テリトリー

三日月

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―――昔々、人間の争いが絶えなかったこの国は、人口減少と環境破壊を重ね滅亡への一途を辿っていた。
憐れに思った神様は、この地に2つの種を撒いた。
一つの種からは、青々とした葉が茂る大樹が育ち、その幹から知性に優れた人間が生まれた。
統治を司るαの始祖である。
もう一つの種からは、荒野を覆うほどの草花が咲き乱れ、花の中から生命を育む人間が生まれた。
創生を司るΩの始祖である。

二つの新しい種の出現により、人々は平和を取り戻したとさ、マルってか。

本家の蔵に保管されている古文書の文言をつられて思い出し、三谷は平坦な目で吊り広告を見返す。
このご時世に、わざわざあんな古臭い伝承を掘り起こしてくる時点で怪しい。
⋯堂々とΩなんて単語を出すから、叔父さんの目に留まって俺に回ってきたんだ。

Ωは、今じゃ性ドラッグの隠語。
因みに、αはこの国の中枢を支える人工知能の名前で浸透してる。
それを教祖に絡めるなんて、ドラッグルートを公言する素人か、偶然知ったΩの伝承を金儲けに使う詐欺師か、それとも本気で怪しい宗教団体か。

宗教団体名は、三種の器。
去年改名と代表者の変更が届けられていて、実態の無かった宗教団体から資格を買い取ったことは疑いようが無い。
事務所は、ここから二駅先にあるビルの中。
その間取りも頭に入っている。
違法ドラッグなら、証拠確保の上場合によっては薬物武器対策課、詐欺なら捜査二課だし、宗教団体なら公安部へパス予定。

交番の前で町の安全を監視したり、小学校の交通安全教室で着ぐるみを着たりが三谷の日常なだけに求められるレベルの差が大きい。
これまで自分なりに『叔父さんの特命』に応えては来たが、毎度空振りに終わるから今回もただの越境案件だろう。
こんなにわかりやすくアレが出回ってるとは思えないしな。

五年前から、自分の管轄の刑事部だけじゃなく忙しい公安部の目を盗み、叔父はΩ絡みの事件を抜いて俺や従兄弟達に強引に回している。
刑事部長特命で、一人で潜入捜査とか。
刑事部希望の同僚には、羨ましいと公言されつつも最近は面倒なことに巻き込まれているのではと心配されている。
三谷はそのうち刑事部に行くだろうとか、やっかまれていたのは最初の二年だけ。
五年目ともなると流石に怪しまれる。

でも、刑事部には行きたくない。
この特命は、イレギュラーなんだ。
俺は、大きなヤマを追いかけるより、交番勤務で地域の安全を守るお巡りさんでいたい。
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