4 / 9
Case 4
しおりを挟む
岩田は、ストローを乱暴に突き刺しコーヒー牛乳を勢いよくズズッと飲んでみたがやはり気持ちは収まらない。
口を離し、隣の矢吹を軽く睨む。
(困るのはお前なのに、なんでそんなあっさり受け入れてんだよ)
先に飲み干した矢吹は、ペコペコと紙パックを小さく折り畳みながら矢吹の視線に応えた。
「そりゃぁ、俺が居るくらいだしね。
αが生まれる可能性は限りなくゼロに近くてもゼロとは言い切れないよ?
でもさ、例えば最短の今日αが生まれたとして、そのαと番になれる頃には俺っていくつになってるかわかってる?
20歳まで待ってたら、45歳のおじさんだぜ。
そんなん相手にされねぇよ」
45歳といえば、自分達の親世代だ。
岩田は、矢吹の20年後を想像すべく矢吹の母親が亡くなった40歳の面影を混ぜてみる。
岩田が5歳のときに、隣のアパートに引っ越して来たのが矢吹親子だった。
母子家庭で昼夜忙しく働く矢吹の母親を見かねて、岩田の母親は一人で帰りを待つ矢吹を家に招き入れた。
出会った頃の矢吹の母親は、当たり前なんだろうけれど今の矢吹と似ている。
35歳の母親は、45歳の矢吹を想像するには一番のヒントだ。
「⋯イケるんじゃないか?」
「イケるかよ、バーカ!」
片手チョップで岩田の額を割る矢吹。
「バカってお前なぁ⋯そんなに年を気にするなら、コールドスリープすれば良いだろう。
Ωには、特定認可難病指定がされてるんだから」
今は治せない難病も、未来には特効薬が出来ているかもしれない。
そのときに合わせて長期間眠るシステムは、どういう経緯があったのかαとΩも対象に入っている。
実際にこれまで難病を抱えていた多くの人が眠りから覚め、医療の発達の恩恵を受けて天寿を全うしている実績があり安全性も高い。
「バカバカバーカッ
Ωは病気じゃねぇわっ」
こんにゃろっと、矢吹は笑いながら岩田の首に腕を巻き付け締めるふりをする。
研究者の岩田が、そのことを当人の矢吹よりも知っているのを見越してワザと笑い話で有耶無耶にしようとしているのだ。
岩田は、やり返しながら切なくなる。
病気では無い、病気では無いが⋯⋯
『あのね、イオね、仲間ハズレなんだ』
まだ幼い矢吹が、泣くのをぐっと堪えて自分がΩなんだと打ち明けてくれた日のことが蘇る。
『それでも友達になってくれる?』と、目に涙を浮かべていた矢吹。
『もう友達じゃん』と、首を傾げて答える岩田。
あのとき、矢吹がどんな思いを抱えていたのか。
矢吹がΩとわかった途端、以前住んでいた家を追い出されたことを知ったのはもっと後だった。
自分とは異質な存在を、受け入れられない人間は少数だがいる。
その少数から爪弾きにされたトラウマを、岩田は少しでも軽くしてやりたい。
口を離し、隣の矢吹を軽く睨む。
(困るのはお前なのに、なんでそんなあっさり受け入れてんだよ)
先に飲み干した矢吹は、ペコペコと紙パックを小さく折り畳みながら矢吹の視線に応えた。
「そりゃぁ、俺が居るくらいだしね。
αが生まれる可能性は限りなくゼロに近くてもゼロとは言い切れないよ?
でもさ、例えば最短の今日αが生まれたとして、そのαと番になれる頃には俺っていくつになってるかわかってる?
20歳まで待ってたら、45歳のおじさんだぜ。
そんなん相手にされねぇよ」
45歳といえば、自分達の親世代だ。
岩田は、矢吹の20年後を想像すべく矢吹の母親が亡くなった40歳の面影を混ぜてみる。
岩田が5歳のときに、隣のアパートに引っ越して来たのが矢吹親子だった。
母子家庭で昼夜忙しく働く矢吹の母親を見かねて、岩田の母親は一人で帰りを待つ矢吹を家に招き入れた。
出会った頃の矢吹の母親は、当たり前なんだろうけれど今の矢吹と似ている。
35歳の母親は、45歳の矢吹を想像するには一番のヒントだ。
「⋯イケるんじゃないか?」
「イケるかよ、バーカ!」
片手チョップで岩田の額を割る矢吹。
「バカってお前なぁ⋯そんなに年を気にするなら、コールドスリープすれば良いだろう。
Ωには、特定認可難病指定がされてるんだから」
今は治せない難病も、未来には特効薬が出来ているかもしれない。
そのときに合わせて長期間眠るシステムは、どういう経緯があったのかαとΩも対象に入っている。
実際にこれまで難病を抱えていた多くの人が眠りから覚め、医療の発達の恩恵を受けて天寿を全うしている実績があり安全性も高い。
「バカバカバーカッ
Ωは病気じゃねぇわっ」
こんにゃろっと、矢吹は笑いながら岩田の首に腕を巻き付け締めるふりをする。
研究者の岩田が、そのことを当人の矢吹よりも知っているのを見越してワザと笑い話で有耶無耶にしようとしているのだ。
岩田は、やり返しながら切なくなる。
病気では無い、病気では無いが⋯⋯
『あのね、イオね、仲間ハズレなんだ』
まだ幼い矢吹が、泣くのをぐっと堪えて自分がΩなんだと打ち明けてくれた日のことが蘇る。
『それでも友達になってくれる?』と、目に涙を浮かべていた矢吹。
『もう友達じゃん』と、首を傾げて答える岩田。
あのとき、矢吹がどんな思いを抱えていたのか。
矢吹がΩとわかった途端、以前住んでいた家を追い出されたことを知ったのはもっと後だった。
自分とは異質な存在を、受け入れられない人間は少数だがいる。
その少数から爪弾きにされたトラウマを、岩田は少しでも軽くしてやりたい。
2
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
めちゃめちゃ気まずすぎる展開から始まるオメガバースの話
雷尾
BL
Ωと運命の番とやらを、心の底から憎むΩとその周辺の話。
不条理ギャグとホラーが少しだけ掛け合わさったような内容です。
箸休めにざざっと書いた話なので、いつも以上に強引な展開かもしれません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
エンシェントリリー
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。
芽吹く二人の出会いの話
むらくも
BL
「俺に協力しろ」
入学したばかりの春真にそう言ってきたのは、入学式で見かけた生徒会長・通称β様。
とあるトラブルをきっかけに関わりを持った2人に特別な感情が芽吹くまでのお話。
学園オメガバース(独自設定あり)の【αになれないβ×βに近いΩ】のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる