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前日譚(黒曜&雅)

傾く気持ち2

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昼のラッシュを終えたバイト先の休憩室。
ぼんやりと仲間内の話を聞き流しつつ。
昨日のこととか、主様のこととか。
気付いたら、そこばかり考えてしまう。

あんなことさせられてる時でさえ無表情だけど。
すごく、すごく。
笑った顔は、カッコよかった。
それに、時間に几帳面すぎるとことか、面白い。

今日は、笑うかな?

「・・・するな」

気づいたら、休憩室にはバイト仲間の小林と二人になっていた。
机一つをはさんで座っていたはずなのに、小林は立ち上がり机の上に身を乗り出して至近距離で迫ってきていた。

うわ、ぼーっとしすぎてた!

「小林、なんか言ったか?
っていうか、他のやつらは?
もう、仕込みの準備してんのかな?」

慌てて椅子から立ち上が・・・れなかった。
机についた右腕を摑まれ、動きを阻止される。

「おい、小林、痛いって!」

振りほどこうとして、小林の異常に気づく。
何かがおかしいことに、気づく。

こいつ、こんなに力強かったっけ??
こんなに、ギラギラしたオーラだしてたっけ???
むしろ、いつもぼーっとしてて、店長からどやされてるキャラじゃなかったか???

「お前、甘い匂いがするな。
今まで、どうやって隠していたんだ?」

舌なめずりするその口の、牙も無かったはずだ。
耳も、尖って。
視線を移した頭には、角が二本。

え、なんだよ、コレ。

「小林、お前も鬼だったのか!?」
「オレもって、なんだ?
他の鬼にも見つかってるのに逃げ切ってたのか?
まぁ、共有でもいいや。
オレと、契れ」
「立て続けにまくしたてられても、何言ってんのかわかんねーよ!」

尋常じゃないぞ。
小林の目は、主様以上に俺を物として、獲物としてみてる。
捕食者のギラギラした目だ。
背筋が寒くなる。

「離せよ!」

振りほどき、休憩室からとりあえず出ようと暴れる。
やばい、絶対これ、やばいヤツだ!

「ふざけるな!
極上を喰える機会は、貴重なんだっ」
「そんなこと、知るかっ」

扉に手をかけ、廊下へ一歩踏み出そうとして、またも遮られる。
襟元を後ろから引っ張られ、壁に叩きつけられた。
衝撃に息が一瞬止まり、逃げるのが遅れる。

「・・・・・っ!」

近づいてきた小林に、片腕一本で壁に押し付けられる。
俺より頭ひとつ分くらい小さくて、非力で。
いつも重い食材を代わりに運んでやってたのに、なんだよこの力!
びくともしねぇ。

くそっ、殴られるのか。
身構えた俺に、近づいてきたのは。
拳ではなく、顔。
耳元での荒い息。
首筋を舐める、ネットリとした舌の感触。

イヤだ!
主様じゃない!!
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