鬼畜な悪党の下っ端に転生したのだが、頑張って生き抜きたい

花村 ネズリ

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第5章 再開編

思い出と痛み

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ーー大丈夫、俺が見張っててやるから



俺を見て笑う
そんな


少年の肩に頭を乗せる。


母さんが殺されてから
全てを否定した。
気持ち悪かった。何もかも壊したくて
ぐちゃぐちゃに消し去ってしまいたくて

嘘つきばかりの世界
醜いばかりの人間達

だけど、

こいつは何も求めていなかった。


ボケっとして、躓いて
俺の足を引っ張る。

そしていつも笑っていた。
馬鹿みたいに笑っていた。


唯一安心して眠れる場所。


それはアイツの隣だけだーー
















「っ」



なんとも言えない虚しさが胸を襲う。
目が覚めても尚、頭痛は治らない。

夢でさえ、思い出してはいけないのか。
俺が何をしたっていうんだよ




「っ!!ラシル、さんッラシルさん!目を覚まさないからっ‥俺、俺ッ」


ぼーっと天井を眺めていたから気づかなかった。
瞳を揺らす黒髪の少年。


また‥俺の側にいてくれたのか‥





「‥アサ、ヒ‥」


「ふ、う‥」

「何故‥泣く‥俺は何ともない‥平気だ」

「ラシルさんっーー」



ぎゅっと強く抱きしめられて戸惑う。
頭に手をやると、ぐりぐりと擦り寄ってくる様は、まるで犬のようだ。

犬‥犬か‥
ああ、そうだ‥昔真っ黒な犬を飼っていた。


俺によく懐いて‥城を離れてから会っていないが‥どうしているだろう‥



離れた‥?俺は城を離れたのか‥?どうしてーー



またズキリと痛む頭に考えるのをやめる。



「‥すま、ない‥。心配させたな‥」


「はい‥本当に、心配したんですからッ」


「‥悪かった‥皆は?」


「グスッ、今、別室で準備をしているところです。」


「‥出発、するのか‥?」


「いえ‥雷車も運行するまで時間がかかるそうで‥宿代とか、稼がなきゃいけなくなったし、ギルドで仕事をする事にしたんです。」


「‥そう、か‥なら、俺もッーー」


起き上がろうと、ベッドに手をついた途端、
勢いよく押し倒されて、俺は目を見開く。


「だ、ダメですッ!!倒れたばかりなんですよっ!?今日は大人しくしていてください!!」

「だが‥」


「ラシルさん‥お願い‥俺を‥不安にさせないで‥」



また瞳を潤わすアサヒ。
こいつにとって、俺はそこまで価値のある人間だったのだろうか。


ただ頷くことしか出来ない俺を
何故‥




「‥‥分かった‥役に立てなくて、すまない‥」



「ふふ、そんなの気にしないでいいんですよ!ラシルさんはゆっくり休んでいてください!美味しいもの沢山持ってすぐに帰ってきますから!!って俺なんて事をッご、ごめんなしゃいッう、じ、じゃあ!また後で!!」



「‥ああ、気をつけて‥」



顔を真っ赤にして、俺の上から飛んで離れていった黒髪にそう告げる。

慌ただしく閉まった扉。
1人になるとまた虚しくなって
そっと胸元を握りしめた。



役に立たないこの体が
嫌になる。



「散歩にでも‥いくか‥」



外の空気を吸えば、少しは‥この痛みも楽になるかもしれない‥




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