テリトリー

三日月

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⋯なんて事情を、外に漏らすわけにはいかないんだよ、弥永サン。

電車の隅で、叔父さんに報告メールを送信。
本物までたどり着いた実感が更に増した。
今後、本家と交えて詰めていくのか、このまま自分が動くことになるのかはわからないが⋯新たな被害者をこれ以上増やしたくない。


「酒井サン、少しお時間ありますか?」


ガラガラの車両。
三谷が気を抜いたところで、空いている席もあるのに弥永から偽名で呼びかけられた。
三谷 文哉に戻っていた意識を、就職浪人で悩む酒井 太志に切り替え今回はお近づきになる気はないのだと匂わせ軽く断ったのに。


「いやぁ、またお前がいるなんてついてるなぁっ」


先輩信者候補が新人を逃がすまいと勧誘する見本のような強引さで、弥永が恐らくこの案件のために借りたマンションに連れ込まれてしまった。
世間知らずのボンボン大学生風な弥永は、仮面を外して池内 伸彦に戻りビール缶につまみまでテーブルに並べて寛いでいる。
三谷に逃げるなと言いおいて、さっさと上下スエットの部屋着にまで着替えている。


「いや、あの、今回は渡せないんですよ」


三谷もそれに習って伊達メガネを外し、期待しきった池内に断りを入れる。
『オメガバース』でなければ、専門分野に譲るのが筋。
三谷は、これまで相手が池内ではなくとも掴んだ性ドラッグ犯罪の証拠も手柄も公安部に渡していた。

だが、今回は譲れないし薬師一族も出てくる。
政治中枢部に深く根ざしている薬師一族は、不祥事隠蔽のために公安部だろうがなんだろうが部外者をこれから先の処理に入れたがらないだろう。


「あ、そうなの」


意外にも、あっさりと承諾する池内。
なかなかビールに手を付けない三谷に、強引に「情報やるから飲め飲め」と進めてくる。
前髪が鬱陶しいとヘアバンドであげたせいで、余計に学生にしか見えない。

公安部エース級の潜入捜査摘発率を誇るやり手。
三谷は、怒鳴られる覚悟だったのだが肩透かし。
現場を荒らすことに目を瞑っていてくれたのは、手柄に固執していたからじゃなかったのだろうかと首を傾げた。


「今までの借りをちゃんと返しときたいんだよ。
お前のおかげで表彰されちゃって、正直新しい椅子の座り心地わりぃのよ」

「あぁ、昇進されたんですか?
おめでとうございます」

「いや、だから、実力じゃ貰えてないんだよ。
そう言うの、俺、イヤなの。
だから、今回は逆な、逆。
なんか、目当てがあってそっちがウロウロしてるのは公安も把握してんの。
その中でも、交番のお前の目立つこと、目立つこと」

「あ、やっぱり目立ってますか」

「手配書回ってる」


どこまで池内が本気なのかわからないが、内偵に入る現場に公安部の先客がいるとやりにくくなっているのは確かだ。
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