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起床
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ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピ・・・
エンドレスに続く電子音。
目を閉じたまま、重い身体をなんとか起こす前にその音が消える。
「京ちゃん、起きた?」
布団越しにやさしく語りかける、少し高めのハスキーボイス。
「まだ、寝ぼけとるん?」
布団から、顔だけ出して。
ゆっくり目を開けようとするが、障子越しに差し込む朝陽に邪魔される。
「今日は、お迎えに行くんやろ。
はよ起きんと、間に合わんのちゃう?」
視界に入った陶磁器より白く、けれど武骨な足首に声の主を見上げた。
「瑠璃丸、か」
裸眼のせいで、ぼんやりと輪郭しか見えない。
黄色みがかった長髪が遠い。
手を差しのべると、いつものように手を合わせ、軽々片手で立たされた。
頭がふらふらする。
ぼやけていた視界に、人外と一目でわかる尖った耳と犬歯、人懐っこい瑠璃色の瞳が加わった。
「ほんまに京ちゃんは朝弱いなぁ。
外しか知らん人間どもが見たら、びっくりするで」
尖った爪で傷つけないよう、指の腹で優しく頭を撫でられる。
そうか、昨日連絡が入っていたな・・・
寝床から抜け出し、着崩れた襟と帯を正す。
「今日は、オレも行ったらあかん?」
身長差30cmを飛び越え、息がかかる距離で顔を覗きこまれ一歩後退。
過去の同行でのあれこれが、頭の中を過る。
「・・・上手く、立ち回れるのか?」
はいっと差し出された銀縁眼鏡をかけ、こちらから瑠璃丸を観察する。
朝陽を浴びた髪がキラキラ輝き、それにも負けない笑顔の輝きを見てしまうと、もう答えは決まってしまう。
好奇心に輝く瞳の無邪気さに、思わず口許が綻んだ。
「ちゃんと化けるし、あかん?あかん?」
腰まで伸ばした長髪を、指でくるくる遊ばせながらこちらを伺う姿は。
子どもが店先で御菓子をねだっているのと変わらない。
「迎え以外に寄る予定はないぞ?」
「うん、えぇよ」
屈託なく笑いかけられ、意識するより先に笑顔で返してしまった。
チリリン・・・
その尖った両耳につけられた。
赤い組紐の末で、わずかに揺れる鈴のピアス。
音は鳴らないはずなのに、私の頭の中でこだまする。
「京ちゃん?」
とっさに言葉が出てこなかった私に、手を伸ばしてくる。
力を抑制しながら、ふわりと優しく私の肩に右手が添えられる。
「何でもない。
付き添ってくれ」
違和感を悟られないよう、いつも通りを努めて冷静を装う。
「やった~
京ちゃん、おおきにっ」
抱き寄せられ、厚い胸板に直接顔を押し付けられ息が詰まりそうになった。
瑠璃丸は、息苦しいからと春から夏にかけては上半身は裸体のまま過ごす。
今日は、3月下旬。
暖かくなってきたので着るのをやめてしまったらしいな。
下は、相変わらずのワンパターン。
腰周りはゆったり、足首は組紐で結んだパンツ姿。
お金を使わずとも、意志一つで服を想像できる力を持っているのに。
宝の持ち腐れだな。
ファッション雑誌を何冊渡しても、全く変わらないこのスタイル。
ここ数年、私も見慣れてしまった。
「なぁ、少しだけならえぇかな?」
抱きしめていた腕の力を緩め。
左の首筋を指でなぞられる。
「時間もないから、少しだけだ」
首を傾けながら。
床におかれた目覚まし時計に視線を映す。
9時までに着替えと朝食。
迎えだけだと聞いているから、特に道具は必要ないな。
あとは・・・あれこれ考えている私を、瑠璃丸のもたらす痛みが現実に引き戻す。
ツプリと柔肌を刺した犬歯の痛みと。
それに続くのは、滲み出る血を味わう舌の艶かしい動きと音。
視界の端で、瑠璃丸の鈴ピアスが揺れる。
今日は、なにが起こるのか。
柔らかい瑠璃丸の頭を撫でながら。
