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第4章 魔王城編
心のキャッチボール
しおりを挟む「ほらこいよ。」
俺から距離を取ると、片膝をつき、構える喜一に困惑する。
「で、でも、俺、もう何年もボール触ってねえし‥し、しかもここ室内だし‥」
「はあ?ごにょごにょしてんじゃねえよチビノロマ!」
なっ!?俺は、また青に怒られるんじゃないかって心配して言ってんのにッ
もうしらねえ!?その気ならやってやろうじゃねえの!?
久々に肩を回して、
そしてボールをキュッと指で握る。
トントンと、二度足のつま先で地面を蹴ってから
深呼吸をし、
そして、相棒の合図を確認する。
思い出すのは、あの頃の風景。
砂煙の匂いと、青い、青い空ーー
観客が俺の名を呼ぶ。
エース、エース‥エース
神経を研ぎ澄まし
狙いを定めて
腕を振りかぶるーー
「‥、お前こそ、話、そらしてんじゃ、ねーよッ!!!ーーー」
全力投球ーーー
球は真っ直ぐに喜一のグローブへと向かう。
「っーーー」
パンッ!!ーー
と室内にその音が響いて
身体中から何かが溢れ出すような、満たされていくような高揚感と、
そのあまりにも懐かしく愛しい音に
目元が熱くなった。
入った。
ど真ん中のストレートだ
「‥は、ナイスボールだ相棒。」
俺の球を受けてニヤリと笑う喜一に
ポロリと雫が頬を伝って
湧き上がる感情を抑えきれない。
「ゔ、‥ゔッ、え‥」
「えっ、は?!何泣いてんだよ!!」
ダッセェな、ダッセェよ俺
男のくせにほんと、
怪獣みたいにギャーギャー泣いてさ
「だっで~ぎいぢ~ッ、オレ、オレ~ッゔゔ」
「ああ、くそ!?なんなんだよ!おい!!泣き芋虫野郎ッ!!」
慌てふためく喜一が俺の側にいて、また涙が止まらなくて
喜一が
また俺の球を受けてくれた。
「お、おい‥どうすりゃいいんだよ‥」
お前は知らない。
病院の中で、あの真っ白な部屋で
ずっとお前を待ってたんだ。
謝りたくて
話したくて
だけど
体が動かないからお前の元に行けなくって
テレビでお前の顔が何度も映って
嬉しくて悲しくて
会いたくて
側にいてほしくて
ただずっと待ってたんだぜ俺。
「ふぅ‥えぐっ、ぎ、ぎいち‥ッ」
「うおッ、な、ななな、にッ‥こ、光‥?」
目の前にいるのは確かに喜一で。
俺はもっと喜一を確かめたくて、
その身体にギュッと抱きついた。
また、お前と野球がしたかったんだーー
ずっと、ずっと
そんな願いが
叶っちまうなんて
やべえ、
どうしようもねえほど‥嬉しいや
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