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第5章 再開編
月と共に消える
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「にょあッ!?!?」
「ッーー!?」
暗闇の部屋でライトをつけたかのように、
世界が色づく。
勢いよく飛び起きて、
何度も瞬きを繰り返しては、首を傾げた。
「‥?さっきのは、夢、‥?」
喜一、だよな‥。
アイツが夢に現れて‥あれ‥何て、言ってたんだっけ‥?
「っ!?おいッてめえっ無事かッ‥!?」
「ひえっ!?」
急に右隣から大きな声がして驚く俺っち。
此方に駆けてきたラシル。
ん?さっきまで真隣で座ってたのに‥いつからそんなに離れたんだ?まあ、いいけど、それよりも、またしても違和感
「び、びっくりした、ぶ、無事だけど‥、って‥あれ‥?なんだか口調が戻って、」
早く帰ってこい光ーーー
突然頭に突き刺さるように声が聞こえて、
俺はフリーズする。
この声って、喜一‥?何かあったのだろうか?
そうだ、早く帰らないと。フレイムさんをずっと待たせている。
喜一が待ってるあの城へ。そしたらまたキャッチボール‥付き合ってくれっかな‥。
はは、楽しみだな‥
うん、帰ろう。
頭が帰ることで埋め尽くされて、俺はいつのまにか夕日に照らされた帰り道を見つめた。
「‥俺、帰るわ」
「は、?何故、急に、」
「あー、一応仕事中だし、呼ばれたみたいでさ‥よっと、そんじゃあな‥うおっーー、」
立ち上がって土埃を払っていると、ガシリと掴まれる腕。デジャヴ‥
ど、どしたん?
「、まて」
「っ、お、おう。なに‥?」
「‥名前を‥教えろ‥」
「え、あ‥へ?!な、なま、え‥?!」
「‥頼む‥」
苦しそうな顔。どうしてそんな顔をしているのだろう。
まて、あれ‥?こいつとこんな親しかったっけ?
よく思い出そうとしても、
目の前の男の記憶が、黒い靄のようなもので覆われて
ここまで一緒に来たのは覚えてる‥名前だって知ってた‥だけど、
何故、
必死になってこいつの手を握ったんだ?
「ッ!?」
ーーーあと少しだけっ、少しだけでいいッ、
側にっ‥居させてくれッ
また、喜一とは違う声が頭に響いて、俺は頭にはてなマークを生産する。
誰、だ‥?
あんれー‥なんだ‥これ‥
「おい‥?」
何かを怪しんでいるのか、
俺を睨みつける男。
俺何かしたっけ‥知らぬうちに恨みでもかったのか?まあいい。名前だな。
それくらいなら、簡単に教えてやるさ
「っ、あ、ああ、ごめん!うん、‥いいぜ!
俺は、‥俺の名前は‥な、」
ーーお前はサルファーだろうが
っ??んん??あ、あれれーっ!?
‥いやいやいや、
ヤッベェ‥次から次へと‥知らない人の声が聞こえるとか‥
俺、どこかで頭打ったんかな‥?
とにかく、早く教えて、帰って、寝よう‥
慣れない環境で、きっと疲れたんだ。
「ッ、光、だ。‥よろしくな、ラシルーー」
「‥‥コ、ウ‥か‥。‥ああ‥よろしく‥コウーー」
「‥。」
俺は切なげに揺れるその血のような赤い目を見つめる。
何故、こいつは、そんな顔をするのだろう。
苦しそうだったり、悲しそうだったり‥もっと、
笑えばいいのに‥変なやつ。
「また、ここに‥来るのか‥?」
対面する俺たちの間を、まるで引き離すかのように風がふいて、なんだか切なくなった。
ここに、来るかは分からない。
でも、買出し係ってんなら、来るんだろうな‥
でも、魔族の情報を簡単に人間に教えてもいいのだろうか?
「、え、えっと‥それは‥」
「来るのか来ねえのかどっちだ‥」
「ッ、わ、わかんないッ、俺の上司?みたいな人が決める事だから‥その」
「‥‥上司、かーー」
ギロリと俺に向けられた双眼。
サラリと揺れる金髪は、日が落ちたその瞬間でも月の光に照らされ怪しく輝く。
「お、おう‥」
な、なんか、おっかねえ奴だな‥。
いちいち圧が凄いっての‥俺っちビビリなんだからやめてよほんと‥はぁ‥
‥でも、こいつって‥溜息が出そうな程、綺麗な奴だよな‥月夜の妖怪のような‥
人の血を好む吸血鬼のような
まるで‥
人間じゃないみたいだーー
そんなことを考えながら、
離された手と同時に、フレイムさんが居る森へと歩き出す。
「‥ーーーーー」
その日は風が強くて、掻き消された声と
俺の後ろ姿を、いつまでもアイツが見ていたことなんて知らずに、
俺は魔王城へと無事帰宅したのであった。
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