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前日譚(黒曜&雅)

捕まえた1

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***side 鬼***

『・・・さん、・・・・ら』

目の前で、怒鳴り散らし黙った人間。
掠れた声が、唇から漏れる。
何を言ってるんだ?
聞き耳をたてた途端。

ブワッッ

人を中心に、波動が広がる。
追って甘い香りが辺りを覆い、人から目が離せなくなる。
今まで香る程度だった人から、酔いそうになるほどの濃度が立ち込める。

『・・・手の、鳴る、方へ』

ぎこちなく人の両手の平が動き、パンっと渇いた音が響く。
この感じは、知っている。
ゾワリと身の毛がよだつこの感覚は、二回目だ。

この感覚の後。
背後から我が身を捕らえようと。
強固な鎖が伸びてくるのを、知っている。

だから、避けようと。
体を動かそうとしているが。
正面にいる、人ごときに。
体がすでに縛られていた。
声さえも出せず、視線さえ自由にならない。

人は、虚ろな目のまま。
甘い香りを身体中から漂わせ。
その唇から歌を紡ぎ続ける。
左へ、右へ。
我との距離を徐々に積めながら進んでくる。
歩む度に、足元に光る方陣が現れては明滅する。

『鬼さん、こちら
手の鳴る方へ

探し物は、どこぞやどこぞ
森にも、川にも、海にもおらん
探し疲れて、困りてござる』

背後から、迫る鎖。
長きにわたり、我が身を捕らえ、漸く絶ちきった筈の鎖。
それが再び身体に伸び、あの暗闇に落とされる覚悟を決める。
ここで力を使うより、鎖を絶つために温存すべきだと判断する。
この数日で、目前の人の力は微弱だと知った。
例え偽装されていたのだとしても、あれが作る鎖など知れている。

だが

肌に触れた質感に。
予想が裏切られたことを知る。

目には見えないなにかが肌に触れているのに。
以前感じた地面に呑み込まれるような重さも、身を切る冷たさも感じない。
ついこの間まで繋がれていた、重く太くて固い鎖とそれは違っていた。
背後からくるものを目視することは出来ないが、肌で感じる。
動けば直ぐに千切れそうな、軽く、細く、柔らかな鎖・・・全く別のもの。

だが、コレは、前以上に酷いものだと。
鬼ならば、知っている。

たが、動けない。

声さえ、出ない。

『鬼さん、こちら
手の鳴る方へ

鬼さん、こちら
手の鳴る方へ

探し物は、こちらぞこちら
この声、この身、この魂
お前の求めは、こちらにござる』

抗えないまま、その場に縫い付けられる屈辱も。
これから我が身に起こることに比べれば、遥かに軽い。
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