鬼ごっこ～あのこがほしい～

弥勒過去編(瑛二＆白銀)

新学期 ３

願いむなしく・・・

「瑛二・・・それ・・・」

帰宅した瑛二の制服は、一日にして汚れていて。
顔にも殴られた跡。

「あっちから絡んできたんだ。
俺から始めたわけじゃねーよ。
ったく、弱いくせに吼えてくんなって話だ」

ベストを脱ぎ、ネクタイを外す。
心身ともに、疲れているのがよくわかる。
やっぱり、瑛二には合わなかったか。

高校一年生の二学期。
転入するには、すでにスクールカーストが出来上がった時期。
しかも、神宮寺家の権力の縮図。
人格や能力より家で判断される学校だ。

弥勒家は、神宮寺家の中でも孤高の武道派。
何もなければ、どこにも属さず学校でも一目置かれている家。

「弥勒の者も、同じクラスに配置されていたか？」
「あぁ、何人かはいたけどな。
手を出すなって、止めた。
弥勒家というより、俺に喧嘩を売ってきたからな」

俺、じゃない。

僕だろう？

分かっていても、言葉にはしない。
鬼落ちし、角無し鬼となった僕がいるせいで。
弥勒家の価値は下げられている。
瑛二には、迷惑をかけてばかりだ。

「お前、なんて顔してんだよ？」

頬に触れられ、笑ってみせる。

「バーカ。
笑えてねーよ。
言っとくけど、こんなことぐらいでまたハンスト起こすなよ？」
「・・・だが」
「起こすな！
俺が生きている間は、白銀も生きろ。
俺は、お前と生きたいんだ」

僕を映す双眸に、心まで掴まれる。
僕だけを映す瑛二の瞳。
僕だけを、もっと映し・・・あ、ぶないっ
迫ってくる唇に慌てて顔を上げる。

し、心臓が痛い。
バクバクと強く、大きく、跳ねている。

「・・・避けんなよ」
「避けるよ」

避けないと、ダメだろう。
僕は瑛二の顔を見ずに、そのまま制服を手に逃げ出す。
瑛二から、何を求められているのか。
いくら色恋沙汰に疎い僕でも分かっている。
ダイレクトに、抱くといわれ。
今みたいに見つめられ。

僕は対応に困る。

イヤだと。
拒絶できない自分に困る。
困りすぎて、それに応えたい自分が出てきてしまう。

僕がもし、その手を取ってしまったら・・・
そんな仮定でさえ、今の身体は期待に震える。
瑛二に求められることが嬉しくて。
そのまま、僕だけの瑛二にしたくなる。

瑛二が思っている以上に、鬼は貪欲に出来ている。
これ以上、煽るのは止めてくれ。