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到着
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電車やバスを乗り継ぎ、目的地近くのバス停にたどり着いたのは11時半を回ったところ。
右手のひらには、いつものように瑠璃丸の左手のひらが収まっている。
男同士でどうかとは思うが・・・野放しにするよりリスクが低い。
「‘鬼渡り’でいったほうが早かったのに、なんで今回ノリモン?
お迎えの傍に、探りに行かせた元鬼はおらんの?」
「鬼や角無し鬼を座標に移動する’鬼渡り‘では、いけないと言う話だ。
当主の契り鬼が離れているんだろう」
「珍しいなぁ。
いつもお迎え完了するまで、張りつかせとんのに」
瑠璃丸は、口ではそう言いながら既に話した内容から興味を無くしているのがわかる。
独り言として感想を述べ、どうかしたん?と、いつもより近い位置にある顔が首をかしげる。
170cm程しかない私と普段2mを越える瑠璃丸とでは、瑠璃丸に屈んでもらわないとこの距離に顔が来ることがない。
黒色に変わった髪が、サラサラ流れて目を奪う。
私と色違いの服装、なのに。
ここまで違うのか。
人を魅了するために、力と比例して整う鬼の容姿。
それは、私の契り鬼として角を無くした後も変わらない。
男性の黒い長髪が珍しいのもあって、更に人目につく。
ダボッとしたトレーナーに着崩した革ジャン。
麻布製の黒いズボン。
赤いスニーカー。
私が着れば大多数に紛れてしまう服装も、瑠璃丸が身に付ければ紛れるどころか目立ってしまう。
羨ましい、のだろうな。
人に化けても、瑠璃丸は惹き付ける。
但し、おかしな言動が追加されて目立つのはそろそろ控えてほしい。
ここまで来るのに、窓の外に流れる景色に歓声を上げ、大きな声で常識で知っているのが当たり前な質問を繰り返し、目立つ度に電車を乗り換えなければならなかった。
早目に出て来なければ、昼前には着かなかったな。
「なんや?
甘い臭いが急にし出した」
「急に?
なにか、あったのかもしれないな。
先を急ごう」
鞄からスマホを出し、マップアプリを立ち上げる前に瑠璃丸の手に引っ張られる。
「うようよそこらの鬼が溜まりだしとる。
京ちゃんのオシゴトは、お迎えやろ?
はよぅ済ませて、お駄賃貰おうっ」
走り出す瑠璃丸に引きずられる。
未だに、瑠璃丸の仕事への認識はその程度か。
瑠璃丸の走りに着いていけず。
息が上がり、足がもつれる。
「オレもお手伝いしたら、ご馳走くれる?」
弾んだ声になんとか答える。
「血は、明日にしか、無理だっ」
少しだけ、と言ったけど。
瑠璃丸のお願いを拒否仕切れず、一日の限度量を今朝飲ませてしまった。
これ以上与えたら、私が貧血で倒れてしまう。
瑠璃丸の走るスピードは、目立たないように力はセーブされているものの私にはついていけない。
何度もこけそうになり、その度に気を使わせてスピードが遅くなる。
人がまばらな通りを走り抜け、住宅街へ踏み入れる。
共働きが多いのか、人の気配がない。
「うん、わかってる」
瑠璃丸は、振り向かずに答えそのまま走り続ける。
いつもより、声が固いような・・・
思考をまとめる前に、目的地に着いたようだ。
鬼には、香り。
人の同族には、光り。
それぞれ違う形で存在を知らせてしまうーーー極上の鬼の糧。
特殊仕様の眼鏡で、何割か減らされてはいるが。
目的地の教会全体が、輝いて見える。
「輝きが、異常だ。
なんで今まで気づかれなかったんだ」
圧倒される光りに、瑠璃丸の背を盾にしながら門前まで進む。
「うわぁ、めっちゃ旨そうな臭いがする~」
「生唾を飲み込むなっ」
教会を前に、瑠璃丸は犬歯をガシガシ親指でかく。
食欲を抑えきれなくなると現れる、瑠璃丸の無意識なクセ。
私以外にするのは、初めて見るな。
しかも、今日は朝に食事を済ませたのに。
そんなに、迎えに来た人は極上なのか。
右手のひらには、いつものように瑠璃丸の左手のひらが収まっている。
男同士でどうかとは思うが・・・野放しにするよりリスクが低い。
「‘鬼渡り’でいったほうが早かったのに、なんで今回ノリモン?
