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第4章 魔王城編
夢うつつの中
しおりを挟む「‥」
ガシリと喜一の背後にへばりついた俺は相当ダサい。
筋肉質なのか、硬いその身体を必死になって止める。
「離せよ‥」
「嫌だ」
「離せってッ!!」
「嫌だッ!?またお前ッ俺を捨てんだろッ!嫌だッもうあんな思いしたくないっ!!」
「っ、光‥?」
睡魔なのか何なのか、色んなものが限界で、
自分で何を言っているのか分からない。
1つ分かるのは、今の俺はきっと醜いってこと
「こっち向け。」
「嫌だ。お前ッ逃げるつもりだろ」
「はぁ‥どこの兎ちゃんだよ。逃げねえから、こっち向け。」
命令。こいつは命令ばかりだ。
いつもいつも俺に命令する。
「‥、」
俺は頑なに動こうとせず、喜一の言葉から耳を背ける。
「はぁ‥もう、何なんだよっ、光ーー‥頼むから、顔を見せろって‥、頼む、よ‥」
「ッ!‥う、ん‥」
弱々しい喜一の声に、俺はニンマリと笑う。
やっと、観念したか!!仕方ねえな、そこまで言うなら見せてやろうっ
力を緩めて、でも腕をしっかり掴んで喜一を招く。
奴が振り返ると同時に
優しい喜一の目が見えて、俺はぼーっとその瞳を見つめた。
綺麗な黒。真っ黒な闇。
俺をずっと見てた。
小さい時からずっと、俺だけを見てたんだ。
だから、勘違いしていた。
こいつの隣はずっと、俺のものだと。
勘違い、してたんだ。
涙を隠すように、
喜一の胸に顔を埋める。
こんなこと、前なら絶対にやらなかった。
いつも触れるのはお前から
俺はプライドの塊で
かっこつけのクール気取り。
変わっていく自分に笑えてくる。
ふと、
優しく背中に伸ばされた腕に、
全身が喜びで溢れた。
心地よく背中を叩く手のひら。
だんだんと瞼が重くなって‥
ゆっくりと、閉じていく
‥
浮かんだ景色は、また真っ白で
テレビから流れるのは、喜一とアイツの活躍。
惨めでその画面を消す事も出来なくて、
ただただ、それを虚ろな目で眺めていた。
俺ならもっとーー
いや、違う。俺はこんな身体なのに
どうしようもできないだろーー
応援、しなきゃ
応援‥
しないと
やめろよ
俺はここに居るのに
そんな奴にッ
笑いかけるなよーー
「きい、ち‥」
「‥なんだ、光」
「‥俺、まだ‥頑張れるから‥アイツより、上手く投げるから‥だか、ら‥捨て、ないで‥‥捨て、ない、で‥」
「ッ、」
捨てないでーー
あの時、
そう縋れていたら、弱音を言えてたら
後悔せずに逝けたのだろうか。
なんて‥もう、終わった話なのにな。
胸が切なくて、痛えのは
またお前が何処かに行ってしまうから
それなら今度は‥ちゃんと‥ちゃんと
捨ててくれーー
そうしないと俺は、何度でも期待して傷ついて
どうしようもなくお前を求めてしまうからーー
だから、
「捨てねえよーー」
っ、
「お前と出会った時から‥一度たりとも目離した事なんかねえよ‥。いつも俺は‥
馬鹿みてえに‥お前だけを見てるよーー光ーー」
頬から流れたものを、冷たい手が拭うのが分かる。
夢うつつの中、目を閉じたまま俺は、それにそっと擦り寄って笑った
「おやすみ、光」
おやすみ、喜一‥
‥‥
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