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Case 1
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「撤廃には、反対ですっ」
岩田 正隆は、カーーーッと腹が煮えくり返る怒りに任せ立ち上がり、背後で椅子が倒れるのも気にせず目の前の机を両拳で激しく打ち付けた。
タブレット画面に映るリモート会議参加者は、岩田の爆発に驚くでもなく寧ろ迷惑気に溜息をついたり、思い出したように資料をパラパラと読み直したりでこの時間をやり過ごしている。
岩田が倒れた椅子を起こして座り直したのを見計らい、会議進行者の増田が声をかける。
ここまでがすっかり定番化していて新鮮味がないのだ。
岩田も頭では自分の行動が形骸化していると自覚しているのだが、毎度毎度会議の最後に必ず入れられる議題に噛みつかずにはおれない。
『新生児へのバース性検査及びバース性管理の撤廃』
この議題は、資料に記載すると順番を無視して冒頭から岩田が噛み付くため印字されなくなっている。
岩田は、増田のわざとらしい咳払いに目を細めた。
どうせこの日和ったじーさんは、まぁまぁと俺を宥めて「全員一致しないなら次回会議に持ち越そう」とまとめにかかるんだ。
だったら、最初から持ち込まなければいいだろう。
岩田は、イライラした気持ちと一緒にペットボトルのお茶を一口飲み込んだ。
「とは、言ってもねぇ。
最後にこの国のバース性検査でβ以外が見つかったのは、二十年以上前なんだよ?
ほら、今年の学会でこの道の権威たる冴島教授も、国費を投じてまで新生児に検査を義務付け出生届に記載する必要は無くなっていると明言されていたしね」
「⋯⋯⋯は?」
岩田の下腹が急激に冷え、声のトーンも顔つきも鋭さが増した。
目を尖らせる岩田の反応に、増田は予見していたのか動揺せず穏やかに語りかけてくる。
「いや、だから、君も出席していただろう?
それに先月の国際フォーラム。
βの世界的人口に占める割合は、ほぼ100%。
近年αとΩが検出された事例は、減少というよりゼロだ。
そのあたりのなぜどうしては、二百年前のα消滅以降散々研究し尽くされてる。
今消えようとしてるΩとまとめて、進化の過程で淘汰される性だと結論付けられたじゃないか。
一昔前は種の保存だと騒いでた連中も、なんの手立ても見つけられずに匙を投げてこの分野から去っていった。
今じゃ、管理する意味が無いって撤廃を承認する側についてるよ」
「検査の母数が減っているのだから、βがほぼ100%は暴論ですっ
そんなものに合わせて、我々が追随する必要性を感じませんっ
兎に角、俺は反対ですっ」
岩田は、「では、時間ですので失礼いたします」と慇懃無礼な態度を隠そうともせずに会議から退出した。
ついでにタブレットの電源も切り、沸点を軽く突き抜けた怒りを何とかとこうと深々と溜息をつく。
わかっているさ。
検査も管理も、このロストセックス研究に関係するもの全部が国費の垂れ流しだと国会で槍玉にあがっていることも。
βしかほぼ生まれてこないこの現実も。
岩田 正隆は、カーーーッと腹が煮えくり返る怒りに任せ立ち上がり、背後で椅子が倒れるのも気にせず目の前の机を両拳で激しく打ち付けた。
タブレット画面に映るリモート会議参加者は、岩田の爆発に驚くでもなく寧ろ迷惑気に溜息をついたり、思い出したように資料をパラパラと読み直したりでこの時間をやり過ごしている。
岩田が倒れた椅子を起こして座り直したのを見計らい、会議進行者の増田が声をかける。
ここまでがすっかり定番化していて新鮮味がないのだ。
岩田も頭では自分の行動が形骸化していると自覚しているのだが、毎度毎度会議の最後に必ず入れられる議題に噛みつかずにはおれない。
『新生児へのバース性検査及びバース性管理の撤廃』
この議題は、資料に記載すると順番を無視して冒頭から岩田が噛み付くため印字されなくなっている。
岩田は、増田のわざとらしい咳払いに目を細めた。
どうせこの日和ったじーさんは、まぁまぁと俺を宥めて「全員一致しないなら次回会議に持ち越そう」とまとめにかかるんだ。
だったら、最初から持ち込まなければいいだろう。
岩田は、イライラした気持ちと一緒にペットボトルのお茶を一口飲み込んだ。
「とは、言ってもねぇ。
最後にこの国のバース性検査でβ以外が見つかったのは、二十年以上前なんだよ?
ほら、今年の学会でこの道の権威たる冴島教授も、国費を投じてまで新生児に検査を義務付け出生届に記載する必要は無くなっていると明言されていたしね」
「⋯⋯⋯は?」
岩田の下腹が急激に冷え、声のトーンも顔つきも鋭さが増した。
目を尖らせる岩田の反応に、増田は予見していたのか動揺せず穏やかに語りかけてくる。
「いや、だから、君も出席していただろう?
それに先月の国際フォーラム。
βの世界的人口に占める割合は、ほぼ100%。
近年αとΩが検出された事例は、減少というよりゼロだ。
そのあたりのなぜどうしては、二百年前のα消滅以降散々研究し尽くされてる。
今消えようとしてるΩとまとめて、進化の過程で淘汰される性だと結論付けられたじゃないか。
一昔前は種の保存だと騒いでた連中も、なんの手立ても見つけられずに匙を投げてこの分野から去っていった。
今じゃ、管理する意味が無いって撤廃を承認する側についてるよ」
「検査の母数が減っているのだから、βがほぼ100%は暴論ですっ
そんなものに合わせて、我々が追随する必要性を感じませんっ
兎に角、俺は反対ですっ」
岩田は、「では、時間ですので失礼いたします」と慇懃無礼な態度を隠そうともせずに会議から退出した。
ついでにタブレットの電源も切り、沸点を軽く突き抜けた怒りを何とかとこうと深々と溜息をつく。
わかっているさ。
検査も管理も、このロストセックス研究に関係するもの全部が国費の垂れ流しだと国会で槍玉にあがっていることも。
βしかほぼ生まれてこないこの現実も。
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