鬼畜な悪党の下っ端に転生したのだが、頑張って生き抜きたい

花村 ネズリ

文字の大きさ
上 下
87 / 134
第4章 魔王城編

檻の中

しおりを挟む
‥アサヒside



暗闇で歩きづらい階段を、前の兵士に続いて降りていく。

湿気でじめっと濡れたそこは、カビ臭くて
こんなところに親友を閉じ込めたままにしていた自分も、この世界に来てからおかしくなってしまったのかもしれない。





「おい、出ろ」




兵士が鉄格子の前で止まり、
その中で魔力封印の鎖に繋がれた彼に話しかける。


いつも明るくて、正義感が強くて
誰もが彼の笑顔を愛した。
それなのに‥
その笑顔は今や闇のような絶望の色をしている。
罪悪感が胸を襲う。




「っ、は、急に檻の中に放り込んで‥その次は出ろって?勝手すぎるよ本当‥」



渇いた笑いはすぐさま無になり、そして怒りに変わる。
魔力封印の鎖でさえ、彼の魔力に振動して、壊れてしまいそうだ。

膨大な魔力量。

全てを癒し照らし
全ての闇を無に還す。
光属性。



勇者の運命を背負いし者ーー




「ユウ‥」



「ッ、アサヒ‥っ、どうして」




俺を見て目を見開くユウ。
当たり前だ。

あの日、

俺がサルさんを殺した日ーー

ユウを気絶させ拘束して
この城の地下牢に入れたのは、俺なのだから


恨まれて当然だ。
ユウはサルさんに懐いていたし、
‥好意を寄せていた。


幼馴染だからこそ分かる。
ユウにとっての初恋だった。

それを俺は‥
恨まれて当然。俺の顔なんて見たくないだろう。


だけど

この計画は
お前がいなきゃダメなんだよ‥



「ユウ、頼む‥頼むよ‥俺に、力を貸して‥」



ラシルさんが好き。本当に‥大好き。
あの人の為なら死んでもいいとさえ思える程、俺は彼に恋をした。

あの人を助けたい。
あの人を自由にしたい。
あの人の笑顔が見たい。愛情に溢れた暖かいそんな笑顔‥サルさんに向けていたような‥




「だからっ‥勝手すぎるんだってば‥サルくんをっ、殺したくせにッ」



「っ、」



「俺は協力しない。もう親友だなんて思えない‥」



俺には光属性の加護がない。
いや、この世界の精霊からもらった加護なんて1つもなかった。ただ、
その代わりか、創造というチートな能力が俺に備わった。


この世界にある属性魔法の創造はできないが、
地球でよく見た漫画やアニメの能力なら、イメージしただけで発動させられる。

無敵の力ーー

これさえあれば‥力になれると
‥思ったのに



「、サルさんは、生きてる」



「へ、」



闇属性は特殊で、
他の属性や能力は一切通用しない。



「サルさんは生きてるんだ。今はたぶん魔王城にいる。だから‥サルさんを取り戻す手助けを手伝って‥


貴方もです、光帝‥ゼノさん」


闇に勝る力、それは光のみーー







「‥その情報‥嘘なら、お前をこの手で殺すぞ‥」



暗闇の中、白い髪が揺れて、キラキラと輝いた気がした。

光属性の使い手は珍しい。
加護を与えられるものは、
とても繊細な心の持ち主が多いと聞く。そして心に大きな傷があるものだとも

だから、神が哀れんで、加護を与えたとか。





「はい‥」


「分かった‥協力しよう‥」



光帝、ゼノーー
確か幼い頃に盗賊に両親を殺され、
妹は自害したんだっけ‥


あの人は情報を持ちすぎていると思う。
しかも、それを俺にベラベラと話すから、少し心配だ。まあ、助かっているからありがたいけど



あとは




「ありがとうございます。



‥ユウ」



「ッ、サルくんを助けるためだから‥」








お前も‥サルさんを選ぶんだね




「ありがとう‥行こう、」



ーー勇者召喚されしとき、
同じく光の加護与えられし者2人現れる。

悪しき魔王倒し、国守るためにその者達、勇者に遣えよ。
古より、それは運命なり。

王はこれを絶対とすること。
それが世界を支配する絶対王の誕生の予兆となり、道となるであろう。ーー予言の書より




2人を連れて、兵と共にまたあの階段を上る。
向かうは、彼の待つ部屋で

彼を巻き込むって考えるだけで、心臓が変に痛くなる。本当にこれでいいのかさえ、分からない。

もう俺は、目の前のものに縋ることしかできないのだ。
俺はぎゅっと胸を押さえつけた。



クロスが言っていた予言の書。
古から伝わる預言者が書いた本。




ーー私は、この世界を手に入れたいんだ。君は協力してくれるよね、アサヒ。
まずは‥勇者と‥彼と共に魔王退治をしてくれる、お共達とやらを説得してきてくれーー



勇者のユウと

光属性の2名。
光帝のゼノ



そして







「っ、‥アサヒ‥、こいつら、は‥?」



ガチャリと開けた彼の部屋のドア。
俺を見て安心する顔と、背後の人間に警戒する姿が、なんだか可愛くてクスリと笑ってしまった。







「‥ラシルさん‥大丈夫です‥この人達はーー」



もう1人、
光属性の加護を受けし、呪われた王子ーー




ラシル・レインホート




本当に








馬鹿げたお伽話だーーー
しおりを挟む
感想 183

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

処理中です...