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第5.5章 番外編 鬼の記憶〜

鬼の記憶5

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「なあ、アレは‥なん、だ?」

「お、おいっ!?あの人空、飛んでッ!?はぁあ?!?!」

「ひぃ!?化け物ぉおお!?」






「‥。」




煩い。鬱陶しい。



「イッ!?何すんだよ!?」


「少しは黙って歩け‥」


「ゔぐッ、だ、だって‥こんなの見たことねえし‥お、おい!置いてくなよ!!」



「っ‥」



ギュッと掴まれる腕。
何度払っても、はぐれたら危ないと握られる。


あの小屋を出て森を超えて野宿し歩き続け、
ついには追っ手に出会うことなく、人で賑わう街にたどり着いた。


運がいい。
川もあって水にも困らない。
食料だって探せばいくらでも見つけられた。


1つ問題があるとすれば



「へへ!久々に人がいっぱいいるの見たわ~!」


この世間知らず。


こいつと過ごしてわかったこと。
狩は下手くそ。よく怪我をするし、抜けている。何もできない割によく喋るし、やけに馴れ馴れしい。

屋台の売り子や宿屋の大人には余所行きうに振る舞うのに、俺に対してはまるで兄弟の様に接してくる。


「うわ!?あれ見ろよ!!すっげえ!!」


奴隷だったからか、外の世界をあまり見たことがないのだろう。
パレードの魔法を見て喜ぶ姿は年相応の子ども。


とんだお荷物だ
本当に‥鬱陶しい‥




「ふえっ、姉ちゃあああんッ」


「っ!なんだ?迷子か?」

「ほっとけ‥行くぞ」


ここでだって油断ならない。
目立つ行動は避けなければ
もしアイツらの仲間が居て見つかりでもしたら、また地獄行きだ。




「って、は?」


いな、い‥


気づけば繋いだ手は離されていて
俺は無意識に辺りを必死で見廻していた。
あいつは、どこにっ


どこいるんだッ




「どうした?大丈夫か?」

「ゔ‥ふぇ‥姉、ちゃん‥」



「っ!!」



少し離れた人混みの中。
小さな子どもの前にしゃがみこむあいつ。

止まっていた空気を吸い込んで、
長く深く息を吐き出す。
冷や汗と手の震えをゆっくりと抑え込み、
あいつがいる場所へ、足を進める。


沸々の湧き上がるのは怒り。


どうして勝手に俺から離れたのか


自分の立場を分かっていないのか



それとも




「姉ちゃん‥と、はぐれたのか?」


「っ、う、ん‥グスッ」


「んー‥、よし!おいで!俺が肩車してやるから、姉ちゃん探しな!!」


「肩、ぐる、?なに、それ?」

「あ、あれ?こっちにはねえのか‥?えっとな‥こうして‥ちょい足開いて?そうそう。で、こうしてと‥、うんしょおおおお!?!」


「ほあ!?ッ!!高くなった!!凄い凄い!」

「だろ?って言ってもこの身長じゃあんま目立たねえんだけど‥。お前、名前は?」



「ルク!!」


「よし、ルク!!姉ちゃんの名前を大声で呼んでみな!」


「うん!すぅー!リザねえええちゃあああんん!!」


「ぷはっ!!でっけえ声でんじゃん!かっこいいぞルク!!」

「えへへ!!」




2人が笑う。
本物の兄弟のように


兄弟の、ように‥接して‥
俺だけじゃない‥

あいつは‥守れるものなら誰だってそうしたのか‥?



あの日、俺を助けたのも
そいつを助けるみたいに


ただの‥気まぐれな‥正義感







「ルクっ!!よかった見つけた!!もう!離れないでって言ったのに!!バカ!心配したんだよ!?」


「姉ちゃん!!」



「はは!よかったな!」



あいつの言葉に

プツリと何かが切れた音がして、
俺は奴を置いて歩き出した。




「うん!ありがと!!」




知りたかった答えは想像していたよりずっと簡単なことだった。




そう、簡単なこと




「‥?あれ?どこ行ったんだあいつ?」





なんの感情もない。


なんの特別でもない


薄っぺらくて何も残らない。
ただの


欲ーー




偽善者の気まぐれだーー

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