すでに同行を許した時点で、平穏ではないなと諦めていた。
20181216 もなかさんから頂いた瑠璃丸イラスト
宝物が増えました(*´▽`)
エンドレスに続く電子音。
目を閉じたまま、重い身体をなんとか起こす前にその音が消える。
「京ちゃん、起きた?」
布団越しにやさしく語りかける、少し高めのハスキーボイス。
「まだ、寝ぼけとるん?」
布団から、顔だけ出して。
ゆっくり目を開けようとするが、障子越しに差し込む朝陽に邪魔される。
「今日は、お迎えに行くんやろ。
はよ起きんと、間に合わんのちゃう?」
視界に入った陶磁器より白く、けれど武骨な足首に声の主を見上げた。
「瑠璃丸、か」
裸眼のせいで、ぼんやりと輪郭しか見えない。
黄色みがかった長髪が遠い。
手を差しのべると、いつものように手を合わせ、軽々片手で立たされた。
頭がふらふらする。
ぼやけていた視界に、人外と一目でわかる尖った耳と犬歯、人懐っこい瑠璃色の瞳が加わった。
「ほんまに京ちゃんは朝弱いなぁ。
外しか知らん人間どもが見たら、びっくりするで」
尖った爪で傷つけないよう、指の腹で優しく頭を撫でられる。
そうか、昨日連絡が入っていたな・・・
寝床から抜け出し、着崩れた襟と帯を正す。
「今日は、オレも行ったらあかん?」
身長差30cmを飛び越え、息がかかる距離で顔を覗きこまれ一歩後退。
過去の同行でのあれこれが、頭の中を過る。
「・・・上手く、立ち回れるのか?」
はいっと差し出された銀縁眼鏡をかけ、こちらから瑠璃丸を観察する。
朝陽を浴びた髪がキラキラ輝き、それにも負けない笑顔の輝きを見てしまうと、もう答えは決まってしまう。
好奇心に輝く瞳の無邪気さに、思わず口許が綻んだ。
「ちゃんと化けるし、あかん?あかん?」
腰まで伸ばした長髪を、指でくるくる遊ばせながらこちらを伺う姿は。
子どもが店先で御菓子をねだっているのと変わらない。
「迎え以外に寄る予定はないぞ?」
「うん、えぇよ」
屈託なく笑いかけられ、意識するより先に笑顔で返してしまった。
チリリン・・・
その尖った両耳につけられた。
赤い組紐の末で、わずかに揺れる鈴のピアス。
音は鳴らないはずなのに、私の頭の中でこだまする。
「京ちゃん?」
とっさに言葉が出てこなかった私に、手を伸ばしてくる。
力を抑制しながら、ふわりと優しく私の肩に右手が添えられる。
「何でもない。
付き添ってくれ」
違和感を悟られないよう、いつも通りを努めて冷静を装う。
「やった~
京ちゃん、おおきにっ」
抱き寄せられ、厚い胸板に直接顔を押し付けられ息が詰まりそうになった。
瑠璃丸は、息苦しいからと春から夏にかけては上半身は裸体のまま過ごす。
今日は、3月下旬。
暖かくなってきたので着るのをやめてしまったらしいな。
下は、相変わらずのワンパターン。
腰周りはゆったり、足首は組紐で結んだパンツ姿。
お金を使わずとも、意志一つで服を想像できる力を持っているのに。
宝の持ち腐れだな。
ファッション雑誌を何冊渡しても、全く変わらないこのスタイル。
ここ数年、私も見慣れてしまった。
「なぁ、少しだけならえぇかな?」
抱きしめていた腕の力を緩め。
左の首筋を指でなぞられる。
「時間もないから、少しだけだ」
首を傾けながら。
床におかれた目覚まし時計に視線を映す。
9時までに着替えと朝食。
迎えだけだと聞いているから、特に道具は必要ないな。
あとは・・・あれこれ考えている私を、瑠璃丸のもたらす痛みが現実に引き戻す。
ツプリと柔肌を刺した犬歯の痛みと。
それに続くのは、滲み出る血を味わう舌の艶かしい動きと音。
視界の端で、瑠璃丸の鈴ピアスが揺れる。
今日は、なにが起こるのか。
柔らかい瑠璃丸の頭を撫でながら。
すでに同行を許した時点で、平穏ではないなと諦めていた。
20181216 もなかさんから頂いた瑠璃丸イラスト
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