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第3章 復讐編
ぐるぐる回る
しおりを挟む‥
駆け寄った先に、
死人のような青白い顔をしたラシルがいて俺はその姿に目を細める。
氷の魔法‥
地球の漫画でよく見たことがある。
だけど、この世界には存在しない‥
犬くんの剣が頭に浮かんで、
唇を噛みしめた。
ダメだ。
このままじゃいけない。
俺の中の本能がそう告げる。
ラシルの頬に触れようとした時だ、
「‥‥ころ、す、‥アイツラ ヲ コロサナイトーーー」
突然、
バキバキと氷が破れて、
物凄い熱風が、俺に襲いかかる。
「ッ、ら、ラシル‥?」
「、‥その名で‥俺をッ呼ぶんじゃねぇ!!」
虚ろの目に怒りが灯って、
ラシルの怒鳴り声と共に、彼の全身を覆う火山のマグマのようなものが、
生き物のように動き俺に飛びかかる。
俺は咄嗟のことに対応できずに、
ただただ頭を守るように腕でガードすることしかできない。
まずいっ、あれを浴びたらっ、
「ッ、ぐえ?!」
刹那、俺の首に巻きつく誰かの腕。
気づけば、ラシルから離れた場所に居て、
俺は驚きと不思議なこの状態に目を見開いた。
な、なんで‥
「お前バカか。また死にたいのかよ」
「っ、き、キイチ‥」
俺の首に巻きつく腕と、腹回りに回された手。
ギュッと抱きしめられたようなそんな感覚がして、
懐かしさとか怒りとか、色んな感情が同時に胸に溢れかえる。
締め付けられるような心臓の痛みに、俺はまた苦しくなる胸を押さえつけた。
『光ーーー』
喜一‥
会いたかったーー
やめろッ
会いたくなんかなかった
もう振り回されるな
本音と嘘とが混ざり合って、それをかき消すようにブンブンと頭を振る。
こいつは、俺の事なんかどうでもいいんだ。
俺が‥勝手に期待して
勝手に傷ついただけだ。
もういい忘れろ。
今はラシルをーーー
「へぇ精霊魔法って事は王族か‥ふーん、権力はあるわけね。まあ、俺の方が偉いけど。つか、あいつ人の領域を超えるつもりか‥生意気な‥。
器が耐えられなくなって壊れかけてる。自己的に魔力暴走させてるし、自分自身も燃え尽きる気か」
俺の頭の上に、顎を乗せる喜一。
彼が呟いた言葉にゾッとする。
「ッはぁ!?ちょっとまて!?魔力暴走?!燃え尽きるってっ、そんなッ」
グルグルとトグロを巻いて浮き上がるマグマの塊は、
まるで闇の奥底にラシルを飲み込んでしまうようで、
ダメだ。ダメだってラシル
お前は、
お前だけは
ーーー
「‥」
虚ろな目で、ふらふらと犬くんと王子さんに近づくラシルに、
俺は彼の名を叫ぼうと、
大きく口を開く。
ラシルーーー
「ラシッ!?ッい!?ちょ、え、な、に‥?!」
俺がラシルの名を呼ぶ途中で、
ズキリと首筋が痛んで
ガブリと俺の首にかぶりつく男
俺は痛いのと、驚いたのとで情けない顔をしているだろう。
ああ、くそ
こいつはッいつもそうだ
「おま、なにしてッいきなり噛みついてくるとかどういう神経してんだよッ俺で遊ぶのも大概にッーー」
「は、うるせぇ‥契約、完了だーー」
機嫌が悪そうに声を低くした喜一に怯む。
やけに近い漆黒の目が俺を捉えて、
俺は言葉を詰まらせた。
「う、あっ、け、契約?つか、そろそろ離せよ!!」
く、この場から逃げたい‥この目はなんだか、逆らえないから‥
「‥おいおい冷えなー。光くん酷いわ!久々の再会なのに!!俺様悲しくて、涙の雨がザーザー」
泣き真似をする喜一を冷たい目線で見つめる。
俺の反応が面白くなかったのか、喜一が指をパチンと鳴らした。
「つめてぇッ!?なんだこれ、雨?っ、てめえ、わざとだろ!!?さっさと止めろ!!つか、なんでこんなこと出来んだよ!!」
「企業秘密だぞ!ハート」
「可愛くねえんだよ!!!って、こんなことしてる場合じゃッ」
くそ喜一。後で殴る‥
それより早くラシルを止めないと‥
「ラシルッ‥」
「‥」
この時の俺は知らなかったんだ。
俺を見つめる喜一の瞳が、
悲しそうに細められていたことにーー
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