐がでる。

弱い自分にもだ。




「行くぞ」


ガタガタと蹲る其奴にそう声をかける。


「‥、っ、俺、俺っ」


「‥お前‥俺を守るんじゃなかったのか。それとも口先だけか?」

ギロリと睨み付けると、潤んだ瞳を見開くそいつ。

そっと手を差し出す。


この手を掴むなら、
オマエは‥




「っ、‥。‥は、ふぅ‥ごめん‥行こうーーー」






ギュッと掴まれた手は冷たくて
俺は緩んだ口元を隠しながら、
離れないように離さないように、
強くその手を握りしめた。



オマエはもう、オレのモノだとーー
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