2 / 11
2
しおりを挟む
―――昔々、人間の争いが絶えなかったこの国は、人口減少と環境破壊を重ね滅亡への一途を辿っていた。
憐れに思った神様は、この地に2つの種を撒いた。
一つの種からは、青々とした葉が茂る大樹が育ち、その幹から知性に優れた人間が生まれた。
統治を司るαの始祖である。
もう一つの種からは、荒野を覆うほどの草花が咲き乱れ、花の中から生命を育む人間が生まれた。
創生を司るΩの始祖である。
二つの新しい種の出現により、人々は平和を取り戻したとさ、マルってか。
本家の蔵に保管されている古文書の文言をつられて思い出し、三谷は平坦な目で吊り広告を見返す。
このご時世に、わざわざあんな古臭い伝承を掘り起こしてくる時点で怪しい。
⋯堂々とΩなんて単語を出すから、叔父さんの目に留まって俺に回ってきたんだ。
Ωは、今じゃ性ドラッグの隠語。
因みに、αはこの国の中枢を支える人工知能の名前で浸透してる。
それを教祖に絡めるなんて、ドラッグルートを公言する素人か、偶然知ったΩの伝承を金儲けに使う詐欺師か、それとも本気で怪しい宗教団体か。
宗教団体名は、三種の器。
去年改名と代表者の変更が届けられていて、実態の無かった宗教団体から資格を買い取ったことは疑いようが無い。
事務所は、ここから二駅先にあるビルの中。
その間取りも頭に入っている。
違法ドラッグなら、証拠確保の上場合によっては薬物武器対策課、詐欺なら捜査二課だし、宗教団体なら公安部へパス予定。
交番の前で町の安全を監視したり、小学校の交通安全教室で着ぐるみを着たりが三谷の日常なだけに求められるレベルの差が大きい。
これまで自分なりに『叔父さんの特命』に応えては来たが、毎度空振りに終わるから今回もただの越境案件だろう。
こんなにわかりやすくアレが出回ってるとは思えないしな。
五年前から、自分の管轄の刑事部だけじゃなく忙しい公安部の目を盗み、叔父はΩ絡みの事件を抜いて俺や従兄弟達に強引に回している。
刑事部長特命で、一人で潜入捜査とか。
刑事部希望の同僚には、羨ましいと公言されつつも最近は面倒なことに巻き込まれているのではと心配されている。
三谷はそのうち刑事部に行くだろうとか、やっかまれていたのは最初の二年だけ。
五年目ともなると流石に怪しまれる。
でも、刑事部には行きたくない。
この特命は、イレギュラーなんだ。
俺は、大きなヤマを追いかけるより、交番勤務で地域の安全を守るお巡りさんでいたい。
憐れに思った神様は、この地に2つの種を撒いた。
一つの種からは、青々とした葉が茂る大樹が育ち、その幹から知性に優れた人間が生まれた。
統治を司るαの始祖である。
もう一つの種からは、荒野を覆うほどの草花が咲き乱れ、花の中から生命を育む人間が生まれた。
創生を司るΩの始祖である。
二つの新しい種の出現により、人々は平和を取り戻したとさ、マルってか。
本家の蔵に保管されている古文書の文言をつられて思い出し、三谷は平坦な目で吊り広告を見返す。
このご時世に、わざわざあんな古臭い伝承を掘り起こしてくる時点で怪しい。
⋯堂々とΩなんて単語を出すから、叔父さんの目に留まって俺に回ってきたんだ。
Ωは、今じゃ性ドラッグの隠語。
因みに、αはこの国の中枢を支える人工知能の名前で浸透してる。
それを教祖に絡めるなんて、ドラッグルートを公言する素人か、偶然知ったΩの伝承を金儲けに使う詐欺師か、それとも本気で怪しい宗教団体か。
宗教団体名は、三種の器。
去年改名と代表者の変更が届けられていて、実態の無かった宗教団体から資格を買い取ったことは疑いようが無い。
事務所は、ここから二駅先にあるビルの中。
その間取りも頭に入っている。
違法ドラッグなら、証拠確保の上場合によっては薬物武器対策課、詐欺なら捜査二課だし、宗教団体なら公安部へパス予定。
交番の前で町の安全を監視したり、小学校の交通安全教室で着ぐるみを着たりが三谷の日常なだけに求められるレベルの差が大きい。
これまで自分なりに『叔父さんの特命』に応えては来たが、毎度空振りに終わるから今回もただの越境案件だろう。
こんなにわかりやすくアレが出回ってるとは思えないしな。
五年前から、自分の管轄の刑事部だけじゃなく忙しい公安部の目を盗み、叔父はΩ絡みの事件を抜いて俺や従兄弟達に強引に回している。
刑事部長特命で、一人で潜入捜査とか。
刑事部希望の同僚には、羨ましいと公言されつつも最近は面倒なことに巻き込まれているのではと心配されている。
三谷はそのうち刑事部に行くだろうとか、やっかまれていたのは最初の二年だけ。
五年目ともなると流石に怪しまれる。
でも、刑事部には行きたくない。
この特命は、イレギュラーなんだ。
俺は、大きなヤマを追いかけるより、交番勤務で地域の安全を守るお巡りさんでいたい。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

王冠にかける恋【完結】番外編更新中
毬谷
BL
完結済み・番外編更新中
◆
国立天風学園にはこんな噂があった。
『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』
もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。
何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。
『生徒たちは、全員首輪をしている』
◆
王制がある現代のとある国。
次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。
そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って……
◆
オメガバース学園もの
超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

エンシェントリリー
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる