魔剣の聖女でしたが追放されたので自由に生きることに決めました~その魔剣は差し上げます、レプリカですから~

沙布らぶ

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03.魔剣の聖女、レプリカを造る

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「オーディルの言うとおりだぜ、嬢ちゃん。しかもあの聖女ってのは、ガキの頃にウチに出入りしてた異世界人だろ? 仲良くやってたじゃねぇか」

 涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら悔しいと足踏みするオーディルを、筋骨隆々の男が抱え上げる。
 彼がもう一人の『家族』であるクレインだ。王立騎士団の精鋭を五人まとめて吹っ飛ばせそうな上腕二頭筋にしがみついて、オーディルがおんおんと泣いている。

「そう……カオリはずっとウチに遊びに来ていたけれど……どうやらわたしは、彼女を傷つけようとしたことになっているらしいわ」
「ひでぇ話だ。嬢ちゃんはむしろ、聖女サマの祈りを肩代わりしてやってたってのによ。なぁマルドゥク、アンタもそう思うだろ」

 そう言って、クレインは背後を振り向いた。

「我が主の持つ魔剣の欠片を通して、一部始終を見ておりましたが――ご立派でした。よくぞあの場で、王太子の顔面めがけて雷霆魔術を打ち放たなかったものだと、我が主の慈悲深さに感涙を禁じ得ません」

 そんな物騒なことを言い出したのは、この屋敷の執事にして三人目の『家族』。
 燕尾服を着こなした細身の青年は、マルドゥクという名前だった。

「そうだ、あのいけ好かねぇガキんちょの顔面に、爆炎魔術でもぶっぱなってやればよかったんだよ!」
「オーディル、落ち着いて……マルドゥクもあんまり煽らないで。あの場で魔術を放っていたら、確実にわたしは捕まって処刑台行きよ」

 以上、わたしと一緒に公爵家で暮らしていた三人の『家族』は、最初から事の顛末を見届けていたらしい。
 それもそのはずで、彼らは魔剣の眷属――魂を食らうと言われている屠龍の魔剣に、本当に魂を食わせた筋金入りの猛者たちだった。

「しかしよ、嬢ちゃん。魔剣をよこせって言われたがどうするつもりだ? 本物の魔剣は、嬢ちゃんが子どもの頃に叩き折っちまっただろ? 今残ってるのは、折れた魔剣を磨き上げた短剣が一振り。それを見せたところで、連中が満足するとは思えないがね」
「そ、そうなのよ……アレ見せたところで、絶対に納得してもらえないと思うのよね」

 そう――暴れ狂う巨大な龍を屠ったと言われている、伝説の魔剣はもうどこにも存在しない。
 というのも、聖女としての力が覚醒したばかりの幼い頃、わたしはその剣を半分に折ってしまったのだ。

 わたし自身が魔剣の聖女であり、その力を持って国を守ってきた以上実在は疑われていなかったが――このままだと、国宝を半分こにしてしまったことを申告しなければならなくなる。

 ちなみに折れてしまった剣はお父様が磨き上げ、守り刀としてわたしが持ち歩いている。

「我が主、私からひとつ提案があります。オーディルに新しい剣を造らせてはいかがでしょう?」
「はァ? バカいえマルドゥク。お嬢がこの国を出るまで時間がないんだぞ? いくら天才美少女刀鍛冶のアタシでも、できることとできないことってもんがある」

 さすがに無理、と片手を振るオーディルだったけれど、彼女はチチチ、と更に指を振った。

「だからお嬢、適当な剣を一本用意してくれないか? なんでもいい、先代が使ってたボロボロ錆だらけの剣でもな」
「剣……じゃあ、お父様が使用していたものを用意するわ」

 荷造りは一度マルドゥクに任せて、わたしは亡きお父様とお母様の荷物をひっくり返した。
 こんな結果になって、天の国におわすであろう二人には顔向けできないが――今は自分の身の安全のためにも、とっとと国を出てしまいたい。

「あったわ、古い剣だから装飾にも汚れが目立つけど……」

 お父様が生前愛用していた一本の剣をオーディルに差し出すと、彼女はニッと笑ってそれを受けとった。
 剣自体は、何の変哲もないものだ。飾り石がひとつついているだけの、それほどいわれがあるようなものでもない。

「上等上等……さて、こんなもんかな。見た目が古めかしいのはそれっぽい貫禄が出るだろ? そこにアタシの付与魔術をもってすりゃ……こんなもんだ」
「これは……」

 けれど、オーディルが付与魔術で魔力を込めたその剣は、先ほどまでのものとは大きく見た目が異なっていた。

「おぉ、これなら魔剣っぽいな!」
「こういうのはさ、ソレっぽく見えりゃいいんだよ! さ、コイツ渡して見逃してもらおうぜ!」

 刀身は真っ黒で、ついていた飾り石は禍々しい輝きを宿した赤色に変化している。
 しかも光に当てて角度を変えると、その意思の色も変化する。

「お、おぉ……」

 ちなみにわたしが持っている魔剣は、見た目は本当に何の変哲もない短剣だ。それとこの剣を並べておいたら、どちらが『魔剣っぽい』かは一目瞭然だ。

「なるほど、これでしたら王宮の人間もうまく騙されてくれそうですね……」

 わたしたちは互いに顔を見合わせて、それぞれ頷いた。
 国のために祈りを捧げてきたわたしを、魔女などと貶してすべてを奪った王太子――哀しみが過ぎ去った後には、怒りだけが残っていた。

「差し上げますわ、殿下……どうせこの魔剣、レプリカですもの」

 そうしてわたしは、ついにこの国を出ていくことになった。
 王国有史以来国王に仕えてきたファンデル公爵家は、こうしてその長い歴史に幕を下ろしたのだ。
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