テリトリー

三日月

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階級でも年齢でも上ならばと、三谷は崩していた足を直そうとしたが「気を使われたらこっちも気を使う」とピスタチオの殻を投げられた。
そこから飲みつつ、池内が掴んだ情報を教えられた。

教祖が出てきた部屋に何があるか、信者の世代、職業、性別、出身地の偏り⋯などなど情報は多岐に渡った。
潜入した池内の他に、情報の洗い出しやビルの出入りの見張り役に部下が6名動いているらしい。
三種の器がマトリの標的に選ばれたのは、違法ドラッグのタレコミ。
暴力団に潜入捜査中の同僚から、「素人が新しい薬を流している」といくつかの宗教団体、ハングレ集団の情報を掴んだからだった。
断りを入れてから、早速その団体名も含め叔父に追加でメールをいれる。


「で、ナニを探ってんの?
他には言わねぇから教えろよ」

「無理です」


案の定、探ってきた三谷に即答。
越権行為の刑事部長の腹を探るためではなく、興味本位だとわかっているが答えようがない。
『オメガバース』が市中に出回ってますといったところで、人口減少の再来に備えそれは今でも正式な薬としての登録を解かれていない。
厚生労働省にとっては、違法な薬では無いから例え現物の危険性がわかっても今は手が出せない。

「冷たい」「教えろ」「縮め」と、後半は165cm未満の身長を気にしている池内の愚痴も混じっていたが、叔父から呼び出しを受けてそこから逃げた。
叔父とは料亭の個室で落ち合う。

「狂犬池内を手懐けたか」と喜ばれたが、三谷にはどこが狂犬なのかわからず曖昧に笑っておいた。
義理堅い年上のキャリアで、ビール二缶で酔いつぶれる姿はとても狂犬とは思えない。
それよりも、今回の『オメガバース』を担当するために遂に刑事部転属から逃げられなくなったことの方が納得出来なかった。

経年劣化で薬効も薄れてきているし、回収されたものもある。
ずっと続くわけでもない『オメガバース』のために、交番勤務から変わりたくないと本音を言っても「終われば戻す」と諌められた。
今回の件が終われば戻すのかどうかが怪しい。

確かに交番勤務のまま先の見えない継続潜入は厳しいが。
人を変えてくれと最後に足掻けば、今回そこかしこで本物が見つかっているのだと人手不足を理由にされた。
同じルートから一斉に流れたと薬師一族も考え、今は同時に潰して頭を抑える山場なのだと。

三谷は、それならばと引き受けたものの、本物を見つけたときの興奮はすっかり冷めてしまい、自宅に戻る足取りは泥沼を進むように重かった。
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