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弥勒過去編(瑛二&白銀)
朝焼け 2
しおりを挟む二日、三日と日が過ぎて。
四日目の晩。
僕は、許してもらうことだけしか考えられなくなっていた。
「・・・瑛二」
帰ってきたら、謝ろう。
他の人間の血を口にしたこと。
素直に瑛二が欲しいと言おう。
そう、思って待っていたのに。
瑛二は、帰ってこなかった。
朝焼けに染まる空。
玄関にも、日が差し込む。
ついてくるなと、言われていたけれど・・・待てない。
僕の身体に異変はない。
だから、死ぬという最悪の事態ではない。
そう、気持ちを落ち着けないと、今の僕は何をしでかすか分からない。
もとから時間のかかる討伐だったのか?
それとも、負傷したのか?
何も教えてくれず、あの日から情報さえもらえない僕には分からない。
いつもは僕から避けている人間を。
今朝は僕から捕まえに行く。
耳を澄ませ、声を拾う。
「今日は、天気がよく・・・」
「最近は当主も・・・」
「今朝の野菜はイマイチ・・・」
「昨日の討伐は・・・」
取捨選択で、必要な声を捉え、その出所まで飛ぶ。
いつも、僕が出入りしない、裏方の場所へ。
台所にたむろしている人間の前を横切り。
使用人の休憩所まで一足飛び。
「おい、お前」
突然現れた僕に、怯える目、硬直する身体。
その場に居合わせた5人は身動き一つ取れない。
「昨日の討伐について、簡潔に報告しろ」
黙ったままの人間に、苛立ちを隠せない。
睨みつけると、そのうちの一人の口が開く。
「あ、あの、討伐は・・・」
「バカヤロウ!
角無しに何も言うなと利一・・・」
途中で入った馬鹿の身体を、壁まで飛ばす。
悲鳴が上がり、物が落ち、壊れる音がしても僕には関係の無いことだ。
対象を睨むだけで、今の僕は人間を傷つけることが出来てしまう。
「続きを」
残りの四人の喉が、緊張でゴクリと鳴る。
「と、討伐は、成功。
死傷者が出たため、遅れて、き、帰還すると」
「ふ、負傷者の中に当主がおられると」
「重症では、ナイと聞いています」
「よ、予定では、もう着く頃かとっ」
人間のあわてふためく様子を見ても、溜飲が下がらない。
冷たく見下ろし、精々怯えろと笑ってやる。
「ご苦労」
情報は、得た。
その場からすぐに去る僕。
このことが、僕をただ排斥しようとしていた人間の目が変わるきっかけになった。
僕が何もやり返さないから、甘く見ていたことを自覚し線を置くようになった。
死にはしなかったようだが、しばらく入院するくらいの怪我を負わせたらしい。
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