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三種の器が入るビルのインターホン越しにチラシを翳し、興味本位の見学者を装う。
壁に貼り付けられた五階建ての内訳は、三階までがこの団体。
上の二階には、会計事務所とエステサロンが入っているけど根は同じだろう。
ガラスの両開き扉が自動で解錠され、二階へ進むよう女性の声で誘導された。
監視カメラは、死角を無くすためか屋内外合わせて四台、見える場所だけでそれだけの数が設置されている。
エレベーターで二階まで上がると、白作務衣を着た男性が待っていて道場と呼ばれる板張りの部屋まですんなり通された。
特に警戒した様子もなく、そこで円座を作り話し合っていた白作務衣姿の信者と洋服スタイルのおそらく信者候補から笑顔で次々と話し掛けられる。
俺の予定では、一日目は顔ぶれの確認と間取りで怪しいと目星をつけていた場所にうまく近づければ後が楽だなと考えていたのだが。
道場に入るなり、その予定を忘れてさっさと帰ることに決めた。
うん、後からテリトリーを乱すのは良くない、良くない。
もし当たりだったら、余所から遅れて詳細を知らされることになる叔父さんから怒られるんだろうけど。
(俺、譲ります)
(いや、いろ)
円の中にいた顔見知りに気付き、瞬時にアイコンタクトでこの件をお任せしようとしたら、即お断りされてしまった。
普段着の先客信者候補、三人の中の一人に麻薬取締官を見つけたから筋を通して本職に任せようと思ったのだが敢え無く失敗。
伊達メガネを直すフリをして、一瞬しかめ面を作るが目元だけの微笑みを返され軽くいなされた。
池内 伸彦 31歳。
童顔を駆使して学生風を装い、パーカーにハーフパンツ、髪もハニーブラウンに染めて前髪をおろしている。
過去のΩ関連で、バッティング経験が三回もある厄介な相手だ。
他のマトリなら、公安でもないのにしゃしゃり出てきた若僧を秒で追い払ってくれるのに、またこの人に当たるなんて運がない。
叔父さんも、そろそろ厚生労働省と結託してダブルブッキングの手間を省いてほしい⋯長年に渡る確執があるから、難しいのはわかるけれど。
表向きは、笑顔で挨拶と偽名で自己紹介。
でっち上げた悩みを打ち明け、肯定的な返しを優しく重ねる信者に感動している風を装う。
場の雰囲気が和らいだところで、教祖から恵みの言葉を賜る時間だと教えられ、信者候補は後方の壁まで下がるように言われた。
教祖、ねぇ。
Ωなんて性シンボルを有形にするなら、女がくる確率は高かったが。
道場から続く奥の部屋の木製扉が開き、黒の作務衣を着た男性四人に囲まれ出てきたのは、揃いの作務衣を着た案の定、女。
しかも、明らかに未成年の少女だった。
陽の下に出たことがないのかと、黒作務衣から出ている肌は疑りたくなるほど白く透き通り病的に青白い。
目は虚ろで視点が定まらず、信者の前に辿り着くまでに倒れそうなほど足元がフラフラと覚束無い。
簡単に折れそうな細い首には、番避けを模した翡翠の輪を着けられていた。
壁に貼り付けられた五階建ての内訳は、三階までがこの団体。
上の二階には、会計事務所とエステサロンが入っているけど根は同じだろう。
ガラスの両開き扉が自動で解錠され、二階へ進むよう女性の声で誘導された。
監視カメラは、死角を無くすためか屋内外合わせて四台、見える場所だけでそれだけの数が設置されている。
エレベーターで二階まで上がると、白作務衣を着た男性が待っていて道場と呼ばれる板張りの部屋まですんなり通された。
特に警戒した様子もなく、そこで円座を作り話し合っていた白作務衣姿の信者と洋服スタイルのおそらく信者候補から笑顔で次々と話し掛けられる。
俺の予定では、一日目は顔ぶれの確認と間取りで怪しいと目星をつけていた場所にうまく近づければ後が楽だなと考えていたのだが。
道場に入るなり、その予定を忘れてさっさと帰ることに決めた。
うん、後からテリトリーを乱すのは良くない、良くない。
もし当たりだったら、余所から遅れて詳細を知らされることになる叔父さんから怒られるんだろうけど。
(俺、譲ります)
(いや、いろ)
円の中にいた顔見知りに気付き、瞬時にアイコンタクトでこの件をお任せしようとしたら、即お断りされてしまった。
普段着の先客信者候補、三人の中の一人に麻薬取締官を見つけたから筋を通して本職に任せようと思ったのだが敢え無く失敗。
伊達メガネを直すフリをして、一瞬しかめ面を作るが目元だけの微笑みを返され軽くいなされた。
池内 伸彦 31歳。
童顔を駆使して学生風を装い、パーカーにハーフパンツ、髪もハニーブラウンに染めて前髪をおろしている。
過去のΩ関連で、バッティング経験が三回もある厄介な相手だ。
他のマトリなら、公安でもないのにしゃしゃり出てきた若僧を秒で追い払ってくれるのに、またこの人に当たるなんて運がない。
叔父さんも、そろそろ厚生労働省と結託してダブルブッキングの手間を省いてほしい⋯長年に渡る確執があるから、難しいのはわかるけれど。
表向きは、笑顔で挨拶と偽名で自己紹介。
でっち上げた悩みを打ち明け、肯定的な返しを優しく重ねる信者に感動している風を装う。
場の雰囲気が和らいだところで、教祖から恵みの言葉を賜る時間だと教えられ、信者候補は後方の壁まで下がるように言われた。
教祖、ねぇ。
Ωなんて性シンボルを有形にするなら、女がくる確率は高かったが。
道場から続く奥の部屋の木製扉が開き、黒の作務衣を着た男性四人に囲まれ出てきたのは、揃いの作務衣を着た案の定、女。
しかも、明らかに未成年の少女だった。
陽の下に出たことがないのかと、黒作務衣から出ている肌は疑りたくなるほど白く透き通り病的に青白い。
目は虚ろで視点が定まらず、信者の前に辿り着くまでに倒れそうなほど足元がフラフラと覚束無い。
簡単に折れそうな細い首には、番避けを模した翡翠の輪を着けられていた。
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