鬼ごっこ~あのこがほしい~

三日月

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お師匠様

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まずは、香りに集まる鬼を何とかしなければならないな。
本性を抑えきれず、吸い寄せられるように増えていく。
道路にも、屋根にも、抑えきれない鬼の気配。

「瑠璃丸、人の居場所はわかるか?」
「このタテモノの外側・・・
奥で鬼の血が流れとるから、そこやろ」

鼻をひくひく動かしながら、瑠璃丸は見えない情報を手繰り寄せる。
教会の、奥。
そこまでこの光りの中を一人では進めそうにない。
闇雲に走れば、私が鬼に喰われかねない。
しかし、瑠璃丸がこの調子では。

牙を何度もなぞり、落ち着かない。

香りの元に近づきすぎると、相手を喰らいかねないな。
どうしたものか・・・

次の手を拱いている私の頭上。
教会の敷地内から勇ましい声が降ってきた。

「おいおい、キョウイチロウくん。
キミは、御山の泣きべそ修行から成長してないのかィ?」

聞き覚えのある。
ありすぎる、女性のかんらかんらと笑う声。

教会の塔の上。
逆光で見えはしないが、何がいるのかは。
いや、誰がいるのかはわかる。

「お、師匠様・・・」

軽々と、塔の上から飛び降り、開いた門からこちら側に堂々と歩いてくるその気配。
悲鳴が上がっているのは、その姿に気づいた鬼たちが正気に返ったのだろう。
四方から集まっていた鬼たちが、目的地である教会を前に退散していく。
門の内側から、何体かの鬼が住宅街へと走り去っていく。

辺りにあった鬼の気配が、ゼロになる。

そのあとから。
協会の奥から輝き続けている光を、まるで自分の後光のように背負い、悠々と出てくるお師匠様。
出会ったころから変わらないその姿と。
会うたびに強さが増している、無尽蔵の捕縛力。
鬼にさえ、『鬼姫』と呼称され認知されるほどの恐ろしい人間。
姿を目にしただけで逃げ出されるって・・・過去、鬼たちに何をしたんだ?

「おやおや、ルリルリは空腹のようだネ。
ちゃんとオネエサマとの約束は、守ってくれているわけだ」

私以外の人に触れられることを拒む瑠璃丸が。
気安く肩に手をかけられ、顔を覗き込まれても受け入れてしまう。
・・・?
今日の瑠璃丸は、やはりおかしい。
触れている背中から伝わる緊張。
顔が強張り、お師匠様から目を逸らしている?

「約束、させられてたから、な」
「うん、うん、えらいえらいゾ。
多少のアレコレは、なんとか耐え抜いたその忍耐に免じて許してやろうかな。
この件が済んだら満了だ」

良かったな!と、力強く背中を押され、瑠璃丸は苦笑い。
お師匠様は、女性にしては長身でモデル体系。
今の瑠璃丸よりも少し背が高い。
一見すると美人女子大生。
けれど、私の目には貫禄がありすぎていつも大きく見えすぎる。
約束が何なのかは、気になるが・・・今はそれどころではないな。

「お師匠様、まずはこの光と香りを・・・」

わかっていると頷き、くるりと教会に向き直る。

『かーごめ、かごめ
この地をかごめ』

透き通り、響く歌。

パンッと拍手一つ。
その音が波紋となり。
紋章を宿し。
教会から溢れる光と香りを、内側へと押し返していく。

『かーごめ、かごめ
この知をかごめ』

くるりと振り返り、教会の外側に拍手を一つ。
同様に、いくつもの紋章が空を駆け四方に散っていく。

紋章が飛んだ先では。
次々と波紋にとらわれた鬼や人が、記憶を深層まで閉じられているのだろう。

本当に、この方は、恐ろしい。
わずか一小節の歌が生み出す力。
その完成度の高さは、類を見ない。

息を呑む私に、お師匠様はにっこりと笑った。

あ。
やばい。

「さて、キョウイチロウくん。
光と香りは消してやった。
まだ中にたむろしている鬼どもは、任せてもいいはずだよナ?」
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