お迎えの傍に、探りに行かせた元鬼はおらんの?」
「鬼や角無し鬼を座標に移動する’鬼渡り‘では、いけないと言う話だ。
当主の契り鬼が離れているんだろう」
「珍しいなぁ。
いつもお迎え完了するまで、張りつかせとんのに」
瑠璃丸は、口ではそう言いながら既に話した内容から興味を無くしているのがわかる。
独り言として感想を述べ、どうかしたん?と、いつもより近い位置にある顔が首をかしげる。
170cm程しかない私と普段2mを越える瑠璃丸とでは、瑠璃丸に屈んでもらわないとこの距離に顔が来ることがない。
黒色に変わった髪が、サラサラ流れて目を奪う。
私と色違いの服装、なのに。
ここまで違うのか。
人を魅了するために、力と比例して整う鬼の容姿。
それは、私の契り鬼として角を無くした後も変わらない。
男性の黒い長髪が珍しいのもあって、更に人目につく。
ダボッとしたトレーナーに着崩した革ジャン。
麻布製の黒いズボン。
赤いスニーカー。
私が着れば大多数に紛れてしまう服装も、瑠璃丸が身に付ければ紛れるどころか目立ってしまう。
羨ましい、のだろうな。
人に化けても、瑠璃丸は惹き付ける。
但し、おかしな言動が追加されて目立つのはそろそろ控えてほしい。
ここまで来るのに、窓の外に流れる景色に歓声を上げ、大きな声で常識で知っているのが当たり前な質問を繰り返し、目立つ度に電車を乗り換えなければならなかった。
早目に出て来なければ、昼前には着かなかったな。
「なんや?
甘い臭いが急にし出した」
「急に?
なにか、あったのかもしれないな。
先を急ごう」
鞄からスマホを出し、マップアプリを立ち上げる前に瑠璃丸の手に引っ張られる。
「うようよそこらの鬼が溜まりだしとる。
京ちゃんのオシゴトは、お迎えやろ?
はよぅ済ませて、お駄賃貰おうっ」
走り出す瑠璃丸に引きずられる。
未だに、瑠璃丸の仕事への認識はその程度か。
瑠璃丸の走りに着いていけず。
息が上がり、足がもつれる。
「オレもお手伝いしたら、ご馳走くれる?」
弾んだ声になんとか答える。
「血は、明日にしか、無理だっ」
少しだけ、と言ったけど。
瑠璃丸のお願いを拒否仕切れず、一日の限度量を今朝飲ませてしまった。
これ以上与えたら、私が貧血で倒れてしまう。
瑠璃丸の走るスピードは、目立たないように力はセーブされているものの私にはついていけない。
何度もこけそうになり、その度に気を使わせてスピードが遅くなる。
人がまばらな通りを走り抜け、住宅街へ踏み入れる。
共働きが多いのか、人の気配がない。
「うん、わかってる」
瑠璃丸は、振り向かずに答えそのまま走り続ける。
いつもより、声が固いような・・・
思考をまとめる前に、目的地に着いたようだ。
鬼には、香り。
人の同族には、光り。
それぞれ違う形で存在を知らせてしまうーーー極上の鬼の糧。
特殊仕様の眼鏡で、何割か減らされてはいるが。
目的地の教会全体が、輝いて見える。
「輝きが、異常だ。
なんで今まで気づかれなかったんだ」
圧倒される光りに、瑠璃丸の背を盾にしながら門前まで進む。
「うわぁ、めっちゃ旨そうな臭いがする~」
「生唾を飲み込むなっ」
教会を前に、瑠璃丸は犬歯をガシガシ親指でかく。
食欲を抑えきれなくなると現れる、瑠璃丸の無意識なクセ。
私以外にするのは、初めて見るな。
しかも、今日は朝に食事を済ませたのに。
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