鬼畜な悪党の下っ端に転生したのだが、頑張って生き抜きたい

第5章 再開編

残酷な運命

「‥それも、答えられないのか」


俺が何も言わないと、
ポツリとラシルが呟いた。
呆れたような、疑うような
そんな目だ。


「ゔ‥、くそ‥‥もう、わけわかんねえッ‥」


忘れたままの方がいい。
復讐に燃えていた男が、命を狙われていた男が
こんな町中で堂々と歩いて、過ごして‥
これで、いいのかもしれない。
そう思えば思うほど、心が揺らいでしまう。


どうして俺はこんなにも


寂しいのだろうか




「‥すまない」


「、‥んで、お前が謝るんだよ」

「アンタを困らせた‥」



申し訳なさそうな顔をするラシルに困ってしまう。
どう接していいのかわからない。




「‥別に‥お前のせいで困ってんじゃねえから‥気にすんな。」

「‥」



そう返すと黙りこくってしまったラシル。
それでも尚、俺の肩は掴まれていて
動けない俺は、する事もなくラシルを観察した。


少し伸びた髪。
頼りなく下がる眉。
燃えさかる瞳も今は暗く揺れている。


不安‥


そんな感情。

ぎゅっと掴まれた手は縋りだ。
唯一の記憶の糸口への‥



もし、俺が記憶をなくしたら？
自分が誰かも分からない。
ここが何処かも
何を信じたらいいのか分からなくなって
生きる意味も消え去って
少しでも、何か思い出す為に必死で‥


そうだ
ッ、
当たり前だ。記憶がないんだぞこいつは。
必死なんだ。必死で、探してっ‥


‥、で、も

何も出来ない‥
求められているのに、何も出来ない。


俺を思い出した時
否定されることが恐ろしくてーー
誰かとお前が笑うのを見たくなくてーー



耐えられる自信がない。
胸が張り裂けそうになる。
幸せなお前の顔が、他の誰かを見つめるのなら、きっと俺は耐えられない。





許してくれ。



俺の‥我儘を‥


ラシル‥ごめんな



好きになって‥ごめん‥





「っ‥お前、こそ、記憶なくてしんどくねえか‥？あんまり、抱え込まず、ほら、周りにいる人とかに‥相談、すんだぞ‥お前って昔から溜め込みやすいんだからな？ーー」


「っ！！」


無理に作る笑顔はボロボロだろう。
がははと、大袈裟に笑い、視線をそらす。


早く、帰ろう‥もういい。責任を取ろうだなんて何様のつもりだったの俺っち‥。
危険がないならいいじゃん‥大切にされてんならいいじゃん。悪党なんかより、良い暮らしできるんでしょ。
何もねえ奴が‥他人のために生きるのは、しんどいって‥。

適当に誤魔化せよ、知り合い程度で親しくなかったと
簡単だ。それだけで俺達は終わる。



俺が口を開こうとした時、
肩をつかむラシルの手が、ズルズルとまた俺の手のひらに触れて、びくりと反応してしまう。

な、に