ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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38 記憶 side 陸

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渡の腹が収まり覚悟が決まるまで、床に敷いていたクッションからソファーに座り直して互いの小さかった頃の話を続けた。
つっても、まぁ、渡が楽しそうに話してんのを聞いてるほうが多かったんだが。

暫くすると話題が途切れ、渡が次の話題に移らず無言になった。
緊張を解すように、膝の上で掌をモゾモゾ開いたり閉じたり繰り返していたんだが、焦らすことはねぇと俺は気付いてないふりで窓の外へ視線を逸した。

そこにあんのは、紺碧の空と色を変え始めてる葉を茂らせた木の群生。
昨日は渡に乞われ、この森と繋がってる変異種Ωに変えてしまったあの場所にも行った。
さすがにきっかけとなった場所だ。
渡も今はこうして受け入れてても、思うところはあんだろうし感傷に浸って気持ちが沈むんじゃねぇかってな。
番になるまでは、正直木の実を一緒に食べた秘密の場所にも連れて行きたくは無かったんだ。

思い直すとか、今の都合の良すぎる関係を壊す言葉を言われたくなかった。
どのタイミングで何を言われても、受諾するつもりではいるが言われたいわけじゃねぇからな。
わざと言われそうな場所は外して案内した俺の弱さを「大好き」の言葉で包み込み、狡さなんざ蹴飛ばすように渡は着いてもテンション高くはしゃいでいた。
あのとき起こったことを話しても笑顔を絶やさなかったし、なんか写真撮影にも力を入れてたよな。

あれからあそこに行く度、若干の後ろめたさと会えないまま終わる強い焦燥に駆られていた。
そんな場所で「ここが俺と陸の運命の場所やな」と、笑う渡の強さに頭が痺れた。
一生敵う気がしねぇが、一生この笑顔を守るんだと固く誓った。
この渡らしぃとこを、俺が変えるわけにゃいかねぇだろう。

一秒でも早く抱きてぇし、番にしたいのは俺の都合。
もう手放す気はねぇんだから、渡を待つのは苦でもねぇ。
抱く側が抱かれる側に回るなんざ、何度も覚悟を決め直さなきゃやれねぇだろうし、覚悟があっても二の足を踏むもんだろう。
俺なら想像すらしたくねぇことを、渡は俺が相手だからと予習までしてきてんだ。
こんだけ渡が俺の番になると言ってくれてんなら、つい後ろめくなっちまうのはやめにしなきゃな。

そんな考えを引きずんのは、渡の番に相応しくねぇ。

あぁ、そうだな。

渡の自覚がねぇとこで、求愛給餌特化型の俺に合わせて頼子さんや道成さんが食いもんの好き嫌いを無くしたり、料理を覚えさせたり、偏ってはいるが番やそれに纏わる知識が身につくようにと手助けしてくれてた。
渡が自覚してからは、自分で俺に抱かれるために予習までしてくれてる。

なのに、俺がしてることといえば、いつか現れる俺のΩ、渡と想定してない誰かを優しく抱いてやりたいとか、自分が作った飯を食わせたいとか独りよがりなことしかしてねぇ。
俺、渡のために何一つしてねぇわ。
改めて思い返し、情けなさに自然と眉間にしわが寄る。
なにやってんだ、俺は。

クイッ

不意に服の裾を引っ張られ、振り返ると目の縁まで赤く染まった渡が泣きそうな顔で話しかけてきていた。


「れ、練習、しよ?」


声を振り絞った途端、「う~、恥ずかしいっ」と胸に頭突きをかまされた。
その衝撃を嗤って受け止め、ワシャワシャ頭を撫でまくる。

あーもー、なんつー可愛い誘いしてくんだ、俺のΩはっ
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