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第4章 魔王城編
溢れ出す
しおりを挟む「あ‥なん、で」
俺は目を見開く。
ぶわりと感情が渦巻いて
それが一気に零れ落ちる
喜一の目が優しく細められて、
もう片方の手のひらが、俺の頬の雫を拭った。
「泣いてんじゃねえよ‥笑えクソチビ」
「ゔ、あ‥」
喜一がにかりと笑う。
あの頃と同じように笑う。
俺の光‥
眩しくて温かい俺の救いだった
この光を掴みたくてずっとーー
夢、なのかもしれない
喜一がこの世界で俺の前に現れたその時から、ずっとそんな事を考えていた。
だって、目の前に喜一がいて
死んだはずの俺が居て
また、あの頃と同じように喜一が俺に微笑んでいるのだから。
こんなの、夢だきっと
だけどそれでも嬉しくてたまらなかった。
まるで時間が戻ったかのような錯覚にとらわれる。
涙を止めるなんて不可能だ。
だって
あの時、
一番聞きたかった言葉を、お前自身が口にした
「お前はッ、ズルいっ‥どうして今、そんなこと言うんだよッ‥俺ッ、俺、お前に酷いこと言ったのにッ」
「俺の名前、知ってんだろバーカ。ちゃんと呼べよ」
俺の前髪を搔き上げるその手が優しくって
俺の顔面は大洪水だ
「グスッ、き、いちぃ‥っ、喜一ッ」
「ふは‥ああ、ここにいるぜ、コウ」
心のどこかで、
欠けたピースがはまったような、そんな開放感と共に、
目の前にいる喜一と、その言葉に、ここが現実なのだと、やっと実感した。
安堵と後悔が同時に押し寄せてくる
死ぬことよりも、野球が出来なくなることよりも、お前に捨てられる事が一番辛かった
ずっと凝り固まっていた石のような記憶が、
喜一のたった一言で浄化されて、また涙が溢れる。
言わなきゃいけない
言わなきゃ
あの日、言えなかった思いをお前にーー
「グスッ、きい、ちぃ‥お、俺ッ俺っ、ずっと、言いたかったっ‥あの日の事、ごめんってっ、俺っ、短い人生だったけどっ、喜一がいてくれてよかったってっ‥優勝、おめでとうってっ、ゔう‥ほん、とに、ありがと、
きい、ち、‥
俺の人生に居てくれて、ありがとうっきいちっ!ゔ、ぶあっ!?」
刹那、
強く頭を引き寄せられて驚いた俺は、情けない奇声をあげた。
い、今、一番大事なとこだったのにッ、舌噛むかと思ったよ!な、なにごと!?
「き、い、ち‥?」
ゆっくりと俺に近づく喜一の顔は辛そうに、そして嬉しそうなそんな複雑な表情で、
彼の熱のこもった瞳に困惑する。
俺の頭を引き寄せるその手は決して無理矢理ではなくて、
いつでも振り払えるように
まるで逃げ場を与えているような
だけど、
俺は流れるように、
自然と瞳を閉じた
これは友情なんかじゃない
言葉で表すにはそんな生ぬるい感情では無い気がした。
そして愛情でもない
言葉にできないそんな‥
ただ、今は
こうしていたかったんだーー
「そこまでです」
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